目指せ人生一発逆転~アラサーがネット小説書いてみた

@kuroe113

第1話そうだ小説家になろう

 ネット小説家あるある。

 特定のジャンルしか読まれない


20XX年4月〇日


「異世界転生したい」


 ネット小説を読みながら、ふとそうつぶやいた。



 一言で僕。如月新字きさらぎしんじという人間を表すなら、『負け犬』だ。


 もうアラサーなのに、何年も続けている仕事を覚えられずにモタモタモタモタ。

 人にいわれて初めて動く指示待ち人間。


 父と母、兄と妹の五人で暮らしている。

 そんなダメ人間の僕を見て、母は小言を。

 妹は呆れた視線をこちらに向けてくる。


 会社にも家にも居場所がない、哀れな男だ。


 例えばそう。

『この仕事やっといて』と、お願いされたとしよう。


「なるほどなるほど、つまり番号順に並べればいいんだね」


 と、横に書かれている数字で並べたのだが、


「何やってるの、これは五十音順に並べるんだよ」


 それならそうと初めからいってくれよ。

 さて、この失敗は誰が悪いでしょうか。もちろん、人の話を聞かない僕だ!


 ぐはっ!!

 自虐だけど、ダメージ大きいぞ。




『すげえええぇぇぇ』

『さすがです、兄様』

 そうやってほめたたえる異世界の住人たちを賞賛BOTと呼びバカにする連中がいるのもわかる。


「でもね、こんなつらい現実だもの。

 夢の中くらい皆から賞賛されたいってのもわかる」


 どんなダメ人間でも、いやダメ人間だからこそ異世界では大きく羽ばたいている。

 自分の中に眠った未知の才能を開花させ、異世界に足跡を刻んでいく。


『うらやましい、うらやましいぞ』

 と、小説の中のキャラクターに本気で嫉妬するダメな大人が僕だった。


 ぐはっ。

 本日二度目の吐血。




20XX年4月〇日

「そうだ小説家になろう」


 それから将来どうすればいいのか考えに考えた。

 結果、今の職に見切りをつけ、作家を目指すことに決めました!


 ドン!


 いやさ、ネット小説読んでいたら、異世界転生したくなってね。

 あ~あ、どこかに転生トラックでもないかなぁ……。

 と虚ろな目で小一時間ほど道路を見ててもさ、トラックどころか軽トラすら道を通らない。


 こうなれば、自分で転生トラックがやってくるようにしよう。と思い立ちました。


 というのは半分本気なんだけど。

 まじめな話をすれば、今の仕事に限界を感じちゃったのである。


 さぁ、この現実への不満を小説にぶつけるほかねえよなぁ!

 目指せ書籍化!



20XX年4月〇日

『ネットの部屋』

 変わった髪型のおばあさんがやっているトーク番組。

 その名前をもじったこのサイトこそが僕の趣味の集大成。

 ここで面白いネット小説を紹介している。



 もちろん。仕事は真剣にやっている。

 が、隙間時間にちょくちょくちょくちょくスマホを開いて小説をのぞき見し。

 その延長で、面白いネット小説をみんなに知ってほしいと紹介文を書くようになった。


 あれ、幻聴かな。


『仕事中にそんなことをやっているんだからお前は仕事ができないんだ』

 って、いわれた気がするぞ。

 どうしよう、否定できない。


 でも、これだけはいわせてほしい。どんなに頑張っても、できないものはできないのだと。


 あれ、また幻聴かな。

 今度は『開き直んなカス』っていわれた気がしたぞ。


 ハッハッハッハッハッ……。

 ふぇ。泣きたい。



Kore117

今まではネットで紹介文ばかり書いてきましたが、今度からオリジナル作品を書いてみようと思います。


 今まではネット小説の紹介。時事ネタだけの記事の中。

 初めて私事を記載した。

 当然すぐ反応が返ってくることはない。

 疲れたし、画面を閉じる。




20XX年4月〇日


読み専1

 いいんでない。


読み専2

 ふぅん、高みの見物させてもらうわ。


読み専3

 まぁ、頑張って。


読み専4

 それ本当にできるの。




「分かっていたけど、反響が少ない!」


 小さなサイトだ。

 すぐに反応はない。

 一日様子を見て、書かれている応援がこれだけ。


 ああ……。

 みんな、ありがとうと。

 応援されるのなんて何年ぶりだろうと思い涙を流してしまう。


 それに、

「自分自身を後に引かせないための宣言だ。最悪返信無しでもよかったしね」


 これだけ応援されたんだ頑張らないと男が廃るぞ!


