第18話
やらかしをやり切って学園を後にしてもむしゃくしゃした気持ちがおさまらなかった海流は、ネカフェに戻ってもスマホを機内モードにして机に放り出し、外界の情報は一切遮断。
ひたすら夕方までオープンワールドRPGのフィールドを駆け回った。
それはもう単純に。simカードを正規の海流の物に入れ替え直したらFクラスのグループRINEに来るだろうクラスメイトからの書き込みを見るのが怖くて開けないでいたのだ。
おそらく学園からも迦允からも海流を召喚するメールやメンションが届いていそうで、フフ……怖い。
自分ですっかりやらかしておきながら、ビビりの海流である。
しかしいつまでもこの状態ではマナデジタルの操作に長けた東雲の兄弟からの連絡だけは気になるので、海流は意を決して恐る恐るスマホを見る。
明るくなった画面を薄目で見、ロック画面の通知欄を確かめるとそこにはこの偽造済のsim端末の持ち主を知っている春日から、RINEやマナグラムに鬼のような回数のメンションが届いていた。
今この瞬間も「海流サン!返事して!」と、ポコンと本日何十何百回目かわからないメンションが入る。
何やら胸騒ぎがして海流は慌ててロックを解除し、通知をタップしてRINE通話に繋げた。
「どうした?春日。何かあったか?」
「ガイルざん!よがっダ!繋ガっダ!」
春日はスマホの向こうで泣きじゃくっていた。
「悪い、いろいろあって連絡しそびれた」
実は屋敷を飛び出して……とか、学園でやらかしてとか、言葉に出して伝えようとしたが、春日の絶叫に何もかもかき消された。
「夏日が!攫わレたんでス!ユーカイでス!」
「は?」
海流は思わずスマホを取り落としかけた。
「『テイマー』とはいえ春日ほどじゃねーが、夏日だって多少の召喚は出来っだろ?。攫われたっつってアイツが悪辣に遅れを取るとは思えねえが」
「それが……」
屋外に居た春日は息を整えながらカフェ街の路地に入るとその場に座り込んだ。
「登校前でしタ。
『歩くノも健康的デ良いネ』って夏日と2人デなんとなく歩き通学を続けてタんですが、そしたらいきなリ数人の男ノ人に道を塞がれて。
あいつラ、既ニ『海流を人質に取ってる』って言ったんでス!。
まさカと思っタけど僕ラ、確かニ海流サンと昨日かラ連絡を取れていませンでしたシ。
僕タチが顔を見合わせテ一瞬動揺しちゃたラ、そノ隙ニ男ノひとりニ夏日が捕まって。僕は思わズ怖くなって逃げちゃって。
2人とモ捕まってるって言うのニ、僕、逃げちゃっタ!」
春日はヒグッとしゃくり上げて泣いた。
「気にするな、そんな状況なら俺様だって怖気付く。それで?」
「は、はい。で、逃げこんダ先でその時学園ノグループRINEから通話が来て、カイルさんが教室で自爆ぎみに元気ニ暴れてタってクラスメイトに教えて貰って。
『無事だッたんダ!』って、アイツらが言ってタ事は嘘だったんダ!って安心しましタ。
けどじゃア夏日をユーカイしタのは何故?って考えてたラ、夏日ノスマホからマナグラむニメンションが来て
『コイツを返して欲しかったら本物の海流と交換だ』って。
来なイなら殺すって!警察ヤ迦允様ニ伝えても殺すって……。
僕、僕……!ずっと不安でカイルさんを探しテ学園ニも行ったシ、街中も探し回って、朝かラずっと……。やっト繋がっタ!繋がッタヨ!!」
わんわん泣く春日に「悪かった、ごめん」と何度も繰り返し海流はどうにか春日の涙を落ち着かせた。
「夏日を誘拐した奴らは他には何も要求しなかったのか?」
「えっト『20時に立川のG陸橋で待っている』ってメンションがありまシタ」
20時と言えば。
海流はスマホの時計を見る。
今は18時半。ここから立川まで、電車で1時間くらいだからなんとか間に合うな。
コンビニで転移陣を買うかマジックバッグさえあればあの転移ミストで転移を……いや、あれらは一度でも行った事のある場所じゃねーと使えなかったっけか。
くそっ!俺が錬石術師ならこの場でそれを『位置データをよすがに転移出来る転移ミスト』に魔改造したヤツを造り出せるのに!。
海流はギリっと歯噛みをするが、そんな猶予は無いと思い直して固く拳を握りしめる。
それに立川と言やあ反社が根城にしているとか言う「皇国に幾つか点在するブラックゾーン」だ。
この地がリル・ダヴァル王国だった頃から身を持ち崩した櫻井の輩が住み着き、今もはぐれ者が流れ着いているとも聞く。
何が待ち構えているかわからねえ魔境だ。覚悟決めていかねーとな。
海流はスマホを片手に、ネカフェを飛び出した。
最寄りの駅まで全速力でひた走る。
「大丈夫だ、春日。夏日は俺が必ず助ける。お前は、もう何も心配せず、東雲の屋敷に帰って、待て」
走りながらも決して焦りを見せないように、春日が落ち着くように出来るだけ息を乱さぬよう努めて話す。
「ダメでスカイルさん!。僕タチは海流サンノ護衛だかラ。
さっきまデは取り乱しちゃってたけド、カイルさんが無事なら僕タチは死んでモ……!」
ほんの少し気力を取り戻した春日は自身の職務を思い出し、慌てて海流を止めた。
海流は心底おかしそうに笑って
「いいや、お前達は俺様の護衛である前に俺様の大事な親友なんだ。その親友に命の危険があるってのに見過ごせる訳ねーっつの。
万が一の事があっても、夏日だけは必ず生きて返すから、な?」
通話を切る。スマホをバトン代わりに握りしめ、海流はギアを上げて走った。
少しでも早く夏日の元へ向かう為に。
「いけませんカイルさん!…あ!切らなイでカイルさん!カイルさん!」
切れてしまった通話に春日は何度もタップし直すが、繋がらない。
泣いていル場合じゃなイ。
「僕モ行かなきゃ……2人は僕が助けル」
春日も、疲れ果てて座り込んでいた路地裏から立ち上がると、海流と同じく駅を目指して走り出した。
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