027:青ゴブリン、森で昼飯

 ◇

 

 ど~も、ジンジュです。

 ボス猪こと、「レッサー・ファイティングボア」を倒したとこです。


 貰えるもんは全部もろた。ボス猪の頭部は、俺の大盾にくくりつけてある。


 ……え? 「そのひもはどこから」??

 彼の腰から。何でコイツ赤ふんどしなんかしてんだ…… ???



 一足先で、はったむさしさんと従魔の小烏クロウくんが待っとる今、もうここに用はない。


 ……いや待て、あと1つだけ。


「周りのこの光の壁さ~、名前とかあるん?」

「「不思議な壁ワンダー・ウォール」」

「へぇ~……まんまやな?」


 ボーゼとえすとっきゅーにいたら、たった一言。妙な名前やな。

 これって、誰かの感想ですかね?


「よっしゃ、ほな行こか」

「「了解りょーかーい」」

「ぴすぴす!」


 来たほうと反対側の、光の壁をすり抜ける。3人と兎3羽の全員が出たとこで、光が消えた。


「……うおぉ !? 【ガード】!」


 ……そこで、膝から崩れてけた。とっさに大盾を手放して、受け身をとる。

 両腕、ひじから先が地面についた。


「ヒィ~あっぶな、急にちから抜けた……?」

「あーせや、反動来るんやったな……」


 とりあえず起きて、地べたに座り直す。


 〈下剋上〉スキルの、バフの反動らしい。いわゆるデバフ状態。

 動けるけど、だるい。風邪ひいた時みたい。

 でも熱とかせきとかはないから、何か変な感じ。


「カァ」

「お疲れー! ……大丈夫かオメーら・・・・?」

「ゑ」


 向こうから来たはったさんに言われて、周りを見る。

 橙色と牛柄の小兎ダイスくんととがのも、だるげな顔で地面にへばりついてる。


「ぴすぴす?」

「……ふす」


 横から、黒い兎レティシアさんが2羽に話しかけとる。

 2羽のほうも反応早いから、まだ動けるけどだるい、て感じみたいやな。


 あ~よかった、これで安心して寝れる……わけやない。知ってた。


「……元気しとってか?」

「見りゃ分かるだろ !? 」


 ボーゼの一言に、はったさんのツッコミが飛ぶ。

 黙っておこう、ツッコむ気力ないし。


「で、後どうするー?」

「腹減ったぜ、飯にしねぇか?」

「「「了解~」」」

「ぴす !? 」

「ふすふす!」


 飯の話になった途端、3羽がすっ飛んできた。元気そうで何より……



 ◇


 じゃあ、例の携帯食料レーション(レーズン味)とリンゴ、解体用の短刀を用意して。


 使い方は簡単。リンゴを縦半分に切って……お、みつ入っとる! ラッキ~。


 片方は保存。

 もう片方は種取ってから、さらに半分こ。

 とがのにあげるほうを細長く刻んだら、あとは食べるだけ。



 ……え、草? その辺の適当に食うでしょ、この子(ぶん投げ)


 とか言ってるうちに、皆さん準備できたっぽい。

 携帯食料とか、にんじんスティックとか千切りキャベツとか。ほな早速……


「「「「いただきまーす!」」」」



 美味うま~い。安定のレーズン味。


「そっちはどない~……て何しとん !? 」

「……ふす?」


 とがのを見たら、短刀めてた。しかも下から、刃のほうを……



 怖っ……



 いわゆる“狂人アピール”とは違う。兎だから無表情で、淡々とペロペロしてる。



 いや、それもっと怖いやつ……。



 声かけたらゆっくり顔上げて、首をかしげる。


「何か? 味ついてて美味おいしいよ ??? 」


とでも言わんばかりに。


「いや離れて? 怪我ケガするで ?? あと本体こっちやし」


 言いながら、リンゴの細切りを差し出す。とがのはすんすん、て匂いいでから食べ出した。

 小っちゃくシャリシャリ……て音がする。


 素直ないい子でありがたい。けど、この子もきもわりすぎじゃね?

 やめて、俺が臆病者みたいじゃん。



 いや、臆病者だけどさ……



「えすとさ~ん、これの【洗浄クリーン】お願い」

「はいよー、【洗浄】っとー」

「あざ~っす」

「洗浄カメラマンのボーゼで……」

「「やかましわ」」


 彼のボケは置いといて、短刀をしまう。

 ほな、飯の続きや~。リンゴを一口かじってみる。

 “しゃくっ”……ええ音やな。


 あ~……酸味強いやつか~。でも蜜入っとるし、甘味は充分?

 甘すぎず酸っぱすぎず、ちょうどええんちゃう? お子ちゃん以外には。


 で、風が吹いて、木の葉がわさわさ~……て揺れる音が聞こえる。


 ……まさかの黙食もくしょく


 いや、しゃ~ない。

 普段「ぴすぴす!」て元気なレティシアちゃんが、一心不乱に千切りキャベツ食うとる。

 ダイスくんの前のにんじんスティックも、とがののリンゴもガンガン減っとる。

 クロウくんはイワシの頭をつついとる。



 ……ん !?



「ゴブリンにイワシの頭て、効かんもんなんすか……?」

「クア?」

「何だそれ? 初耳だぜ」

「……あ、節分の玄関飾りにして鬼け、てやつやっけ?」

「それそれ~、ウチやったことないけど」

「ウチもない。あれくっさいし」


 生々しい意見やなボーゼ……どっかで見た?


「……それこそ“なんとかも信心から”ってやつじゃねえか?」

「「「それはそう」」」


 話振っといてあれやけど、何の話しとんやろ……?

 まあ、たまにはええか……こういうんも。



 ◇


「「「「ごちそうさまでしたー!」」」」


 “挨拶は大事”……古事記にもそう書いてあるねんて。知らんけど。

 俺の知っとる『古事記』と違うらしいし。誰ぞを腰まで埋めたら、目ん玉飛び出てんでもた……みたいなんとは。



 何やこの、カスみたいな話…… !?



「……で、結局その生首は何だよ?」

「「「せとった……」」」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る