金持ちトレジャーハンターと謎のスパダリ管理官 〜薔薇十字の使命〜

高峠美那

第1話 薔薇十字団の書物

 1614年、世界中を驚愕させた書物をご存知だろうか?


 『Fama Fraternitatis Rosae Crucis』 


 日本語に訳すと『薔薇十字団の兄弟団の告知』となる 。 


 ドイツの出版社が、匿名で世に出した文書だ。

 この本は、秘密結社『薔薇十字団』の創設者とされている人物、クリスティアン・ローゼンクロイツの生涯が語られており、彼が実在する人物であったのだと、初めて公になったものでもあった。


 クリスティアン・ローゼンクロイツ。彼は、鬼才の天才であったという。

 科学、哲学、宗教の改革理想と目的が述べられたその文書は、あまりに過激だったがため、実際の初版本はわずか3冊しか残されていない伝説の書物。


 世に出回った本は、全てがフェイク本だったのだ。それでも世界中を震撼しんかんさせたのだから、よほどオカルト的な物が書かれていたのだろう。


 錬金術、人体実験、神の力とされる第六感の研究。


 だが、知識と力は時に脅威となる。『薔薇十字団』は世間から弾圧され消えていった。

 

 しかし、一部の人々の間では、まことしやかな噂が囁かれていたのだ。この3冊の本には、ローゼンクロイツと十字団の秘密財宝のありかが隠されている…と。


 隠された暗号を解いた者には、莫大な富が手にできるのだと信じる者もいれば、財宝などではないという者もいた。


 それは、あまりに狂った凶器のため、あえて隠されたのだというのだ。


 忌まわしき凶器は、氷河期の如く草木を凍りつかせ、黒く染まった空は太陽を隠す。世界人口の約半分が死にさらされてしまうだろう。世に出してはいけない悪魔の兵器なのだと。


 しかし、17世紀初頭はあらゆる面で大きな変化が起こった時代。


 ヨーロッパを中心に政治、経済、社会、文化、科学など、様々な面で大きな変化と対立が起こり、30年間も続く戦争へと舵が切られる。


 「17世紀の危機」と呼ばれた気候変動は、不作と疫病の大流行にもつながった。

 

 しかし、それら激動の時代は、中世から近代へと移行する上で、重要な転換期だったのだろう。


 そうして『薔薇十字団』だけでなく『フリーメイソン』『イルミナティー』といった秘密結社自体が古い伝説となっていったのだ。


 人々の記憶から忘れ去られた『薔薇十字団の兄弟団の告知』の3冊は、ローゼンクロイツの孫達の手で密かに隠されたという。


 けしてこの兵器が、世界を破滅に導くことなどないようにと願って……。


*   *   *


 それから…約500年後。

 西暦2073年、日本。



 

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