第15話 ホトハ記1

ナギがムラオサ館に連れ去られてからしばらくして、ホトハは嫁いだ。


祝言の日、白粉を厚く塗った姑が、作り笑いを湛えながらそっと近づいてきた。


目の奥には、笑みとは裏腹の、凍てつくような影が揺れていた。


「……うちの子はね、ちょっとばかり、難があるんだよ。だからあんたには、“別の役目”を頼みたいんだけど……いいね?」


囁きは風のように耳元で溶け、意味を捉えきれぬまま、ホトハの心をざわつかせた。


その“別の役目”が、舅の寝所へと向かうことだと知ったのは、その夜のことだった。


「すまんの……ホトハ。これはな、イエを絶やさぬための、大事なことなんじゃ」


舅の声には、妙にしおらしい哀れみが混じっていた。


まるで、自分もまた何かを強いられているような、そんな声音だった。


戸惑いに凍るホトハの手を、舅はそっと包み、夜具の奥へと導いた。


その手は老いを感じさせながらも、どこか熱を帯びていた。


夫は、優しかった。


けれども、その優しさは、どこか薄紙を隔てたような遠さを伴っていた。


言葉は少なく、眼差しもどこか焦点が合わない。


村の者たちは、声を潜めて「あのイエの息子はは、子は成せない」と噂したが、ホトハはそれを否定も肯定もせず、ただ黙って受け止めた。


彼の静けさは、ときに無垢で、ときに寂しげだった。


そしてその静けさに、奇妙な安らぎを覚えている自分に気づき、ホトハはひとり戸惑った。


けれども、夜になると彼女が向かうのは、夫ではなく――舅の寝所だった。


「……ようなったのう、おまえの身体。どんどん、ええ女になってきた……」


囁きは、舌を湿らせた蛇のように、耳朶を舐めた。


舅の手は、もはやためらいを知らなかった。


ぬるりと肌を這い、年老いた男の手とは思えぬほど執拗に、ホトハの柔らかな谷間を、腰のくびれを、確かめるように撫でた。


夜具の中、舅は幾度も彼女の名を呼び、そのたびに、ホトハはまるで自分という存在が別の生き物になっていくような錯覚を覚えた。


最初のうちは、ただじっと耐えていた。


心の奥でただ嵐が過ぎるのを待っていた。


けれども――


幾度も重ねられる夜のうちに、ホトハの中で、何かが緩やかに、けれど確かに変わっていった。


与えられる愛撫に、いつしか身体が応えるようになっていた。


老いた舅の手のぬくもりが、いつしか無機質なものではなくなり、節くれだった指の動きに、胸の奥が静かに波立ってゆく。


「……ホトハ、おまえは……ほんまにええ女になったなあ」


その言葉に、ほんのわずかでも誇らしさが芽生える自分を、ホトハは恐ろしく思った。


それでも、唇からこぼれるのは――


「舅さま……もう……」


そう呟いた声に、舅は笑った。


それは、欲の色を帯びた笑みであった。

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