第十六章 魔法が秘める可能性
フランマに導かれ、サクロヘニカは迷うことなくシクラーデ鉱山から抜け出した。
外では未だに雪が降り注いでいるようで、先程よりも採掘場が白んで見える。長らく暗闇の中にいたせいか、雪の反射する光が眩しく網膜を刺してくる。
瞼が重くなるのを感じつつ、サクロヘニカは鉄扉を潜った。
外に出た途端、サクロヘニカはたちまち魔法を発動した。
風が揺らぎ、熱が渦巻き始める。手を振りあげれば、途端に現れた光風が二人を包み込んだ。
巻き起こった暖かな風が、凍結しかけたコートを柔らかくひらめかせる。風は下から上へと全身を包み込むと、最後に髪をひと撫でして跡形もなく消え去った。
風魔法と熱魔法を組み合わせた、即席の名も無き魔法。全くもって洗練されていないが、しっかりと衣服を乾かしたおかげで冷えた体には辛うじて温もりが戻った。
・・・・・・とはいえ、長時間極寒の中で水に濡れていた代償は重い。体の芯は完全に冷えきってしまっており、吐き出す息も心做しか普段より冷たくなっている。
サクロヘニカは後ろに編み込んでいた烏羽色の髪を解き、風雪から首筋を隠した。
「・・・・・・一先ず、グロウナーシャの所に戻ろうか。どこかでちゃんと暖を取らないと、内臓が凍りそうだ」
「それが良いと思います。もうじき日も暮れそうですし、戻ったらハーブティーを淹れますよ」
幾分か暗くなった冬空の下。二人は、これまでの道筋を辿るように歩く。
オルティカーナの街は相も変わらず閑静で、何一つ変化はなかった。
工房に着くと、丁度グロウナーシャが作業を終えたところのようだった。厚い革手袋を外し、工具を壁に掛け直している。
二人に気付くと、少女は最初安心したように微笑んだが、すぐにその表情を固くした。
「・・・・・・あなたたち、どこへ行ってたの?」
「少し、散策をね」
まだシクラーデの秘密を話す訳には行かない。普段通りに振る舞うも、違和感を感じ取ったグロウナーシャは怪訝な目を二人に向けた。
「散策ですって?それにしては、ずいぶんと髪の毛がふわふわになったように見えるけど?」
「ふわふわ・・・・・・?」
サクロヘニカは最初首を傾げたが、すぐ原因に思い至った。恐らく、濡れた状態から温風で手早く水分を飛ばしたため、冷気でしっとりしていた身なりがふわふわしたものに変貌していたのだろう。髪を下ろしているのも相まって、余計に不自然だ。
僅かに目線を泳がせるサクロヘニカに、少女は鋭い声を上げた。
「あなたたち、さては私の蒸気風呂を勝手に使ったんでしょう?」
「いや・・・・・・うん?」
グロウナーシャの口から飛び出した“蒸気風呂”の言葉に、サクロヘニカは疑問符を浮かべた。それを意にも介さず、少女は不満そうに頬を膨らませる。
「だって、鉱夫街の方に向かっていたでしょう?あの場所で身体を暖めようと思ったら、あのお風呂しかないもの。蒸気は地熱で起せるようにしているし、それを使ったんでしょ」
「・・・・・・ええと、そういう訳じゃないんだけど。まぁ、また後で話そう」
一旦話を濁し、サクロヘニカは話題を変えようと工房の作業机を見遣った。
そこには少しの切り屑と――小さな宝石箱が二つ置かれている。
「へぇ、もう二つ完成したんだね。少し見てもいいかい?」
「えぇどうぞ。はぁ、私も早くお風呂に入りたいわ・・・・・・」
「是非そうしてよ」
不満げにボヤくグロウナーシャを雑に労り、サクロヘニカは宝石箱の一つを手に取った。
それは片手に乗るほどの小ささで、軽すぎず重すぎない。カチリと金具を鳴らして箱を開けば、紺色の絹に包まれた花紫色の宝石が現れる。
――刹那、魔法が展開された。
地面を中心に魔法円環がふわりと浮かび上がる。空気が張り詰め、透明な魔法防壁が幾重にも重なるように現れた。
