第七章 命の灯火
季節は巡る。
静寂に包まれた箱庭に、しとしとと泡雪が降り注ぐ。
時は流れ、原初の天使とサクロヘニカが出会ってから十三度目の冬が訪れた。
ここ暫く、サクロヘニカは研究室に篭もりきりでいる。
――旅を終えた彼女は、以前とは見違えるほど表情や感情が豊かになっていた。
フランマやラフィイルを思いやるような言動も増え、原初の天使が箱庭を留守にする間はどこにも異変がないか気にかけるようにもなった。
サクロヘニカは原初の天使に魔法について教えを乞い、日々魔法の研究に明け暮れながらも、年に数回はエイミやムッシュの元へ赴いていた。
そうして魔法についての知識を得ていくにつれ、彼女の才覚は瞬く間に華開いた。
一目見ただけで魔法の原理を見極めるようになり、それらを応用した魔法すら自在に使いこなすようになった。
いつしか新たな魔法式を生み出すまでに成長し、彼女は順調に魔法学者としての道を歩んでいた。
やがて己の利益、好奇心のために魔法の極地を追求するサクロヘニカにとって、大抵の問題は些細なものとなっていった。
ウエルネルタへ足を運ぶ回数も減り、俗世の時の流れから離れ始めていく。
箱庭は静かだ。なにせ、ここには邪魔者も悪者も存在しない。
――しかし平穏とは、永遠に続くものでは無いのである。
サルベール歴一三九年。一月 四日。
星時計が零時を示す頃。冬の星座が薄暗い箱庭を照らしている。
知慧の大図書館の一室、原初の天使の書斎へ一羽の
原初の天使はそれを紐解いて手紙に目を通すと、紺碧の瞳を物憂げに伏せた。
――深夜。サクロヘニカが使用している別館の研究室に、ノックの音が四回響いた。
「・・・・・・どうしたんだい?フランマ」
サクロヘニカは解読途中であった魔導書から顔を上げ、扉の方へ声を掛ける。
何者かが部屋を訪れる際、扉を四回ノックするのは大抵フランマだ。しかし彼が研究室を訪れるのは、無茶な魔法を使ったことへのお説教や昼食の誘いなどが殆どであるため、このような夜更けに訪れるのは珍しい。
サクロヘニカの呼び掛けに、フランマは少し言い淀むように沈黙した。数秒の間の後、彼は静かに扉を開く。
「失礼します、サクロヘニカ。先程、ウエルネルタから手紙が届きました」
「手紙?」
首を傾げるサクロヘニカとは対照的に、フランマは重い空気を纏っている。苦しげに顔を歪ませると、フランマは手紙の内容を簡潔に伝えた。
「――ムッシュ・コルニが病に倒れ、
サクロヘニカはすぐさま荷物を片付けると、フランマと共にウエルネルタに向かった。寝る間も惜しんで馬を走らせ、到着したのは朝方であった。
朝霜を纏ったウエルネルタは、白み始めた空も相まって寒々しい。街に灯っていたはずの街路灯は沈黙し、建物の間は薄暗くなっている。
シュテルケ馬が吐く白い息と、頬を刺すような寒さが酷く煩わしかった。
「ムッシュさんは教会で治療を受けているようです。急ぎましょう」
「言われなくても」
サクロヘニカは言葉少なに応じると、教会へと繋がる坂道を駆け上った。
教会の前に馬を停め教会の扉の前まで辿り着くと、サクロヘニカは両手を使ってゆっくりと重い扉を押し開いた。
教会の中は、静まり返っていた。
ステンドグラスから零れる弱々しい冬の光が、礼拝堂の奥に在する祭壇を淡く照らしている。
ふと、人の気配を感じた。礼拝堂の右奥にある部屋から微かに光が漏れ出ている。確かそこは、怪我人の治療をするための医務室だ。
サクロヘニカは迷わず足を進めた。礼拝堂に並ぶベンチの間を通り、祭壇を横切る。部屋の扉は薄く開いており、中から小さく話し声が聞こえた。
念の為、扉をノックする。
「ムッシュの様子を見に来たよ。入ってもいいかい?」
「・・・・・・サクロヘニカか?ああ、入ってくれ」
応えたのは、エイミの声だ。いつもよりも元気がない。
