034:青ゴブリン、高みの見物

 ◆


 丸い石造りの塔の中。時計回りに上へ延びる、薄暗い階段を上る。

 はばあるから、ギリギリ3人横並びで歩けそう。けど、左に寄って縦1列だ。


 はい、こちらジンジュ。ログアウトする前に、ちょっと寄り道させて~。



 ◇


『ラ・ボスケ魔導国にて、スライムの大発生および大移動が確認されました』


 そんな神のお告げワールド・メッセージから数週間。彼らの一部が、ついにこのアインツ市に来る。



「……へぇ~、そんなんあってんな。知らんかった」

「「せやろな」」


 リアル2日でこっちの1週間……らしいから、俺がゲーム始める前なんやわ。


 で、スライムの大群を見ようと、ながめの良さそうな所に人が集まりだした。皆さん考えることは一緒か。

 ここ「アインツ大聖堂」も、その1つだ。



 余程よーっぽどおもろいんやろな~。みーんな期待してるで~ !!



「ほな行くコ」

「「あーい」」

「ぴすぴす!」


 友達のボーゼ・えすとっきゅーと3人で、大聖堂へ向かう。それぞれ、相方の小兎ミニラビットかかえて。


 噴水の広場からすぐ、建物に入る。3~4階分ぐらいの広い吹き抜けに、大量の椅子いすが並んでる。

 礼拝堂れいはいどうだ。


 正面いちばん奥に、4人の女性の像。白い修道服に、その身長差は~……左から順にシトリー様、東の街イースの像の人、知らん人、知らん人。

 ようは女神像だな?


 そんな礼拝堂に入ってすぐ、左に曲がって、突き当たりの階段に出る。


 ……あら~ッ、おがむ暇ないやん !?


 で、この階段室、もう鐘楼しょうろうの一部なんだって。時間になったら鳴るかねが最上階にある。

 そのすぐ下の階が、展望室として一般開放されてるんだとか。


 薄暗い塔の中は、床も壁も階段も石むき出し。殺風景な吹き抜けの上の方に、夕陽ゆうひらしき光がし込んでる。

 その上に見えてる丸いのが、鐘か。


 柱は見当たらない。地震とか来ない感じかな?


 時計回りに上へ延びる階段は、意外と幅がある。

 壁と、反対側の手すりの間に3人横並びでも、ギリギリ通れそう。やらないけど。


 降りてくる人と余裕持ってすれ違うには、お互い縦1列が正解だ。

 違うか? 前の横1列さん ???



 ◇


 階段7周したかな? 目的の階まで来た。

 階段はもう1周ぶん続いてるけど、縄が張られてて通れない。で、その縄の真ん中から、「STAFFスタッフ ONLYオンリー」と書かれた紙がぶら下がってる。

 関係者以外入んな、だってさ。


 あと、展望室への出口の脇に、修道服の男女が立ってる。


「「「こんにちは~」」」

「こんにちは。展望室はこちらです」

「ごゆっくりどうぞ」


 ……おわまぶし! 夕陽ゆうひし込んでる。

 でも西側だからな、そっち見ておかないと。



 はい、ほなアインツ市の、高い所から失礼しま~す。

 石造りの町並みで、白、黄色、灰色の建物が多いんやけど……


 上から見たら印象変わる。意外と屋根が彩り豊かカラフルだ。

 白、黄色、灰色以外に、オレンジ色とか黒、茶色もある。


 んで、中央広場から8方向に延びる大通りをじくにして、街が放射状に広がってるのが分かる。

 まっすぐな道が多いから、計画性の高さも感じる。


 方向性は違うけど、なんか○都っぽい……○阪みたいにゴチャついた感じはない。



 ところで、「アインツて何か変やな~」ておもとってんけど、謎けたわ。

 どうもここ、“商業に特化した街”みたいや。大工場も、イースみたいな広い農地も見当たらん。

 そら変やわ……


 で、街の外ぐる~っと見渡して分かった。やっぱ川少ない。てか大きいの一本だけ。


「えらい所に街こさえたな~」


 おっと~、ひとごとれた……



 街の周りをぐるっと囲む、石造りの城壁。その外側はまず草原、次に森、以上……て感じ。

 例外的に、街の東西南北にまっすぐ延びる街道の石畳。

 あと西側にだけ、謎の巨大建造物と、南北に流れる大きい川もある。まあでもそんなもん。


 で、大きい川て言うても、幅とか知れとる。地元の○川のほうがデカそうや。そら水足らんわな。



 ……ん !?


「謎の巨大建造物について、もうちょい悔しく」


やて?

 ……チクショ~ッ、やりゃあいいんだろやりゃあ !?


 街の西側、森に入る手前に、例の川が流れt……だぁクソッ、行き過ぎたッ !!


 街の西側、門を出てすぐ。

 街道の右手、つまり北側に面して、石造りっぽい平屋の巨大建造物がある。


 ……これ以上は俺にも分かんねぇんだよ!