無事に魔導品として成立している。感心と共に、さらなる興味が湧いた。
これは、知慧の箱庭を守る魔法と同程度の耐久性を誇る、現在のサクロヘニカのとって叡智の結晶といえる魔法だ。
範囲はせいぜい馬一頭を囲い込める程度であるが、改良次第ではもっと広げられるだろう。
それよりも、今最も重要なのは魔力の消費量だ。
・・・・・・サクロヘニカは箱を手に取ったまま、小広場へ足を進めた。
中心付近の花壇の傍で立ち止まると、おもむろにフランマの方へ振り返る。
「それじゃあ、思いっきり私に攻撃してくれるかい?殺す気で構わないよ」
至って平然と――それこそ、今日の夕飯を相談するような声色で――語りかければ、フランマは虚を突かれたように目を瞬いた。
「俺が・・・・・・ですか?」
「あぁ、そうだよ。出来ないのかい?」
首を傾げてみせれば、彼は頭を抱えて項垂れる。
「ええと、俺は・・・・・・攻撃魔法が苦手なんです。すみませんが、他を当たって下さい」
群青色の瞳はそっと逸らされ、外套の下で忙しなく翼が揺れ動いている。珍しく動揺した様子のフランマに、サクロヘニカは少しばかり好奇心が擽られた。
「君は浮遊魔法が得意だろう?適当な瓦礫を当ててくれるだけで良いよ」
「街を傷付けてしまうでしょう」
「なら、その護身用のナイフで攻撃するのはどうだい?」
「貴方に刃物を向けたくはありません」
悉く拒否するフランマと、魔導品の実験のためにも譲る気はないサクロヘニカ。どこまで行っても交わらぬ平行線のように、延々と終わりのない応酬。
それに終止符を打ったのは、辟易した様子のグロウナーシャだった。
「・・・・・・じゃあ、交代するのはどうかしら?神獣さんが攻撃して、使徒さんが防げばいいじゃない」
「それは――」
応えようとして、サクロヘニカは何かが喉の奥につっかえる心地がした。言葉を続けようとして、次の音が出ない。
フランマを攻撃したとして、もし魔導品で防ぎきれなかったら?そもそも、攻撃魔法を意図的に発動することは先生に禁じられているし・・・・・・いや、彼を害する意図はないのだけれど。
そう葛藤するサクロヘニカを他所に、フランマは賛同の声を上げた。
「良い考えですね、そうしましょう。ですが、俺が死なない程度の攻撃にしてくださいよ」
彼は作業机の上に残されていたもう一つの宝石箱を手に取り、ゆっくりとサクロヘニカの前まで足を進めた。
軽い音を立てて宝石箱を開けると、たちまち展開された防衛魔法が彼を包み込む。
魔法の様子を確認しながら、彼はサクロヘニカへ向き直った。
「どうぞ、好きなだけ検証してください。周囲に被害の出ない範囲でお願いします」
「・・・・・・分かったよ」
これも、魔導品の品質を確認するため。そう己に言い聞かせ、サクロヘニカはフランマの方へ手をかざした。
――魔力を手先に集束し、猛り狂う暴風を手中でじわじわと覚醒させていく。目を細め、正確に標的を狙う。
防衛魔法はしっかり展開している。それは理論上、あらゆる攻撃も防げる魔法だ。フランマを傷つけることは無いだろう。
練り上げた魔力が仄かに乱れるのを感じながら、サクロヘニカは攻撃魔法を発動する。
――風が鳴った。
サクロヘニカが片手を振ると、刃のように研がれた風の斬撃が空を切り裂いて飛んだ。
防衛魔法へ命中した瞬間、空気が弾ける音が響く。
折り重なった魔法防壁が微かに揺らめく。
しかし、割れてはいない。
「・・・・・・へぇ、ちゃんと衝撃を吸収してるじゃないか」
片足を一歩引いて、サクロヘニカは新たな魔法を発動する。
小さな火種が空中に生まれ、刹那に槍状へ変化した。燃え滾る箒星のように、一直線に標的へ飛来する。
轟音と共に火球が炸裂し、爆風が巻き起こった。煙が立ち上り、焦げる匂いが鼻を掠める。
・・・・・・あ、しまった。やり過ぎた。