そっと医務室の扉を開くと、そこには数人の人影があった。エイミの他、ムッシュが教会で保護していた孤児たちと、ムッシュの治療に当たっているであろう医者。
静かな医務室の一角に備えられたベッドのうちの一つに、ムッシュは寝かされていた。
今は眠っているのか、その瞳は固く閉ざされている。
「ムッシュさんの容態は?」
フランマが医者の男に問えば、医者は難しい顔をしながらムッシュの衣服の袖を軽くめくった。
「・・・・・・悪性腫瘍ですかね。少し診させてください」
フランマはムッシュの体を調べ始める。サクロヘニカはその様子をただただ眺めた。
――ムッシュの髪は、初めて出会った時より随分と白く染っている。
元々シワだらけであった顔にはさらにシワが刻まれ、手指は心許ないほど細い。
サクロヘニカは、たった十三年で酷く老いぼれてしまった彼に、どこか失望した。
「もう、長くは持たないでしょうね」
診察を終えたフランマはベッドの傍から離れると、サクロヘニカを見て驚いたように目を開いた。
「サクロヘニカ?どうしました?」
「何の話だい?」
「・・・・・・いえ、何だか怒っているように見えたんですが」
「・・・・・・まさか」
サクロヘニカは誤魔化すようにムッシュの傍へ歩み寄ると、細くなった指に触れた。辛うじて体温を感じる。
老いや病を知らなかった訳では無いが、目の当たりにするのは初めてだ。
「・・・・・・治癒魔法は使えないのかい?」
「治癒魔法が使えるのは表面的な傷だけです。内部を侵す病や精神的なものを癒すことはできません」
「そうかい」
それもそうだろう。そもそもムッシュは治癒魔法が得意だった。ただの外傷なら自分で治していたはずだ。
沈鬱な空気の漂う医務室に、酷く落ち込んだようなエイミの声が響いた。
「・・・・・・ごめんな、多分、俺たちのせいでもあるんだ」
以前より凛々しくなった鉛色の瞳が、不安げに揺れる。
エイミも随分と成長した。四年ほど前に手芸店の娘と結婚し、今では子供も生まれているのだという。
申し訳なさそうに、彼はこれまでの事情を説明する。
「最近、この辺りで強盗が増えてるんだ。それで、ムッシュじぃさんは街のために防衛魔法を使い続けたり周囲を警戒したりしてて・・・・・・それで余計に体が弱ったんだと思う」
その話を聞いていた孤児の一人が、悲しげに目を伏せた。
緑色の瞳をした赤毛の少女。確かその子は、強盗に襲われて両親を失ったとムッシュが話していた。
「そうだったんですね。すみません、もっと俺が手助けするべきでした」
「いやいや、フランマだって凄く忙しいんだろ?本当は俺たちが自分で身を守れるようにならなきゃいけなかったんだ」
エイミは悔しそうに頭を掻いた。フランマの方も、どこか暗い表情をしている。
「・・・・・・ひとまず、原初の天使様に報告の手紙を書いてきます。ムッシュさんの代わりに書庫を管理する者の手配もしなければいけません」
フランマはそう言うと、静かに医務室を後にした。残されたのはサクロヘニカとエイミ、そして孤児たちと医者の男だけである。
部屋には、重い沈黙が流れる。
「・・・・・・サクロヘニカ、良かったらうちの店に来るか?今日はまだ何も食べてないだろ」
「あぁ、そうさせてもらおうかな。フランマも暫く戻らないだろうし」
そう答えてサクロヘニカは医務室の外へ足を向ける。しかし扉を潜るその前に、エイミは孤児たちの方を振り返った。
「お前たちにも、後でパンを持ってきてやるからな。少し待っててくれ」
彼が優しげに声をかければ、子供たちが微かに色めきだったのが分かる。ムッシュが倒れてからずっと朝食もとらずに居たのだろう。
サクロヘニカはムッシュの顔を一瞥すると、エイミと共に医務室を後にした。
教会を出て、坂道を下る。
早朝の街は閑散としていた。朝を告げる小鳥やいつも店先で寝ている猫も、寒さを凌ぐためか姿を消している。
二人は『夕暮れの雲』の裏口から店内へと入った。
エイミはサクロヘニカを休憩室に案内すると、いつかと同じようにお茶を淹れた。
