赤羽高校の黒岩の高校野球生活。

Taku

友達のヒデに赤羽高校に行こうと誘われる。

 俺の名前は、黒岩隆一。

岡山に住んでいる、15歳の中学3年生だ。


小学校の頃から、俺は“お山の大将”みたいな存在だった。

野球ではリトルリーグでホームランを連発して、パワーには自信がある。

リトルシニアに上がってからも、そこそこの成績を残して、いくつかの強豪校から声がかかっている。


今、どの高校に行くか──つまり、どのチームで甲子園を目指すか──迷っているところだ。


そんなある日の放課後。

いつものように、幼なじみのヒデと一緒に練習帰りの道を歩いていた。


ヒデとは、小学生のリトルリーグで知り合って、シニアでも同じチームだった。

頭が良くてキャッチャーをやってる。ピッチャーである俺とは、いわばバッテリーだ。


「なあヒデ、最近、体格よくなってきたと思わね?」

俺がちょっと自慢気に言うと、ヒデは笑ってこう返した。


「それ、ただ身長が伸びたからじゃない?」


「まあ、それもあるけどな。」


二人でベンチに腰を下ろした。

11月。公園の木々はすっかり茶色に染まり、冷たい風が頬をなでていく。


「最近さ、甲子園の試合をテレビで見るたびに、夢に出てくるんだよな。

 俺がバッターボックスに立ってる夢。」


「いいな。甲子園……憧れるよな。」


ヒデが少し羨ましそうに言う。


「夢だけじゃなくて、現実で甲子園の土を踏みたいよな。マジで。」


そんな話をしてると、ヒデがふとつぶやいた。


「そういえば、最近ずっと晴れてるよな。」


「だな。前はずっと雨だったから、練習も気分も乗らなかったし。」


「俺さ、天気ってメンタルに結構影響すると思ってんだよね。

 雨の日って、気分が沈むし、なんかやる気出ないんだよな。」


ヒデは、そう言って頬杖をついた。


「わかる。傘さすのも面倒だし、ジメジメしてると調子狂うよな。」


会話は取り留めもなく続く。

だけど、こういう何気ないやり取りが妙に心地いい。


「そういえばさ、この前プロ野球観に行ったんだ。」


「お、いいな!生で観るとやっぱテンション上がるよな。」


「応援してた選手がホームラン打ってさ、マジで感動したよ。」


「もう日本シリーズも終わったしな。今年は広島が優勝してたっけ?」


「うん。やっぱ、強かったわ。」


俺は背負ってたリュックをベンチに置いて、残ってたコーラをひと口。


「この前さ、炭酸が抜けたコーラ飲んだんだけど、最悪だった。」


「あるあるだな。炭酸抜けると、甘いだけで味がぼやける。」


「りゅうって、本当にコーラ好きだよな。」


「だってさ、甘くて濃くて元気出るじゃん。飲むと力が湧く感じするんだよ。」


「飲みすぎて太るなよ?」


「わかってるって。」


「俺はサイダー派だけどな。あの爽やかな感じが好きなんだよ。

 レモンとかオレンジの香りとかさ。」


「へー、なるほどな。」


俺は、残ってたコーラを全部飲み干した。

初めてコーラを飲んだのは、小学生の頃。

野球を頑張ったご褒美に、母さんが買ってくれた。

あの時の感動は、今でも忘れられない。


それ以来、俺のジュース選びはずっとコーラ一択だ。


雨が続いて練習ができなかったけど、こうしてヒデと野球の話をしてると、不思議と気持ちが前向きになる。


すると、ヒデが言った。


「そういや、りゅうは強豪校から誘い来てるんだろ?」


「ああ。何校か、甲子園に出たことあるとこからな。」


「それならさ、一緒に赤羽高校に行こうよ。」


「え?赤羽って……強豪じゃないだろ?」


「俺も甲子園優勝を目指してる。だから、りゅうを誘ったんだよ。」


「でも、なんでわざわざ赤羽なんだよ?」


「今年からすごい監督が来るんだよ。福永先生って人。」


「福永?」


「前に県内の弱小校を率いて、県大会決勝まで行った人らしい。

 しかも、自分が投げて、最後のバッターにサヨナラホームラン打たれて、甲子園を逃したんだって。」


「マジか……それは悔しいな。」


「で、大学でプロを目指したけど夢叶わず、今は監督としてもう一度甲子園に挑もうとしてるんだってさ。」


「すげぇな……」


正直、心が揺れた。


「りゅう、考えてみてよ。今の強豪校だって、推薦もらってるだけで甲子園行ける保証ないだろ?

 赤羽には、俺と鈴木が行く。お前が加われば、本気で甲子園優勝狙えるよ。」


「……そうだな。今の強豪校も、名前だけで最近の実績は微妙だったしな。」


少し間をおいて、俺は言った。


「……決めた。俺、赤羽高校に行く。」


「よし、じゃあ3人で甲子園、目指そうぜ!」


正月。

世間がのんびりとした空気に包まれるなか、俺とヒデはトレーニングをしていた。

目指すのは──赤羽高校での甲子園優勝だ。


やっているのは、バッティングと走り込み。

特に今は基礎体力をつけるため、走ることに重点を置いている。


近所にはちょうどいい山がある。

斜面の傾斜を使って、足腰をしっかり鍛えるんだ。


「やっぱ、体動かさないと体がなまるな」

俺が汗をぬぐいながら言うと、ヒデがうなずいた。


「そうだな。俺たち、もう赤羽に推薦で行くって決めたからな。」


「受験勉強してるやつらって、ストレスどうやって発散してるんだろうな。」


「人それぞれじゃない?ゲームとか、スポーツとか。」


話しながら、坂道を黙々と登っていく。

アスファルトで舗装された道だけど、これが地味に足にくる。


走り込みをしすぎれば、筋肉が削れて逆効果になる。

でも走らなきゃ、体力はつかない。

そのバランスが難しいんだ。


ヒデは、シニア時代に2番キャッチャーをやってた。

俊足で盗塁もできるし、何よりキャッチャーとしての能力が高い。

ヒデがマスクをかぶってるときは、ピッチャーの防御率がやけに低かった。

つまり、俺の投球を引き出してくれる“名女房役”ってわけだ。


赤羽高校に、ヒデと一緒に行けるのは心強い。

鈴木も行くらしいし、今から楽しみだ。


岡山のこの町には、コンビニもスーパーもある。

遊ぶときは、スーパーの2階にあるゲーセンによく行った。


でも最近は、そんな時間も惜しんで山でトレーニングしている。


塗装された坂道を駆け上がるこの走り込みは、地味だけど確実に効いてくる。

足の裏に伝わる衝撃が、疲労として蓄積されていく。


「甲子園優勝するには、やっぱキツい練習が必要だな」

ヒデが言う。


「ああ。楽して勝てるほど、甘くないからな。」


そんなとき、ヒデがぽつりとこぼした。


「プロ野球って、冬の間は試合ないから寂しいよな。」


「確かにな。野球の熱気が一気に冷める感じするよな。」


するとヒデが、突然別の話を振ってきた。


「この前さ、ラーメン屋行ったんだよ。めっちゃうまくてさ。」


「駅前のやつか?」


「そうそう!コクがあって最高だった。

 次もまた行こうと思ってる。」


「へぇ……俺も今度行ってみようかな。」


話しながら、階段ダッシュを開始する。

この階段、長さも角度もちょうどいい。

いまは20本目のダッシュを終えたところ。


太ももがパンパンに張ってる。でも、不思議と気持ちは前向きだった。


目標があるってのは、やっぱ強い。

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