026:青ゴブリン、ボスに挑む

 ◇


 安全地帯から、もう四~五十分くらい歩いたかな?


「へっへっへ、集めた集めた~!」


 麻袋あさぶくろを1つ、収納袋に押し込みながら言った。

 中身はこぶしだいの半分ぐらいの石、20個。


 ゾンビジシの後、ブラウンウルフ1頭と戦って、ここまで来た。

 4人と4羽で叩きのめしちゃったから、ちょっと気の毒……


 その間に、結構ゴロゴロ転がってたんよな~、石。


 ……まあ、形が悪くて投げにくそうなのだけ、集めてんだけど。

 妙に多かったから、「ザいけ」さん被害者の遺物いぶつかも? と思って。


「ブラジルの人?」

「……へ?」


 ボーゼがまた、わけの分からないことを言いだした。


「いやほら、ブラジルのネットスラングで“HUEHUEHUEふぇふぇふぇ”て笑い声あるやん?」

「「お前は何を言っているんだ……?」」

「知るかそんなも~ん !? 」


 ボーゼの言い訳に、まずえすととはったさんがツッコんで、俺も一言。

 何だそれ? どこで何しようとしたら出会うんだ、そんな言葉…… ??



 ま、そんな話は置いといて。

 森の中をもうちょっと進んだら、なんか半透明に光る壁がある。


「ん~……何やこれ~?」


 そこに右手を近づけた。

 指先が壁に触れた瞬間、いつもの通知音が鳴る。ぴろーん! っていう、能天気そうな音だ。


《アインツ東郊「獣の森」の主の縄張りボスエリアです。ボスと戦いますか?

▶️戦う

 やめておく

 ※ボスに勝てば、この先へ進めます》


「ボス戦やて、どないしよ~?」

「保留しとけ、回復が先や」

「りょ~か~い」

「ほなー、【光の癒しライト・ヒール】」

「「「あざ~っす」」」


 で、えすと特製「中級(?)MP回復薬マナ・ポーション」100mlを一気飲み……めちゃっぱ!

 安定の梅干し味……


 ……HP、ほぼ満タンだな。じゃあ行きましょ~。



「カァ !? 」

「……あっゴメン、俺ら入れねえわ!」

「「「マジっすか……」」」


 はったさんと小烏クロウくんが、光の壁に

 ボスへの挑戦権、“3勝するまで”って回数制限があるんだって。それ使い切っちゃったんだそうで……


「あっちで待ってるぜ。頑張れよ !! 」

「カァ !! 」

「「「は~い」」」



 ◇


 白っぽい光の壁をすり抜けると、木々と光に囲まれた、四角い荒れ地に出た。

 ……と思ったら、あぁ~っ……体が勝手に、歩いていくよ !? ゲームか !!



 そういえば、これゲームだったね……



「……あっ止まった、びっくりした~!」

「2回目やけど焦ったわー……」


 えすとと喋ってたら、ドスドスドス……って重低音とともに、地面が揺れだした。揺れも音も、段々大きなってくる。


 来るぞ、とても大きな何かが……


「ぴすぴす!」

「ふす !? ふす !!? 」

「……ぷう ?? 」


 3羽の兎とがのらも落ち着かないみたいだ。

 ……とか思ってたら、音が止んだ。この間、約10秒。


 で、向かいの壁にヌッ……って、黒い影が写る。

 影が光をすり抜けて来て――


《アインツ東郊「獣の森」のボス「レッサーファイティングボア(♂)」と交戦中です》


「ブゴォォォォォ !! 」

「えぇ~……」


 現れた二足歩行のシシ、高さ2m超え。泥と獣臭さを合わせた匂いがする。

 割と不快。


 で、ボス猪は雄叫おたけびを上げながら、器用に右の前足を曲げた。「かかって来い!」のポーズ。


 猪って、体重1tトン超えてくるんだっけ? 大きいやつだと。

 それをあの、ほっそい後ろ足2本で……頑丈だな!

 しかも空手の“型”っぽい動きもしてる。



 な~な~、俺にその身体能力分けて~ ??



「……着ぐるみか? おちょくっとんけお前ワレェ ??? 」

「「口悪ぅ……」」


 声に出てた……


 あと、【鑑定】結果が出た。【鑑定】してないけど。

 ……知ら~ん……何それ~……怖~……


―――――

レッサー・ファイティングボア(♂) Lv.18[交戦中]

(分類)魔物/動物型

 アインツ東郊「獣の森」のヌシ。異常成長した猪。

 戦えないなら、遠ざけるべき相手である。体格と重量を活かした格闘にすぐれる。


 HP:100%   MP:100%

―――――


 とりあえず、まずは大盾構えて、向こうの攻撃を受け止め……れるわけない!


「【着火バーン】、【受け流……っぎゃ !? 」


 ドゴゴシャアッ !! みたいなエグい音立てながら、ボス猪は右へ。さすがやな、受け流しきれん。

 それとありがとう、〈下剋上〉。おかげで踏ん張れる。

 でもそれはそれ、これはこれ。


喧しいわじゃかまっしゃ~! 加減せえボケ~ !! 」

「「理不尽な物言い……」」


 何か言ったか? まあ後でな。

 猪はずっけて、兎3羽に殴る・蹴る・噛むなどの暴行を受けてる。


「足や~! 後ろ足を狙えッ !! 」

「ぴすぴす!」

「……ふす」


 あれ、とがのが飛び退いて、づくろい……?

 ……あ、猪の匂い付けてんのか!



 いや何で ??



「……ぴすぴす !?」

「ブルルルルル、フンッ !! 」


 残る2羽を振り払って、ボス猪が今立ち上がる。戻ってくる……いや走ってきたな~。


 ってなわけで、出ました麻袋。足元に石、ぶつけてやる~!