「ごめんな、まだパンは焼けてないんだ。今シーチカが仕込みをしてるところでさ」
「・・・・・・あぁ、あの子か」
シーチカは、エイミの妻である。可愛くて働き者で献身的だと、エイミがいつも惚気けていた。
店で何度か見かけたことがあるが、白金のような髪と活発そうな笑顔が印象的だった。
「それで、サクロヘニカは最近どうしてたんだ?」
「いつもと変わらないよ。魔法の研究と実験ばかりだ」
冷たく応えるサクロヘニカに、エイミは苦笑いする。
「サクロヘニカは変わらないなぁ。それこそ、初めて会った時から歳をとってる風には見えないし」
「・・・・・・不気味かい?」
「まさか、そんな訳ないだろ?サクロヘニカは俺の恩師でもあるんだし」
エイミはさも当然のように答えた。その瞳には、いつも通りの明朗さを取り戻している。
恩師――というのも、サクロヘニカが読み書きを教えてからエイミはコツコツと文字の勉強をし、いつしか自分で材料の発注が出来るようになったのだ。
しかし豊穣の都で店を開こうとしていた矢先に『夕暮れの雲』の店主であるエイミの父が倒れてしまい、彼は街に残って『夕暮れの雲』を引き継ぐこととなったのだが。
「・・・・・・まぁ、豊穣の都には行けなかったけど、俺は今の生活に満足してるよ。シーチカとも出会えたし、可愛い娘も生まれたからさ」
彼は幸せそうに頬を緩ませると、一息つくように温かいお茶を口に運んだ。
その時、ふとサクロヘニカの頭にある疑問が浮かんだ。
「そうだ、そういえば君の子供の名前は?聞いた覚えがないような――」
「ん゙」
サクロヘニカがなんでもないように訊けば、エイミは盛大に噎せてお茶を吐きかけた。その様子に、サクロヘニカは目を瞬く。
「エイミ?どうしたんだい?」
「いや、なんでもない。その、出来れば怒らないで欲しいんだが・・・・・・」
エイミは口元を拭うと、非常に言いづらそうにしながら口を開いた。
「実は『へニカ』って名前にしたんだ。その、サクロヘニカには色々お世話になったし、子供にもその事を伝えたいと思ってさ」
――『へニカ』という名を聞いたサクロヘニカは、驚いたように目を見張った。しかしその数瞬後、その目元をゆるりと緩ませた。
「怒るわけないだろう・・・・・・とても良い名前だ」
それが、彼女の今日初めての微笑みだった。
フランマは、教会の一室で箱庭宛ての手紙をしたためていた。
手紙にムッシュの容態や代理の書庫番についての報告を記すと、小さく紐で結んで窓辺へ向かう。
「スノウ、居ますか」
冬空へ呼び掛ければ、どこからともなく一羽のフクロウが窓辺に舞い降りる。
黄金の瞳と、新雪のような純白の翼。
凛とした佇まいは、その気高さと高尚さを感じさせる。
「この手紙を箱庭へお願いします」
フランマは白梟の足に手紙を括り付ける。その紐はフランマの瞳と同じ、群青色だ。
スノウと呼ばれた白梟は応えるように鳴き声を上げると、一度の羽ばたきで冬雲に溶け込むように飛び去って行った。
彼は隠匿魔法の名手である。誰かに邪魔をされることは無いだろう。その姿を最後まで見送って、フランマはため息をついた。
――ムッシュはこれまで、ウエルネルタの為に尽くしてきた立派な御仁である。
怪我人を治療し、孤児を保護し、人々に分け隔てなく知識を与えた。
危機が迫れば防衛魔法を行使し、それでなくとも街の様子をずっと見守り、街路灯に暖かな光を灯し続けた。
フランマも、彼には何度か助けられたことがある。
彼の魔法に関する知識は目を見張るものがあった。複雑な魔法を簡略化し、効率良く扱う術をフランマに教えてくれたのだ。
「・・・・・・ムッシュさん、貴方は偉大な人です。これまでウエルネルタを守り続けて下さりありがとうございます」
フランマは祈るような思いで、胸元に手を重ねて目を閉じた。
――その時、突然慌ただしい物音が聞こえ始めた。