そう思うと同時、前方から苦しげな咳き込みが聞こえてきた。
「神獣さん!やり過ぎよ!」
煙の向こうからグロウナーシャの声が響く。サクロヘニカは咄嗟に両手を上げ、これ以上攻撃しない意志を表明した。
「ごめん、つい。フランマは無事かい?」
「・・・・・・えぇ、俺は大丈夫です。やはり貴方の魔法は研ぎ澄まされていますね」
煙の中で、フランマは咳き込みながら眉根を下げて笑った。周囲に立ち込める黒煙とは裏腹に、彼の衣服には塵一つ付いていない。
サクロヘニカは、心の底から安堵した。すぐにフランマの元へ駆け寄り、防衛魔法に異常がないか確かめる。
透明な魔法防壁に手を触れれば、バチンと激しい音を立てて防衛魔法がサクロヘニカを拒絶した。ジリジリとした鈍痛が、腕を駆け巡る。
「・・・・・・うん、問題はなさそうだね。魔法も熱も、物理攻撃も全て防いでいる。ただ、煙が入り込まないようにもう少し改良しないとね」
「いえ、あまり空気を断絶し過ぎると使用者が酸素不足で倒れかねません。少し煙たい程度でしたから、このままで大丈夫だと思いますよ」
かなりの攻撃を受けたにも関わらず、彼はいつものように冷静な分析をする。その振る舞いに、少し救われた心地がした。
先程は無遠慮に攻撃しすぎた。一つ目の魔法を難なく防ぐ様を見て、好奇心が先走ってしまったのだ。
――果たして、どれ程の魔法に耐えうるのか。
未だ渦巻く衝動を理性でを押し殺し、魔法の改良案について相談しようとグロウナーシャへ向き直る。
その瞬間。
サクロヘニカは、どこか殺気立った少女と目が合った。
「・・・・・・えっと、グロウナーシャ?どうかしたのかい?」
「あなた達・・・・・・!」
肩を震わせ、グロウナーシャはサクロヘニカを鋭く睨み付けている。
何事かとサクロヘニカが周囲を見渡してみれば、今しがたの戦闘で齎された被害が見て取れた。
小広場には瓦礫やガラス片が散らばり、出窓に置かれていた鉢植えは爆風によって落下している。滑らかだった石壁は傷だらけで、工房の方まで塵煙が漂っていた。なんとも悲惨な有様だ。
その上、薄暗くて気付かなかったが、グロウナーシャはすっかり灰まみれになっていた。白い外套は灰色がかり、落ち葉色の髪もくすんでしまっている。
少女は乱暴に髪の汚れを払い、狼狽するサクロヘニカに指を突き付けた。
「私が戻ってくる前に、ここを綺麗にしなさい!」
一喝し、グロウナーシャは怒りを隠そうともせずに小広場から姿を消した。方向からして、鉱夫街の方へ向かったのだろう。
「・・・・・・フランマ、どうする?」
「片付けるしかないでしょう。それから、夕食の支度もしておいた方が良さそうですね。・・・・・・一先ず、鉱夫たちの件は後にしましょう」
荒んだ広場に残されたサクロヘニカとフランマは、少女の心模様を鎮めるべく最善を尽くすしか無かった。
・・・・・・その後、身なりを整えて戻ってきたグロウナーシャは、塵も欠けも何一つ無くなった小広場と用意されたシチューを見て、密かにほくそ笑んだのだった。
三人で簡単な食事を摂りつつ、今後の方針や魔導品の名称について語らう内に、気付けば夜が訪れていた。
途中、鉱夫の遺体の件について話そうとしたが何故かフランマに視線で制されたため、彼らは未だ小屋の中で眠っている。
グロウナーシャは早々に工房の奥にあるという私室へ切り上げていき、サクロヘニカとフランマは工房の向かいにある廃屋を拝借して一晩を過ごすことになった。
幸い、さきほど小広場を修復、もとい再生したおかげで破壊されていた扉や窓はすっかり元の姿を取り戻している。
寒風避けの二重扉を開いて室内へと踏み入れば、予想通りに荒れ果てた屋敷が二人を出迎えた。
木製の家具は朽ち果て、湿気とホコリが空気を濁らせている。窓を覆っていたであろう布や断熱のための厚手の絨毯も、すっかりボロボロの布切れに成り果てている。