「でや~ッ !! 」

「ブゴォォォォォ !?」


 けきれず、石に当たったボス猪が、前につんのめる。

 その鼻先めがけて、また石を投げる。


「フンッ! 【着火】」


 焼け石を食らえ……!


 あの動物図鑑によると、ボアの弱点は鼻と足。

 これに、獣としての急所:首とか胸元(心臓)なんかが加わるとか。


「ブゴォォォォォ !! 」

「ぴすぴす!」

「ふす!」


 ボス猪が、まさに。転けた鼻先に焼け石を食らったら、まあそうなるわな……

 そこにまた、3羽が飛びかかって……今度は橙色の小兎ダイスくんが飛び退いた。匂い付けだ。


「ふす! ふす !! 」

「ぴすぴす……」


 遅れて、2羽も飛び退く。ってことは、大盾構えて……


「ブオォォォォォ!」

もう1回もっかい、【着火】、【受け流し】……っぎ!」


 ゴゲシャア! みたいなエラい音を立てながら、ボス猪は左へ。

 ……さっきより近いからかな? ギリ受け流せる重さだった。


 あっ、木に当たって……木ごと向こうに倒れた。

 木の先端、光の壁を通れるんだ……


「ッシャア! どつき回せ~ !! 【ガード】、【叩きつけ】……っごぉッ!」

「ブゴォッ !? 」


 倒れたボス猪を追っかけて、その上に、盾ごと倒れこむ。

 でもあっさり押し退けられた。向こうのHPはあと3割強……強い。


 そこに、3羽が来た。


「ぴすぴす!」

「ふす! ふんす!」

「ブォォォ……!」


 ボス猪の後ろ足に、またまた殴る蹴る噛むの暴力が加わる。振り払おうとする後ろ足の動きは、もう弱々しい。


 ……ん? 口開けた、ほな石詰めたろ。


「ボガ !? バゴゴガ……」

「【火の魔球ファイア・ボール】、【叩きつけ】、だあぁ~ッ !! 」


 大盾の底に魔法つけて、さっきの石を殴る。“CRITICAL!”、いただきました。


「うわー……えげつなー……」

「あぁ……必殺の【咆哮】が……」


 ……何か言った?


《アインツ東郊「獣の森」の主「レッサー・ファイティングボア(♂)」を討伐しました。以下の条件が満たされています》

《「獣の森」以東との行き来が可能になりました》

《討伐報酬として、SPスキル・ポイント:3を獲得しました》

《Lv.7になりました》

《〈防御〉〈受け流し〉〈下剋上〉〈筋力強化〉以上4スキルのレベルが上がりました》

《従者「とがの」がLv.7になり……》

《とがのの〈噛みつき〉〈蹴り〉〈下剋上〉以上3スキルのレベルが上がり……》

《「とがの」が〈蹴り〉の技【回し蹴り】を取得しました》



 通知の山は置いといて……まずは気をつけ、礼……!



 ◇


「お疲れー、俺ら出番なかったな」

「……あれ? 祈らんの ?? 」

「せやな。彼にはまだ役目があるっぽい」

「「……はて?」」

「あれ見てみ」


 今は亡き、ボス猪のほうを指さした。すぐそばで、3羽が毛繕いしとる。

 ここで仮説が1つ。ボーゼに聞いてみy……


「げぇ臭っっさ !? 【洗浄クリーン】したらな……」

「待て落ち着け~! あれも関係あるから !! 」


 えすとの腕引っ張って止める。あっぶな~……


 じゃあ2人に聞こう。


「“ボス猪の毛皮を身につけたら、魔物けになる”とかって話ある~?」

「あー、あるある」

「やっぱり~?」

「せやな、掲示板で見た……あ、おんなしことしとんか?」

「そうそう、あの子ら賢いよな~」

「あぁ……まあな」

「なるほどなー……」


 あれぇ? 反応悪いなぁ……


「……魔物除け、なんか裏でもあるん?」

「アレここのボスやろ? ほなボスの座を狙う“ライバル”がおるよな」

「やろな~……あ、強いのがケンカ売ってくる、てか?」

「せやな」


 一旦そこで言葉を切って、ボーゼが面倒くさそうに吐き捨てる。


「しかも猪だけやない。ベアとかウルフとかも来るで」

「うわマジか~、邪魔くさ……」

「まあその代わり、数は減るし、鈴とかでさらに追っ払えるからな。正解っちゃ正解やねん」

「そーそー、”ボス倒して疲れとるとこ”狙たみたいに、群れで来やがるからな。特に狼」

「ホンマか~、えげつな~……」


 つくづく思う。難儀なんぎなゲームだな~……



 ◇


 あとはいつも通り、【光の癒しライト・ヒール】かけてもらって、解体して……


「どわ~ッ血 !? 」

「「またこれか……」」


《以下のアイテムを入手しました。

 ○レッサー・ファイティングボアの肉(中)×2

 ○レッサー・ファイティングボアの首(中)

 ○レッサー・ファイティングボアの皮(中)

 ○レッサー・ファイティングボアの魔石(微小)》


 ……はい ?? 生首ぃ~ ???


「「レアアイテムや…… !! 」」

「えぇ~……ホンマけ……?」


 誰ひとり、1mmミリも喜べない。どうしよう……?


「……あ、とりあえず【鑑定】」

「「せやな」」


―――――

レッサー・ファイティングボアの首

 (分類)食材/素材

  異常成長した、猪の生首。

―――――


 説明それだけ !?

 怖いよ~、助けて !!


「これ、埋めなアカンやつ?」

「いや~……多分その前に、アレせなあかんやつ……」



 “道”って漢字の由来、知ってる?


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