 だが俺には仲間が…… 仲゛間゛が゛い゛る゛よ゛…… !!


「お2人さんお2人さ~ん。あの門の外のバカデカいん、何~?」

「あれかー、初心者向けの即席インスタンスダンジョンやてー」

「へぇ~……情報源ソースは?」

○清・っしーん

「焼きそばの話違うね~ん……」


 えすとに期待した、俺がアホでした……

 交代チェンジで。


「運営の更新アプデ解説動画で、その話もしとったわ」

「ほな公式?」

Yesイェス. アインツ周辺混んどって狩りでけへん! ……て時に使え、ってよ」

「りょ~か~い」


 ……だそうです。

 ボーゼ=サン、ドーモアリガトウナノダ!



 ◇


 図鑑で読んだ話やと、“ファンフリ”のスライムは一種の究極生物らしい。

 実際、こないして上から見とったら、その異質さがよ~分かる。


 下手へたしい、俺ら異人プレーヤーより賢そうや。



 時折、赤や青の光が漏れる西の森。そこから、半透明の水玉たちが姿を現す。

 本日の主役、スライムだ。暗くて、色までは分からない。


 彼らはまず、川を渡る。この渡り方からして違う。


 上空には鳥たち。水中には魚たち。そして街道沿いや対岸では異人たちが待ち構える。

 それぞれ、腹なり経験値なりの足しにするつもりみたい。


「ワカリヤス~イ!」

「……ふす?」


 失礼、また独り言や。



 川渡りたいけど、周り敵だらけなスライムたち。

 ならどうするか?


 幅の広いあの川でも、両岸が近づく所はある。ここから見える範囲内だと3ヶ所。そこに、スライムらが集まってる。

 それぞれに、鳥やら異人やらが攻撃しだした。


 けどスライムらも負けてない。

 お返しとばかりに触手伸ばしてはじいたり、【火の魔球ファイア・ボール】撃ち込んだりしてる。


 真ん中の地点で、1匹が青く輝く光の球を頭上に出した。〈水魔法〉の技、【水の魔球ワダー・ボール】だって。


 で、その上に飛び乗って、魔球を動かした。鳥や異人らの集中攻撃をひょいひょいかわしながら、あっさり対岸に着く。

 そこに向かって、が倒れかかっていく。


 ……いつの間にやら、何十匹ものスライムらが、お互いを触手でがっちり固定しあって塔を建てとった。


「キマシタワー」

節子えすと、それなんか違う」

「スラの斜塔しゃとう……いや何でもないで~す」

「「縁起悪い!」」


 倒れる塔の先頭の子と、対岸一番乗りの子が、それぞれ触手を伸ばす。

 無事キャッチ、軟着陸して、ここに「スライムの橋」が架かる。


あったまええな~……」

「「せやなー……」」


 素晴らしい連携。異人も鳥も見習うべきである。


 ……無理か。そら残念。

 あとは残りの子が渡りきるんを待って、回収するだけ。


 残りの2地点でも、ほぼ同じやり方で、スライムが川渡ってる。

 ただ、先に渡る子が5匹に増えてて、鳥やら異人やらに反撃もしてた。


 そんなスライムらが、西から平原を跳ね回りはじめる。大群がどんどんバラけてきて、3~6匹のグループが見えてきた。


 街の西側の平原が、どんどんスライムのグループで埋まっていく。といっても、自分から「先客」に襲いかかる愚か者はいなかった。


 縄張りを主張するオスの小兎ネズミどもは、触手ではたかれて追っ払われる。

 それでもしつこく食い下がれば、ゴクンと丸飲みされた。

 腹を空かせた茶狼の群れイヌどもも、逆に飲み込まれていく。


 ほんで焦った異人の皆さんも、魔法ばらまかれて返り討ちにされとる。わ、すごい……綺麗な十字砲火ろとんのぉ~!



 ……やっぱ自称「賢い猿」ニンゲンは愚か。時代は亜人、かな?



「ん~……見るべきほどの物は見つ。今は帰宅せん」

「急に『平○物語』!」

「中身普通かー!」

「まあそらな~、普通科の高校生やし」

「「関係ないやろ」」


 ツッコミありがと~。



 ◇


 で、階段降りながら、ボーゼがいてきた。


「お前ら今日、夜の部パスやっけ?」

「すまんな~。明日の午前中、用事やからさ~」

「俺も部活やしー」

「OK. ほな動画でも作るか」


 兎3羽をえすとの【送還】で帰して、本日終了〜。

 明日は昼からやて。



「「「ほなまた~」」」



――――――――――――――――――――

【追記】

 お読みいただき、ありがとうございます!


 書き溜めが尽きましたので、不定期更新に移行します。

 本編は8/8(金)頃に更新する予定です。


 引き続き、『かんぶい』をよろしくお願いします m(_ _)m

(2025/08/03)


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