床には木片や瓦礫が散らばり、ほとんど踏み場がない。天井の一部は抜け落ちて、木板が垂れ下がっている始末だ。
そんな荒廃した部屋の中、部屋の最奥に据え置かれている煉瓦造りの暖炉が目に付いた。
長い歴史を感じさせる暖炉は、煤けていながらも崩落は見られない。煙突の手入れさえすれば、なんとか使えそうだ。
――とはいえ、そんな必要は無いのだけれど。
部屋の中央で立ち止まると、サクロヘニカは床を強く踏みつけた。床板が軋む音と同時、ホコリと共に魔力の渦が巻き上がる。
瞬く間にサクロヘニカを中心にして、魔導円環が浮かび上がった。淡く発光する光の粒が、小さな音を立てて弾ける。
「さぁ、新たな魔法を試す時だ」
床に翳した片手を、少しづつ持ち上げていく。そうすれば、呼応するように屋敷全体が軋み始めた。
感覚を研ぎ澄まし、失われた虚像を探り当てる。極限まで感知力を高めれば、微かな過去の残影を感じ取れた。
準備は整った。あとは、魔法を発動するだけだ。
「・・・・・・クレノス、レヴィス、刻よ、眠りを解け。ここに還れ、追憶の家主よ」
ラヴェンダーの瞳を煌々と輝かせ、言の葉を乗せて詠唱する。
それに応えるように、魔法円環が一際明るく瞬いた。
――壁、天井、朽ち果てた家具。そのどれもから、かつての住民の“記憶の糸”が蘇り始める。ツルのような白金の糸が、波打つように顕現する。
同時に、屋敷は音を立てて本来の姿を取り戻し始めた。
朽ちていた家具は瞬く間に組み上がり、艶やかな塗料が染み出てくる。厚手の絨毯は温もりと色彩を取り戻し、赤茶のカーテンが舞い上がって窓枠を包み込んだ。
散らばっていた木片がふわりと漂って、穴の空いた天井が補修される。
暖炉に覆い被さっていたホコリが、塵一つ残さず消え失せる。崩れかかっていた石造りの台所には調理器具が据え置かれ――天井に吊るされたオイルランプに、明かりが灯った。
「・・・・・・よし、成功したみたいだね」
屋敷の中は、すっかり見違えていた。
床には木の板材が丁寧に敷かれ、その中央で手織りの柔らかな絨毯が暖かく来客を迎え入れている。
磨き上げられた長テーブルの両脇には長椅子と背もたれ椅子が置かれ、テーブルの上には編み込みのカゴや木製の食器が整然と並んでいる。
暖炉には木彫りの置物が飾られ、夜空と草花の刺繍が入った壁掛けのタペストリーが居間に彩りを与える。
奥に控える階段までもが美しく蘇り、ランプの灯りが食卓を明るく浮かび上がらせていた。
サクロヘニカは腰に手を当て、居間を一望する。
やがて驚いた様子で玄関に佇むフランマへ視線を流すと、満足そうに目を細めた。
「どうかな?随分と綺麗になっただろう」
「・・・・・・素晴らしいですね。ですが、この魔法は一体?」
「これはかの天才、クレウスの魔法だよ。詠唱は少し面倒だけど、効果は
機嫌良く指を鳴らし、サクロヘニカは頬を緩めた。
さすがは、大魔法使いの編み出した最高位再生魔法だ。魔導書の解読に十年掛かったが、その甲斐はある。
「さて、二階と三階も見ておこうか。屋敷全体に魔法を施したから、きっと綺麗に蘇ってるよ」
軽快な足音を鳴らして階段を上がれば、短い廊下に沿うようにして並んでいる三つの扉が目に入った。丈夫なオーク材が使用され、重厚な印象を醸し出している。さらに上へ続く階段はかなりの急勾配で、倉庫として使われていたようだ。
サクロヘニカは階段近くの部屋を選び、打ち出しのノブに手を掛けた。
――扉を開けば、微かに針葉樹の香りが漂う、落ち着いた色合いの客室が現れた。
淡く白塗りされた漆喰の壁にオリーブ色の木枠が縁取られており、厚手のカーテンが寒さから小窓を守っている。