何事かとフランマが部屋を出ようとするも、その前に何者かが部屋の扉を叩いた。声からして、おそらく子供だ。
「フランマさん、ムッシュおじいちゃんが死んじゃった!!」
切羽詰まったような悲痛な声色に、フランマは弾かれたように部屋を飛び出した。
その頃サクロヘニカは、エイミと共にパン屋の休憩室で休息をとっていた。
途中エイミが「そろそろパンを焼かないと。サクロヘニカはここで休んでていいからな」と言い残して休憩室を出ていき、サクロヘニカは一人でパンが焼ける匂いを堪能していた。
焼き場の方からはエイミと女性――シーチカの暖かな笑い声が聞こえてくる。
子供、もといへニカはまだ寝ているのだろうか。なんてぼんやりと考えていた時だった。
「――サクロヘニカ!居ますか?!」
フランマの声が聞こえた。裏口の方からだ。
彼がここまで声を張り上げるのはとても珍しい。恐らく何か問題が起きたのだろう。
サクロヘニカは素早くお茶を飲み干すと、エイミに一言声を掛けて外へ向かう。
裏口にはフランマが居た。やや翼が乱れ、息を弾ませている。
「フランマ、一体どうしたんだい?」
「それが、ムッシュさんの容態が急変して――亡くなりました」
「・・・・・・なんだって?」
亡くなる、つまり死んだということだ。
先程までは暖かかった。病死とはそんなに突然なものであるのか?
混乱しながらも、サクロヘニカは教会へと急いだ。
教会の扉は開け放たれていた。滑るように中へ入り、一直線に医務室に向かう。
医務室の扉の前には孤児たちがいた。みな暗い表情をしている。
彼らの間を通り抜けてムッシュのもとに行くと、そこには先程と変わらず、固く目を閉じて眠っているムッシュが居た。
医者の男はムッシュの口元を拭い、その寝姿を整えている。
「・・・・・・先程、突然嘔吐し、そのまま急逝しました」
フランマは眉をしかめながら、そう説明した。サクロヘニカはそれを聞き流してムッシュの傍に向かう。先程と同じように指先に触れる。
まだ、暖かい。しかし真っ白だ。鼻をつく香りがする。
サクロヘニカは目を細める。ラヴェンダーの虹彩が揺れる。
その時彼女は、生命の灯火が消えたことを実感した。
――その後、フランマは医者と共にムッシュの遺体を整えた。
他の者は部屋を出て、彼を埋葬する準備を始める。彼を安置する棺を用意して、いくつかの香煙を炊いた。
教会に駆け付けたエイミは、ムッシュの訃報を聞いて泣いていた。それにつられて孤児たちも泣き始め、教会の中は随分と賑やかになった。
医務室から出てきたフランマは思い詰めた様子でサクロヘニカの隣へ並ぶと、口元に手を添えながら深く思案し始めた。しかしサクロヘニカは特にそれを気に留めず、いつもと変わらない調子でフランマに話しかける。
「ムッシュは慕われていたんだね。こんなにも大勢の人が彼のために泣いているんだから」
「・・・・・・えぇ、そうですね」
どこか上の空で返事をすると、フランマは思い巡らすように教会の中を見回した。
「・・・・・・俺は今日の不寝番をします。サクロヘニカはこれからどうしますか?」
「私も付き合うよ。夜更かしは得意だ」
「分かりました。では、また夜にここで会いましょう」
そう言うや否や、フランマは再び医務室に戻って行った。どこか違和感を覚えながらも、サクロヘニカは教会を後にした。
時計の針が、夜の訪れを告げる。
雲間から覗く寒月が静かにウエルネルタの街を照らしている。
サクロヘニカが教会へ行くとそこには既にフランマが居た。
そのすぐ傍、祭壇の前に用意された棺の上でムッシュは眠っている。
棺を取り囲むように蝋燭が灯され、暗い教会の中でそこだけが薄ぼんやりと照らされているのがなんとも度し難い。
明日、ここで街の人々が彼に別れを告げてから教会の裏手にある墓地に埋葬される手筈だ。
そのため今夜は静かに眠る彼に手を出そうとする不届き者が出ないよう、二人は夜通し見張りをすることになっている。
