想いは一方通行で、届かず霧散した。

バネ屋

第一部 

#01 目の当たりにした現実




 この3ヵ月抱えていた不安が限界を超えて、先週日曜日、遂に妻のアキコがお風呂に入ってる隙にスマホを覗き見てしまった。


 隠れてスマホを見る後ろめたさでビビりながら確認作業を進めると、チャットアプリには3ヵ月ほど前から僕や友人以外にある一人の男とのやり取りの履歴が大量に残ってて、どうやらその男と日中頻繁に会っている様だった。


 なんだこの男は?と心臓をバクバクさせながらその男とのやりとりを遡っていくと、『旦那には恩があるし感謝してるけど、セックスはつまらない。やっぱり体の相性はあなたが一番です』とアキコから送信しているものを見つけてしまった。

 僕はアキコの過去の境遇や体を慮って、身心に負担がかからない様に細心の注意を払って大切にしてたのに、それは彼女にとってはつまらないことだったようで、旦那である僕以外の男に性欲の発散を求めていた。


 まさかあのアキコが???と信じられずに愕然としたが、相手からのメッセージにはいくつもの画像や動画が添付されていて、僕とのセックスでは見たことも無い様なアキコが卑猥な奉仕をする姿や激しく乱れた痴態の数々が記録されていた。


 なんなんだこれは!?とショックを受けながらも確認作業を進めたが、画像やメッセージからは相手の素性までは分からなかった。



 大切にしてきた妻が浮気していたという証拠を見つけ、激しい絶望感に襲われ愕然としたが、それでもどこかまだ信じられず、とにかく事実を確認する為、今週その男と会う約束をしていた日時と場所をメモしてスマホを元の位置に戻した。


 その日有給を取って自分の目で相手の男を確かめようと待ち合わせ場所だった金山駅の南口付近へ向かうと、普段よりもお洒落してるアキコを確認した。

 

 今日、相手と会うのは間違いない。

 身を隠して監視していると、そこに現れたのは3年前までアキコを散々苦しめたアキコの元カレだった。


 なんで!?何故、奴がここに居るんだよ!?

 アキコには2度と近づけない様に制裁したのに、どうして!?


 予想外の男の登場に唖然とするが、その男がアキコの肩を抱くとアキコは体を男に密着させて、まるで恋人同士の様に歩き出した。


 それでもまだ『また脅されてるのかもしれない』と僅かな希望に縋る思いで尾行すると、二人は寄り道もせずにラブホまで来て、アキコは躊躇する様子を一切見せずに入って行った。

 その時一瞬だけ見えた横顔は、最近僕には見せなくなった甘えるような表情で、とても脅されている様には見えなかった。そもそも、スマホで確認したメッセージのやりとりには脅されてる様な内容は無く、アキコも積極的だった。



 信じられなかったし、信じたく無かった。

 けど、アキコが浮気しているのは疑う余地のない現実だった。

 アキコは夫である僕が仕事で留守の間に寄りにも寄って最悪の男と密会して、昼間からラブホにしけこんでスマホの画像にあったような行為を積極的に楽しんでいたんだ。

 まだ結婚して1年の新婚なのにこの3ヵ月セックスレスだったのは、元カレに苦しめられたトラウマの影響かと心配して労わってたのに、僕とのつまらない行為より体の相性バッチリの元カレとのセックスを楽しんでいたからだったのか。



 この3年間の全てが無駄だった。

 3年前、ボロボロになってるアキコの姿を見て、助け出して守ろうと見返りも求めずに頑張った。

 結婚してからだってアキコを幸せにするためならどんなことでもしようと頑張ってたつもりだった。

 けど僕の想いは届かず、アキコにとっては僕の想いなんてつまらないもので、結局は僕の自己満足だったと言うわけだ。

 


 僕は何でこんな女と関わってしまったのだろう。

 今は虚しくて、悔恨しかない。






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