第02話_王国追放のラッキースケベ術師2

「はい、幸運くん。今日から『特殊な術』の特訓を始めましょう」


ギルドマスターの声が、朝のギルド内に響き渡った。俺は緊張の面持ちで頷いた。


「まずは基本的なマナの制御からです。この魔法陣の上に立って、あなた自身のマナを感じてみてください」


老人が床に魔法陣を描いた。周囲には、安全な距離を保って見学に来た女性冒険者たちが集まっていた。


「はい、やってみます」


俺が魔法陣の上に立つと、不思議な感覚が体を包んだ。確かに、いつも「ラッキースケベ」が発動する時のような感覚だ。


「では、そのマナを少しずつ外に放出してみましょう」


俺が指示通りにマナを放出しようとした瞬間、風が吹き抜けた。


「あっ!」


魔法陣の周りに立っていた女性たちのスカートが一斉に舞い上がった。


「きゃあ!」

「やっ!」

「もう、この変態!」


怒りの声が上がる中、俺は必死に弁解した。


「すみません!本当に偶然で…」


「だから、その偶然を制御するのが特訓なのよ」ギルドマスターはため息をついた。


その時、リーザのスカートが風でめくれるのを見た瞬間、俺の頭に激しい痛みが走った。


「うっ!」


「幸運?大丈夫?」


エリザベスが心配そうに声をかけてきたが、俺はその声も聞こえなかった。


頭の中で、断片的な記憶が蘇ってきた。


杖ではなく剣を振るう俺。

魔法を唱える俺。

仲間たちと共に戦う俺。

そして、最後の戦いで魔王と対峙する俺。


「これは…前世の記憶?」


「前世?」リーザが眉をひそめた。「また変なことを言い出したわね」


「いや、本当に!僕は前世では勇者だったんです!」


周囲から笑い声が上がった。


「勇者?ラッキースケベ術師が?」

「まさか、スケベな体勢で魔王を倒すつもり?」

「『ラッキースケベ勇者』だって?面白いわね」


「でも、本当に…」


俺の説明を遮るように、ギルドの入口が勢いよく開いた。


「緊急依頼です!」


受付嬢が走ってきた。彼女は俺から三メートル以上離れた位置で止まり、羊皮紙を広げた。


「近隣の村で魔物が大量発生しています。調査と討伐をお願いします」


「これは魔王の仕業です!」俺は即座に言った。


「魔王?」受付嬢が困惑した表情を浮かべた。


「はい!前世の記憶が蘇って、魔王の復活が近いことを知りました!」


「あの…」受付嬢はため息をついた。「ラッキースケベ術師の被害妄想は、依頼とは別の問題ですので…」


「被害妄想じゃないんです!」


「まあまあ」ギルドマスターが割って入った。「とりあえず調査に行ってみましょう。幸運くんの『妄想』が本当かどうか、確認してみればいい」


「え?でも、この変態と一緒に?」リーザが不満そうに言った。


「私も同行します」エリザベスが言った。「監視のためです」


「じゃあ、三人で行きましょう」


俺は内心、勇者としての使命を自覚していた。しかし、周囲は相変わらず「ラッキースケベ術師」として扱う。


「よし、出発だ!ラッキースケベ勇者、魔王を倒すのよ!」


「だから、そう呼ばないでください!」


俺の叫びも虚しく、三人は村へと向かった。


---


村に着くと、村長が迎えに来ていた。


「ようこそ、冒険者様たち。私は村長の娘、アリスです」


金髪の美女が丁寧に挨拶した。俺は思わず目を逸らした。前世の記憶が蘇って以来、女性との接触がより危険に感じられる。


「魔物の発生状況を教えていただけますか?」リーザが質問した。


「はい。一週間前から、村の周辺で魔物の目撃が増えています。特に夜になると…」


アリスの説明を聞きながら、俺は村の様子を観察していた。確かに、不穏なマナの気配が漂っている。


「これは間違いなく魔王の仕業です」


「え?」アリスが困惑した表情を浮かべた。


「この人は『ラッキースケベ勇者』で、魔王を倒す使命があるんです」リーザが皮肉っぽく説明した。


「勇者様?でも…」


その時、風が吹き抜けた。


「あっ!」


アリスのスカートが舞い上がり、俺の顔に直撃した。


「ご、ごめんなさい!これは偶然で…」


「きゃあ!」


アリスは真っ赤な顔で後ずさり、その勢いで後ろの池に落ちてしまった。


「アリスさん!」


俺は反射的に彼女を助けようとしたが、当然のように「ラッキースケベ」が発動。


「きゃっ!」

「やっ!」


二人で池に落ち、最悪の体勢で絡まってしまった。


「や、やっぱり…」アリスの声が震えていた。「ラッキースケベ術師の噂は本当でしたね…」


「いえ、これは偶然で…」


「もういいから、調査を始めましょう」リーザがため息をついた。「魔王の話は置いといて」


---


夜、三人で村の周辺を調査していた。


「確かに、魔物の気配が強いわね」エリザベスが言った。


「魔王の復活が近いんです!」俺は必死に説明した。


「はいはい、ラッキースケベ勇者様」


「リーザさん、本当に…」


その時、不気味なマナの波動が村全体を包んだ。


「これは…」


「魔物の気配が急に強くなったわ」エリザベスが警戒した声を上げた。


「魔王の力です!確実に…」


「まあ、それは置いといて」リーザがため息をついた。「とりあえず、魔物の討伐を始めましょう」


「でも、魔王の…」


「ラッキースケベ術師の被害妄想は、後回しで」


「だから、そう呼ばないでください!」


---


ギルドに戻ると、俺はギルドマスターに報告した。


「魔王の復活が近いんです!」


「ふむ…」老人は首を傾げた。「確かに、不穏な気配は感じるが…」


「ギルドマスター、信じてください!」


「まあ、信じる信じないは別として」老人は笑みを浮かべた。「君の特訓は続けましょう。あなたのマナの制御ができれば、『ラッキースケベ』も改善されるかもしれん」


「はい!」


「では、明日から新しい特訓を始めましょう」


「はい!」


「ラッキースケベ勇者としての特訓を」


「だから、そう呼ばないでください!」


俺の叫びも虚しく、その名は既にギルド中に広まっていた。


前世の記憶は本当なのか、それとも単なる妄想なのか。その答えは、まだ誰にも分からない。

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