第2話 選択したその先は・・・

 目が覚めると、目の前に誰かが居た。


「お、目覚めたね!おはよー」


 そう言ったのは虚空蔵菩薩様だった。


「お、おはよう、ございます。 虚空蔵菩薩様?」


 働かない頭で目の前の人物を確認する。


「うん、そうだよー、いやぁ、宝剣刺したら君倒れちゃってね。

 様子見してたんだよ」


「そ、そうですか、って、それよりもなんでいきなり剣で刺したんですか?!

 死ぬかと思ったじゃないですか!」


「私の持っている宝剣はね、知恵の宝剣とも言われていてね。

 君に知恵を授けるのに手っ取り早いから刺したんだよ!

 それに君の選んだ修仙行はかなり困難な道のりだからね、途中で投げ出せないように補助機能も付けておいたから問題なく不老不死を目指せるから安心して良いよ!」


 そう断言する虚空蔵菩薩様の無邪気な笑顔がなんか怖いんだけど、と言うか、なんか不穏な文言が入ってなかった?


「ほ、補助機能ですか・・・ありがとうございます?」


 思わず語尾が引き攣ってしまった。


「良いの良いの、本当は仏門に入って貰いたかったんだけどね。

 普通は解脱するのに何度も輪廻する必要があるから君の言う不老不死とは微妙に違うから選ばれないのも仕方ないよねぇ~」


 そう言って肩を落とした虚空蔵菩薩様に少しだけ罪悪感を感じるが、何度も死ぬのは遠慮願いたい。



「あぁ、そうそう、スマホのアプリ『不死への道』は君自身に既に入っているからね。

 もう消すことは出来ないし、途中でやめる事も出来ないから頑張って達成してね!」




「はい?!」




「じゃぁね~!」


 そう言うと虚空蔵菩薩様は良い笑顔で消えた。




「ちょ! 待って! どういうこと? 説明がないと言うか、雑と言うか色々酷くないですかぁ~」


 俺の心の叫びに応えてくれる声は既になかった。











「はぁ、一体どういう事なんだ・・・」


 虚空蔵菩薩様が消えた空間を暫く呆然と見上げていたけど、なんか疲れた。


 少し早いけど今日はもう寝よう。


 そう思って着替えに手を掛ける。


 そして靴を履いて玄関を出る。



・・・・・・



 うん?


 いや、なんで?


 疑問が頭に浮かぶと同時に目の前に半透明のディスプレイが立ち上がる。


『不老不死を目指して仙人になろう!』始動!


『まずは身体を鍛えよう! 錬体行の始まりだ! レッツトライ!』



「いや、何言ってんの? てか、もう寝るし、『レッツトライ!』がしつこいんですけど?」



※ 因みに補助機能サポートシステムが発動している為、途中でのキャンセルは出来ません。



 そんな一文が出力されると同時に頭の中にこれから何をするのか理解させられる。


 そして俺は玄関に鍵を掛け、軽く伸びをすると階段を駆け下り始める。


 いや、そんな事したくないのに、勝手に体が動くんだけど?


「はぁ?ちょっと待て!今から走り込みなんてしないよ?いや、もう寝るんだって、ちょ、ちょっと待て!マジで待って、止まってぇ~!」


 俺の悲痛な叫びは木魂するだけでそのまま俺は夜の街へと走り出した。











 し、死ぬ・・・こんなん死んでまうやん。


 俺は息も絶え絶えにアパートの階段を上る。


 プルプルと震える太ももを叱咤しつつ、一段、また一段と確実に上る。


 そして足を引き摺りながらも何とか玄関のカギを開けてなんとか中に入ると頽れるように床に座り込んだ。




 『錬体行』


 簡単に説明すると体を鍛える修行の事だ。


 俺は走りながら『なんでこんなことするんだ?』とか、『錬体行って何するんだよ?』なんてことを叫んでいたんだが、それ等の疑問は俺の頭に直接生えた知識から答えが返ってくるという、よくわからない状況により理解?は出来た。



 『錬体行』とは、簡単に言うと仙人修行に入る前段階で、仙人修行に耐えられる体を作る修行の事だった。


 つまり、本格的な仙人修行をするにはあまりにも体が貧弱だから鍛えろ!って事だった。


 転生したんだから肉体的なチートとかあるのかと思ったけど、そんな事は無い感じでがっかり。


 と言うより、生前よりは良く走れたよ俺。


 頑張った。頑張ったんだ・・・でも、仙人修行ってどんだけきついんだよ。


 もうすでに絶望しかない。


 プルプル震える太ももを労うように擦り、なんとかベッドまで這いずり眠りについた。






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