 というわけで、さっそく今日の記事はこれに決めた。



Kore117

 具体的にどうすれば小説家になれるか教えて。


読み専1

 いや、ここまで大掛かりなことやっといて実は無計画なんかい!


「すごい、書いて速攻で返信が来た」


 これまさか人気コンテンツになってる!


読み専2

 そんな甘い世界なわけないだろ。


読み専3

 自分はいけると思う。

 Kore117さんはネット小説の知識あるし。


読み専4

 というか、ネット小説の紹介をやっているんだし、そっちのほうが詳しいんでない。


読み専5

 ならば、な〇うで日間総合ランキング一位を目指すのはどうでしょう。


読み専6

 あそこの日間ランキングの一位はほとんどが短編だしな。


読み専7

 小説を書き始めるならそれのほうがいいんじゃない。


読み専8

 でもあそこ、上位に来るジャンルなんて異世界恋愛以外ないじゃん。あれは幾らなんでもおかしいでしょ。


「分かる! 分かるぞ!

 日間ランキングから小説探そうとしてもひとつの分野しか見つからないっておかしいよな!」


 その不便さのせいで、な〇うがちょっぴり嫌いになったのは秘密だ。




Kore117

 そうだ! そうだ!



 我慢できずに、僕はあいづちの言葉を掲示板に書き込む。

 ついでに、昔書いたな〇うの批判記事も。


 本当に、上位に来るジャンルが一種類しかないのは異常事態だぞ。




20XX年4月〇日

「よし、な〇うで、日間総合ランキング一位を目指すぞ!」


 有識者の皆さんの助言に従い、やってやると決意を固めた。

 とその前に……。




Kore117

 ありがとうございます、やってみます。


読み専23

 頑張って


読み専24

ほんとにやんのぉ?


読み専25

 応援してまっせ。




 感謝の言葉を書き込み、その書き込みにも返信があった。

 もう、感謝しか感じない。



 あらためて、毎日のように確認しているな〇うの日間上位陣を眺める。

 そのほとんどが短編だ。

 ジャンルも異世界恋愛だけ。


 これならば書くのにそこまで時間がかかるわけでもないし、短時間で今の自分の実力を測れる。

 自分が気に入っている作品を土台に執筆を開始しよう。




20XX年4月〇日

 最初に書くのはリアル路線。ジャンルとしては文芸だろうか?


 とあるドキュメンタリー番組でやっていた、砂漠での遭難。それを小説風にアレンジしていく。




20XX年4月〇日

 よし!

 形になってきた!


 タイトル:砂漠の行進

 著者:Kore117

『「糞またかよ」

 ウィリアルドは豊穣の象徴である太陽を恨めし気に睨んだ。

 そんなことはあり得ない、仮にそうなっても困るのは自分だと理解しているというのに、いまだけは太陽なんてものがこの世界から消えてくれればと思った。

 世界で最も過酷とされる砂漠で開催されるマラソン大会。

 砂嵐のせいで道を見失い遭難したのが三日前。

 それ以降、彼はこの広大な砂漠を一人さ迷い歩いていた。



「うん、これはなかなかいい作品ができたんじゃないかな!」

 

 読んでみたけど、特に悪いところが見当たらない。

 ネット小説特有のリアリティの無さ。それを、実話を基にすることでクリアした。


 この冒頭を皆に知らしめるべく、自分のサイトに掲載した。




Kore117

 どうですか、この作品は


読み専1

 丁寧な作りだな。


読み専2

 間違いない良作。


読み専3

 個人サイトを運営しているから、文章力は高いよな。


読み専4

 必ず見に行きます。


読み専5

 へぇ、Kore117さん小説執筆するんだ。


読み専6

 頑張れ、頑張れ!


