RAID

invasion

 α市内 『コーポわかな』203号室 八月一日 午前二時


 大学生の山本凛やまもと りんは、玄関越しの声に起こされた。


「凛?」


 チャイムが鳴る。


 凛は、帰宅したままの夜遊び用の格好で、玄関に向かった。


 ドアスコープを覗くと、友人の三浦沙也香みうら さやかが、ドアの前に立っている。


 顔をぎりぎりまで近付け、彼女は震えていた。


「さや、何? どうしたの、夜中に」


「ごめん……スマホ、拾った……………の……ごめん」


 表情は暗く、口調もたどたどしい。


「え……?」


 鞄を探ると、確かに無い。


「そっか、さやの所に忘れてきたのね、ありがと…………どうかした?」


「その…………うぇぇ……ごめんごえんごめんねごべんえ……開けてあげでぇ……」


 ドアスコープ越しに、凛のスマホが見える。ロック画面のメモには、


『助けて』


 はっとする凛。


「今開ける! 早く入って!!」


 ドアが開く。


 四人の覆面が、彩也香の足下にしゃがんでいた。


 彩也香の着衣が、乱れている。


「ひっ」


 目を焼く光と激痛。


 二人の意識が刈り取られる。


 ◆◆◆◆ 


 翌朝


 凛は、全身の鈍痛で目覚めた。


「ん……えっ!?」


 ──何……これ、私の部屋?


 備え付けの設備を除いて、家財道具が何もない。


 ドアが開いている。


 ──え、彩也香は?


 局部に違和感。


 ぽたり。


 何かが滴る。


 白い粘液。


「え、これ…………精え……い、いやあああああ!!」


 浴室から、嗅いだことのない臭いがする。


 急いで浴室へ向かう。


 洗面台の鏡を覗くと、暴行の痕が生々しい。


 浴室のドアを開ける。


 悪臭が強くなった。


 彩也香だった物体が、虚空を見つめている。


 凛は、泡を吹いて卒倒した。


 ◆◆◆◆


 α市内 某所 八月三日 午前九時


 凛の番号宛に、伝言が吹き込まれた。


『凛? 愛佳あいかです。お盆は帰る? たまにはお話したいな……皆は元気だよ? 凛……いつも留守電にしてるから、心配してんだよ? これ聞いたら……できたらで良いから……かけてきてね。じゃあね』


 妹が、姉の伝言を聞く日は来ない。


「へぇ、愛佳ちゃんね」


「ダチ?」


「さあ? なあ、そろそろ交代」


「や……もう……やめぐぶぅっ!!」


◆◆◆◆


『コーポわかな』203号室 同時刻


 何もない部屋。


 浴室の肉塊が、半ば崩壊している。


 トイレのドアに、ベルトで縊死した遺体が、腐り始めている。


<了>

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