部屋の中心には、堅牢な木製フレームのベッドが据えられていた。広めの寝台には、詰め物のたっぷり入った羽毛布団と丁寧に縫われた刺繍入りのリネンカバーが掛けられ、枕も備わっている。
木枠には手彫りの
ベッドの足元に敷かれたウールの絨毯は幾何学的な菱形が繰り返された素朴な柄で、赤茶の色合いが部屋に暖かさをもたらしている。
壁際には小ぶりな書き物机と蝋燭立て、火の気の名残すらある石造りの暖炉があり、炉の上には湯沸かし用の鉄瓶が乗せられている。
棚には数冊の詩集や地図の綴りが置かれ、穏やかな時の流れを感じさせた。
「・・・・・・うん、大丈夫そうだね。フランマ、君はどの部屋を使うんだい?」
「俺は南側の部屋にしようと思います。貴方は?」
「じゃあ、私はその隣にしようかな。この部屋はいつか来る来客のために空けておこう」
扉をそっと閉じ、二人は短く就寝の挨拶をすると、各々の選んだ部屋へと姿を消した。
サクロヘニカは整えられた寝具に腰掛ける。かと思えば、そのまま体を倒して寝転がった。
「疲れた・・・・・・」
コートを脱ぐのも面倒で、ただぼんやりと天井を仰ぐ。
今日は色々なことが起こった。オオカミに襲われ、苦い茶を飲みつつも交渉を終え、シクラーデの秘密を知り・・・・・・
沈みかけた瞼をなんとか持ち上げ、サクロヘニカは深く息を吐いた。確かめるように、柔らかな寝具に触れる。
かの天才クレウスの編み出した、最高位再生魔法『記憶の刻』。
性能は申し分ないが、代価が酷い。魔力の三分の一は持っていかれた。
「・・・・・・これは、一日一回が限度だ」
一度に多くの魔力を消費したせいで、未だに頭が眩んでいる。クレウスが早死した理由が窺えるような気がした。
サクロヘニカは、密かに嘆息する。
彼のような偉大な魔法学者と同じ時を生きられたなら、どれ程良かっただろう。きっと最高位魔法を数多く編み出し、歴史に名を刻み、後世の魔法学者への道標となることだって不可能じゃなかったはずだ。
・・・・・・いや、そうじゃない。そんなもの、ただの副産物だ。
確かにかの天才は、神業の如く強大な魔法を編み出した。魔法学の道筋を照らし、
だが、彼はもう死んだ。立ち止まった先人の後ろ背を追うなど、全くもって無駄である。
魔法学はこれから遥か遠くへ向かう。先人の名など、やがて歴史の激流に揉まれて色褪せるだろう。
魔法革命と、それに伴う新時代の幕開け。それこそが、サクロヘニカの成すべきことだ。
「私は時代を変える・・・・・・魔導品を普及させ、魔法学の礎を築いて、もっと、幻想で溢れた世界を――」
――とある神獣の果敢な独り言は、後の歴史書に刻まれることも無いまま、柔らかな寝具へと沈むように消えていった。
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【
かのサクロヘニカ・サルベールが編み出した高位魔法。
十二層の魔法防壁が円環状に折り重なり、外部からの攻撃を段階的に吸収・遮断する。
いかなる魔法攻撃、物理干渉の他、熱と水も通さない。しかし空気が完全に絶たれることはなく、長時間でも安全に展開することが出来る。
魔法式の単純化や魔導品への転用など、画期的で洗練された仕組みが施されている。
守環魔法を用いて製作された宝石箱型の魔導品は『守箱シルフィネ』と呼ばれ、新たな時代の礎となった。
【影包みの指輪】
あらかじめ設定した地点へと一瞬で移動することができる、個人向けに設計された指輪型の魔導品。術者の魔力で座標を固定する。
短距離転移も可能で、戦闘中の回避にも用いられる。
かつてのグリュッツェ工房で製作されたと考えられており、現存している最古の品は魔導博文館で保管されている。
後に、高位魔法『時結びの路』の原形となる。
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