読み専9

 まぁ、今は様子見かな。


読み専10

 というかこれ、実話元にしていない。

 聞き覚えがあるんだけど。




20XX年4月〇日

「掲示板では好評だったのにぃ……。

 まぁ、現実はこんなもんだよね」


 そして、記念すべき処女作の結果はこんなものだった。


 お気に入り数3

 感想0

 総合評価12PT


「自信作だったのに……」

『砂漠の行進』と名付けたその作品はランキングに乗るどころか、誰の目にも止まることなく、ひっそりと埋もれていった。


20XX年4月10日

「これに関しては最初の短編だし」

(震え声)


 その結果にがっくりと、何かが折れてしまい、昨日は仕事以外はふて寝。


 そのおかげもあって、どうにか気力を回復した。

 きっと、文章を書く技術が不足していたのだろう。

 何が悪いのか、それを分からないままに僕は次の作品にとりかかる。


 古事記を元にした伝記系の作品。

 病院でのホラー体験を描いた作品。


 次々と短編を世に流すのだが……。


 結果。

 聞きたいか。

 全部爆死だよ!




20XX年5月〇日

『ふざけるなぁ!!』


 パソコンの画面の中で、金髪にツインテールの生意気そうな子供がネット小説を批判している。


 短編投稿に疲れ切った僕は、気分転換にとメスガキ千尋チャンネルを視聴していた。


「よくやるなぁ」


 相手のことをバカにしている姿勢を隠そうともせずに、作品の矛盾点を指摘する。


「納得できるし、楽しいけど……。

 これは僕には無理だ」


 派手な批判というのは人の目に留まる。

 でも、アンチが生まれるし、そのアンチに絡まれると面倒だ。

 しかし、このメスガキの姿をとったアバターは容赦なく作品を攻撃している。


『大体さ、そんなルールがあるなら事前に説明しなさいよ、一般人にはスキルやレベルっていわれても分からないんだよ!』


 それについてはもう、な〇うを散々読んできた自分にとっては説明は不要だと思う。


「でもさ、こんなに矛盾まみれの作品が人気になって、どうして、僕の作品に誰も見向きもしないんだ?」


 いけない。

 自分をいさめるためにつまらない作品の情報を眺めていたのに、それが自分を苦しめる材料になっていた。


 どんな形であれ、『書籍化』されたということは、自分の作品よりも人気が出ているということだ。

 

 ……はぁ、こんなのに負けているのか。




20XX年5月○○日

「やはり、ジャンル……、ジャンルなのか」


 どうして人気が出ないのかを考えに考えた。結果、出た答えがこれだった。

 ネット小説の鉄則として、特定のジャンルしか読まれないというものがある。

 以前話題に出した、異世界恋愛がそれだ。


 他のジャンルが好きな人間にとっては、害悪しか生み出さない隠れたルールだ。


 何かの参考にならないかと、そのジャンルを見た。


『お前との婚約を破棄する』


 自分の目の前にあるのは、王子が自分の婚約者である伯爵令嬢への婚約を破棄する場面。


 こうして追放された主人公はやがて力をつけ、あるいは相手の矛盾を論破したうえで逆転する。

 さらさらと読めて、正直面白いと思う。問題があるとすればそれと同じ作品がランキングの中だけでも十個くらいは見つかることだろうか。




20XX年5月○○日

「お前もか、お前もなのか」


 趣味のネット小説巡り。

 これまではただの読み手だった。

 

 つまらない、あるいはよく書けてはいるが引きつけられない作品があっても、ランキングに乗らないならばこの負け犬めと笑えたのに……。



「こんなに努力してるのに、こんなにも頑張っているのに脚光を浴びないのはかわいそうじゃないか」


 今では主人公よりも作者の気持ちに共感して涙を流すまでになった。


「感想と評価。

 ランキングに乗っている連中にはこんなもの不要かもしれないけど、新人には、そう新人には」


 小説を読んで少しでも面白いと感じたら感想と評価。

 ついでに、

『頑張れ頑張れ! お前ならできる!』

 と心の中で応援するのを忘れない。


 ということを自分のサイトで書き込んだ。




読み専13

 そういうことでしたら、その面白い作品を自身のサイトで紹介したらどうですか?