サクロヘニカはフランマの隣まで来ると、祭壇に寄りかかるようにしながらぼんやりと礼拝堂を眺めた。
なんでもないように、言葉を紡ぐ。
「・・・・・・それで、一体何を悩んでるんだい?」
「・・・・・・何の話ですか」
「とぼけなくていい。ずっと考え込んでいるだろう」
サクロヘニカが探るようにフランマの瞳をじっと覗き込む。やがて、彼は観念したのか深いため息をついた。白い吐息が月明かりに照らされる。
「・・・・・・ただ、不自然だと思っただけです」
「というと?」
「全てがあまりにも急すぎます」
フランマは怪訝そうに眉をしかめながら、ゆっくりと己の見解を述べていく。
「ムッシュさんは確かに弱っていましたが、急死するような状態ではありませんでした。それに、医務室から人が離れた途端に発作が起きたと言うのも――」
そこで言葉が途切れる。
フランマは、ムッシュの顔をじっと見つめていた。その群青色の瞳には動揺が見て取れる。
「・・・・・・いえ、全て憶測にすぎません。今夜何も起こらなければ、明日箱庭に戻ってから原初の天使様に訊いてみようと思います」
フランマは複雑そうな顔をするとムッシュの遺体から目を逸らし、仄暗い礼拝堂を朧気に眺め始めた。
原初の天使は天界の誰よりも長寿で博識だ。彼女の意見を仰ぐのは賢明な判断だろう。
そのまま黙り込んでしまったフランマを横目で見ながら、サクロヘニカは夜が開けるのを静かに待った。
翌朝、教会ではムッシュの葬儀が執り行われた。
フランマが代理の司祭として場を仕切り、人々は順にムッシュへと花を手向けて最期の別れを告げた。
サクロヘニカは礼拝堂の隅で、それを半ば閉じた目で眺めていた。
人間たちがこうして死者を慈しむことは知っていたが、いざ目の当たりにするとあまり意義を感じられない。こんな事をしても、もうムッシュは居ないだろうに。
葬儀の途中サクロヘニカを見遣ったフランマはそれを察したのか何か言いたそうにしていたが、結局何を言うでもなく儀式を続行した。
その後棺は数人がかりで墓まで運ばれ、ムッシュは皆に見守られながら埋葬された。
不思議なことに、埋葬が終わった途端ウエルネルタには泡雪が降り始めた。
澄んだ空を見上げれば彼の白梟が弧を描きながら飛んでいた。
それはまるで、世界が彼に別れを告げているようであった。
「・・・・・・サクロヘニカ、この後はどうしますか?」
「フランマに任せるよ」
「では、一度箱庭に戻りましょうか」
サクロヘニカとフランマは葬儀が終わり人々が恙無く墓地を離れていくのを待って、ウエルネルタを発った。
収穫を終えて黒々とした白雲麦畑の間をシュテルケ馬に乗って進む。雪の混じった冷たい風が二人を追い立てるように吹いている。
遠ざかっていくウエルネルタを時折振り返りながら、二人は箱庭へと戻った。
純白の教会が、そんな二人を静かに見下ろしていた。
――後に、それは二人が見たウエルネルタの最後の姿となった。
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【ウエルネルタ自警団】
ウエルネルタの有志によって結成された治安維持組織。その存在によって犯罪を抑制し、有事の際は実力行使によって人々を守る。
人員不足に悩まされており、警戒できる範囲や戦力に限りがあるためエデルヤーヌ騎士団から人員を派遣してもらっている。
【エデルヤーヌ騎士団】
聖都イツェルニエに拠点を置く、調和の国の国軍。
調和の国の治安維持や、聖都へ赴く人々の護衛にあたっている。
天界屈指の誇り高さと道義心を持つ騎士団として、他国で発生した事案や暴動の鎮圧に向かうこともある。
天命の国に存在する
現在は調和の祭典に伴い、各地から都へと集結している。
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