水槽の中の告白
@shino_282
第1話
水族館の中央展示室。
静まり返った空間に、青白い光がゆらめいていた。
一番奥の水槽の前に、一人の女性が立ち尽くしている。
大きなクラゲの水槽。
白い触手が、ふわり、ふわりと漂い、
青い光の中に、静かに浮かんでいた。
彼女は、まばたきもせず、その揺らぎを見つめていた。
まるで、何かを祈るように。
何かと向き合うように——。
⸻
彼女が失踪したのは、その翌日のことだった。
春樹のもとに、一通の手紙が届いた。
差出人の名前を見て、手が止まる。
彼女の名前だった。
彼女とは、幼なじみだった。
同じ町で育ち、同じ学校に通い、長い間、当たり前のように隣にいた。
だが、進路が分かれ、やがて彼女は町を出て、春樹も別の道へと進んだ。
社会人になってからは、年賀状さえやりとりしなくなっていた。
最後に彼女を見かけたのは、1年ほど前。
彼女は見知らぬ男と一緒に歩いていた。幸せそうな表情をしていた。
声はかけなかった。かけられなかった。
その男——彼女の恋人が、水族館で転落死したのは、そのすぐ後だった。
事故として処理されたが、詳しい状況は不明。
目撃者もおらず、防犯カメラにも決定的な場面は映っていなかった。
彼女は疑われた。
だが証拠はなく、彼女自身も何も語らなかった。
春樹はニュースでその名を見ただけだった。
そして今回、突然、彼女から手紙が届いたのだ。
中には、水族館のスタッフ用IDカードと、一本の古びた鍵、
そして、一通の手紙——遺書が入っていた。
春樹は便箋を広げ、そっと目を通す。
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