Kore117

 やだよ、そんなことしたらぱっとしない作品に時間とられるだけだし。


読み専14

 この鬼畜。


読み専15

 人間の屑。


読み専16

 はぁ~、つっかえ!


読み専17

 効率効率って、あなたみたいな人はいつもそうですよね。


読み専18

 そこまで応援しているなら、少しくらい苦労しろよ。


読み専19

 お前の同類だろ、なら助けてやれよ。




「うるせぇ! 時間も人でも個人サイトだと限界があるんだよ!」


 ネットリンチに対して、僕は現実で罵声を返していた。


「僕だって、時間があればそれをやりたいんだよぉ!」


 マジ御免、でもね、無理なものは無理なんだ。


 作品にしてもそうだ。

 面白い作品は多いが、紹介してもいいと思えるほどの華がないんだよなぁ。


 そしてそれは、自分の作品にも言える。


 で! その華は一体どうすれば自分の作品を彩れるのかと聞かれると分らん以外の答えはなかった。




20XX年5月○○日


「この作品、いい感じだぞ」


 どうすれば華が生まれるか。

 答えを探すべく、思わず読み進めてしまう作品を見つめる。


 そんな中で、一つの期待値が高い作品を見つけた。


【ロズウェル事件】

 著者:エリアン


『その事件が起きたのは1947年夏。

 アメリカ合衆国ニューメキシコ州ロズウェルにて、人類史に名を残すべき事件が発生した。

 砂漠に未知の飛行物体が墜落したというのだ。

 現場を目撃し、記者たちはそれがわずかな部品であろうともこの地球で作られたものと一致しない、未知のものであるという確信の元、それがUFOだと言葉にした。

 しかし、その熱い熱意は政府による圧力によって、単に気球が墜落したというありふれた事件に書き換えられることとなってしまった……』




「ああ、この作品もすごい面白い!

 でも、大衆受けしないだろうなぁ~」


 細やかな描写、事実をもとにしたリアリティー性。

 その二つを追い求める僕にとっては満点を上げたくなる。



『いくらなんでも、説明文が長すぎる。文章の九割がたが事件についての描写。

 それに対する人間の反応がなぁ……』


 読者としての自分が合格点を出したとしても、作者としての自分がNGを出してしまう。



 小説の楽しさを、人と人とのやり取りなら合格は出せない……。

 だってさ、小説を読んでいるというよりも、説明文を読んでいる感じがするし。




コメント:すごい丁寧な分ですね。いろいろと参考になります。




 この作品にも感想と評価を出す。

 読んでいて面白いと思うが、同時に肩がこる。

 しかし、ここまで情報が詳細に書かれていると、作家には非常に参考になる。

 読者としてではなく、作者視点での評価点をつけてやる。




20XX年5月○○日

「お! この作者は当たりだったな」


 感想に返信があった。

 あざっす!


