タイムパトロール隊員、太古の佐賀で愛を叫ぶ
無月兄(無月夢)
前編
時は22世紀。
人類は、夢のような技術の実現に成功した。それは、時間移動だ。
これまでフィクションの産物でしかないと思われた、今とは違う時間、時代に自由に行き来できる機械、タイムマシン。それが、ついに完成したのだ。
だが、優れた技術がいつも人類を幸せにするとは限らない。
タイムマシンの実現は、過去に遡り、自分に都合のいいように歴史を変えてしまおうというやつら、時間犯罪者をも生み出すこととなった。
もちろん、そんなこと許されるわけが無い。
そんな時間犯罪者を追いかけ、逮捕し、歴史改変を阻止する組織。それが、タイムパトロールだ。
かくいう俺も、そんなタイムパトロールの隊員の一人。
日々時間犯罪者と戦っているのだが、そんな俺に、新たな任務が待っていた。
「古代日本に、国を作ろうとしている奴がいる?」
タイムパトロール本部にて、上司から、一人の時間犯罪者の情報が告げられる。
「その通りだ。まだ技術が未発達の時代に行き、未来の道具を使って、自分は凄いやつだと思わせる。そうして人々を従え、国を作るのがそいつの目的らしい」
なるほど。当時の人たちからすると、22世紀の道具は魔法のように見えることだろう。それをうまく使えば、人心を掌握することも可能かもしれない。
「君の次なる任務は、その時代に行ってそいつを捕まえることだ」
「わかりました。それで、そいつがいるのは、どの時代のどこなんですか?」
「時代は、弥生時代。場所は、現在の佐賀県だ」
「佐賀県……」
佐賀県。それを聞いて、思わずオウム返しに言う。
いや、別にそいつがいるのが後の佐賀県だろうと別のどこかだろうと、俺のやることに変わりは無い。
ただその場所には、少し思うところがあるだけだ。
「ああ。そういえば、君は佐賀県出身だったね」
「ええ。正確には、今でも佐賀に住んでいますよ。出勤は、この22世紀の道具、『どこへでもドア』を使えばいいので」
「そうだったね。しかし、それでもこの近くに住んでいた方が、なんやかんや都合がいいだろうに。引っ越しを考えてるなら、いい物件を紹介するぞ」
「えっと、その話はまた今度でいいですか。それより、早く時間犯罪者を追わなくては」
「そうだったな。では、気をつけて行きたまえ」
こうして俺は、タイムマシンに乗り込み、弥生時代へと向かう。
その途中、さっきの上司との会話を思い出す。
「引っ越しか。確かに、他の人から見たらそう思うかもな。佐賀なんて、もういつ消滅するかもわからないんだから」
22世紀の今では信じられない話だが、100年ちょっと前の21世紀初頭には、日本の人口は1億3000万人近くいたらしい。
だが、それをピークにあっという間に減少。それはもう、国や行政が頭を抱えるくらいすごい勢いで人口が減っていった。
その結果、日本各地で過疎化が進み、いくつもの町や村が消滅。そしてとうとう、県自体の存続が危うくなる場所まで出てきた。
俺の生まれ育った佐賀県も、そんな消滅寸前の県のひとつだ。
もっとも、こんなの人類の歴史の中では、取るに足らないことかもしれない。
県どころか、国や文明そのものが消えていく。長い歴史の中で、そんなことは何度も繰り返されてきた。タイムパトロールである俺は、実際にそんな場面を見たことだってある。
それでも、消えてしまうのが自分の故郷となると、どうしても感傷的になってしまう。
「いけないな。今はそれよりも、仕事に集中しなきゃ。人類の歴史を変える、時間犯罪者。絶対に捕まえてやる」
沈みそうな気持ちを奮い立たせ、改めて、追っている奴の資料に目を通す。
そいつは未来の道具を使いながら、現地の人間に、自分は精霊を自由に操ることができると言っているらしい。
だからだろう。そいつは、自分自身のことを、こう名乗っていた。
精霊王、サガゾンビと。
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