 このように、感想を書けば律義に返信をしてくれる人物を僕はひそかに当りと呼んでいた。


 もっとも、場末の評価されていないネット小説家を発見する方法なんて限られてるしね。

 自分から直接コンタクトを取ることで、向こうもそれに反応してくれるというのはよくあることだ。


 しかし、驚いたことに他にも感想がある。




コメント:これ事実をもとにしたやつね。ドキュメンタリーで見ました。


コメント:面白かったです。


コメント:続きを期待。




「ああ、なんて民度の高いこと」


 普段は掲示板を見ているからこそ、感想欄の言葉の丁寧さには驚いた。


 大型の投稿サイトは企業が主催しているからこそ管理運営が行き届いている。

 行き届きすぎているせいで時たまルールを破り、警告文が届くのが玉に瑕だが……。



 作者と読者が直接やり取りできる。

 ネット小説でしか見られない強みを気にいっていた。


 例えるならば、感想を良く書いてくれる人物はお得意様だ。

 自分も早くお得意様を作りたいなと思いつつ、自分がよく利用するお店にも目を通していく。


「あれ、アクセスできない」


 そして感じる違和感。

 しばらくどうにかならないかと操作して、五分後くらいには事情を把握してしまう。


 諦めたのだ、小説家になることを。


 世間ではこれをエタる、と呼ぶらしい。

 独自の用語がもう定着していることからもわかるように、この現象は決して珍しいものでも何でもない。


「けどさ、作品そのものをサイトから消すのはどうなんだ?」


 ネット小説で投稿するだけでは金銭が発生することはない。

 つまり、損害も発生しないのだ。

 メリットもなければ、デメリットも発生しない。

 小説を消すという行為は、むしろ、アカウントを消すという面倒が生まれるくらいだ。


「だったら、どうしてそんなことを……」


 あれやこれやと考えて、出てきた答えは一つだけ。

『未練』を断ち切るためだ。


 書いたからこそ分かる。

 万を超える文字を執筆するのは苦行と変わらない。

 それでも書いてしまうのは、理屈ではなく、もはや執着の類が理由になって来る。

 だが、社会人にはいろいろある。

 その執着心に突き動かされ自由気ままに動くわけにもいかない場面は多い、


 自分は『空想』ではなく『現実』をとる。

 そのために、断捨離のように未練の元そのものを捨て去ったと考えればつじつまが合う。



 ――ああ、悲しいよね。もっと頑張ればいいのに。


 自分なりの答えが出た。

 きっと、本を書く前の自分ならばそんな無責任なことを言えただろう。


 だが、作家としての道を歩んだからこそ、きっとこの人も多くの迷いの果てに決断したんだろうなと優しい言葉を、もはや連絡手段がない相手に、この思いよ届けと、星に願いを託すしかないのだ。


 書籍化という名前のゴールにたどり着く前に、いったいどれだけの人間が挫折し、ペンを追ったのだろうか。



 自分もいつの日にか、諦めてしまうのかもと思う。

 でも、「ああ、執筆するのって楽しいな」

 と僕は笑っていられる。

 きっとまだ大丈夫。



 それに僕には『夢』がある!

 その夢をかなえるまであきらめない。



 その夢とはズバリ!

 ドリップコーヒーを思う存分飲むこと!


 いやぁ、気がついたらインスタントコーヒーに品質を落としていてね。


 詳しく事情を語るとすれば、将来、つまりは老後に不安を抱えている状況で贅沢できなかったんだ。

 もう、アラサーになって、いまだに将来の展望が見えないと、日常の中。

 そこでわずかながらのこだわりのために使用していたお金がだんだんと小さくなっていきましてね。


 正直バカ舌の僕ではドリップとインスタントの違いなど分からないが、それでもあの格式高い香りくらいは判別できる。


 作家デビューしたらコーヒーをいいものに変更するんだ。

 というか、毎日ドリップコーヒーを飲む優雅な生活を送りたい。

 それが貧乏性の僕が夢見るせい一杯の野望だった。






 ――最近、兄貴の様子がおかしい。


「いただきます、ごちそうさま」


 夕飯の場がこれである。

 口いっぱいにご飯を詰め込み、すぐさま、まるで何かに急き立てられるようにテーブルから離れていく。


 元から無口で、話もまともにできないようなコミュションであったけど、おかしいよねこれ。


 でも、ますます陰気になったという訳ではない。

 そう、むしろ生き生きしていると言うか。

 うまく、表現できないけど……。

 

 今までで一番やる気に満ち溢れているように見えた。



「兄貴、漫画借りに来たんだけど」


 そういって、部屋に入った時、何かを隠したのを見て、きっとそれがその原因なんだと私は直感した。


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