君に編む「物」語 第1話 ~魔触転生~1
衣麻
第1話
時の宰相でありこの皇国の筆頭公爵である「『錬石術師』 櫻井迦允(さくらいカイン)」には2人の息子が居た。
長男の名は「海流(カイル)」、歳が少し離れた次男の名は「乃蒼(ノア)」と言った。
2人はそれはそれはもちろん数多の例によって例に漏れず、「次男の乃蒼のみ」父母や親戚に連なる血族一同だけならず、付き合いのある諸侯や果ては使用人に至るまで皆に愛され誉めそやされてすくすくと育った。
だが長男の海流は父母以外の誰1人にも見向きもされず、「無能」のレッテルを貼られ、姿を現すだけで眉を顰められる所為で海流はどこへ行くにも息を殺して耳を塞いで生きてきたのだった。
なぜ海流は「無能」のレッテルを貼られたのか……。
その為には「全世界」において唯一無二、櫻井家の血族だけが持つ異能「錬石術師」の能力ついて語っておきたいと思う。
「錬石術師」とは、「生命」を持つ生き物…、動物や植物が死す際に遺骨や抜け殻など以外で残す「魂の痕跡石『プシュケ』」と呼ばれる石を、精霊の祝福をもって術師がイメージする物質に造り替える異能力者の事である。
その辺りにいる一般的な『錬金術師』とは違い、ずっと実験室にこもって鉄や鉛から金を作り出しもしないし、ましてやとある界隈で有名な概念の「等価交換」と言うものも無い。
術式の発動には術師自身が誕生時に祝福を授けてくださった精霊に「祈り」を「編む」だけで良く、その後は精霊が石を造り替えてくださるのを待つだけで「魔力」すら必要としない。
そう、「錬石術師」に「魔力」など必要無いのだ。諸兄諸君にはこの点を一つ覚えておいていただきたい。
まあ感謝の礼として自身の魔力を対価代わりに差し出す事はあるが。
ちなみに「錬石術師」の強者はたったひとつまみの、小指の先に乗るほどのプシュケで満漢全席やら豪華客船やら、食物も無機物も関係無しに想像する物を想像通りに創造出来る。
我らの崇高なる皇国全土に張り巡らされている、陸海空を問わない交通網や水道下水道などのインフラも全て櫻井の血族によって創造され、維持されているのだ。
ああ、そうそう。「魂の痕跡石」と聞くと貴重な石だと勘違いされがちだが、その辺の雑草がプチンと千切れただけでも生まれ落ちる程度に普通に転がっている石ころなので、特に気にせずうっかり蹴っ飛ばしても錬石術師は気にも留めないので安心して欲しい。
死の無い土地など無いのだから。
…とは言え出来ればトイレに転がっていたプシュケなどで食物は錬石して欲しくはないが。
こほん、「者」語を元に戻そう。
「彼」こと「海流」が「無能」のレッテルを貼られたのは、誕生したその瞬間からだった。
「錬石術師」に絶対的に必要な「物」は、柔軟かつ極めて優れた想像力と誕生時に祝福を授けに駆けつけてくださった精霊の数である。
彼の父「櫻井迦允」などは誕生時に500柱をゆうに超える精霊が祝福に駆けつけたと言うのに、迦允の初子で統領息子の「海流」が産声を上げた時は「火の精霊」と「水の精霊」と「風の精霊」と「土の精霊」というたったの4柱しか祝福に現れなかったのである。
しかも海流が生まれて数時間、待てど暮らせど精霊の誰1人も現れてくださらなかったので、迦允がたまらず日々特に懇意にさせていただいている4柱に願いでて、ようやっと来てくださったくらいだ。
それも、嫌々なのをまったく隠そうともせず、海流の顔すら見ることなく、彼らは略式の祝福のみ与えるとさっさと祀られているの祠に帰ってしまったのだ。
「偉大なる精霊達よ!何故私の息子に祝福を授けてくださらないのですか?!」
たまらず迦允は先程祝福をいただいた4柱以外で、魔力回路を通じて繋がっている全ての精霊達に叫ぶように尋ねる。
柱達が一切の返答を拒否していた中、渋々と面倒くさそうに言葉を発したのは彼ら全ての精霊達を束ねる創造神「ケメティエル・ベリアル・アティエル」だった。
「我が愛し子迦允よ。その子供は『外れた』のだ」
「『外れた』とは?どういう意味でございますか?」
迦允は我が子、櫻井家の血族特有の遺伝子を色濃く受け継いだ、よく日に焼けたような褐色の肌色を持ち、ふんわりと焦茶色の産毛を生やしてすよすよと眠っている海流を抱きしめながら問い返す。
創造神は答える。
「お前は創『造』神たる我が創りし子の血族だが、その子供の母は創『世』神が産みし子の血族ではないか。
創造神が創りし櫻井と創世神が創りし血族の聖良(せいら)……。
交わってはならぬ2界の者が交わった事によって生まれ落ちた『歪んだ子供』など『「我が」世界の理』は決して受け入れぬ」
「……っ!そんな!!」
「その事はお前がその娘との婚約の意を伝えて来た時にすでに言い渡していたはずだが、よもや忘れたとは言うまいな?」
確かに。
迦允はギリリと歯噛みした。
2神にそれぞれ婚約の伺いを立てた時に迦允は創造神より「その婚儀をとり行うならば祝福を与えるのはお前までだ」と言い捨てられた覚えはあった。
祝福が無くなる……。
それは創造神が彼の世界を作られた黎明より、代々続いてきた櫻井家の血族と精霊達との契約の歴史が迦允の代で途絶える事を意味していた。
しかし迦允は創造神の祝福の終了の宣言後も、迦允や他の櫻井の血族に変わらず心安く接してくださる精霊達との関係の中で
『子供が生まれる頃には創造神様達のお怒りも鎮まっているのではないか?』
と考えていたのだ。
そんな甘い期待を打ち砕かれた絶望に、次に口に出来る言葉が見当たらない。
それは創造神と敵対している創世神の愛し子、迦允の妻になる為に臣籍降嫁するまでこの皇国の第3皇家「聖良」の第8皇女であった「芝蘭(シラン)」もまたひどく動揺した。
芝蘭が迦允を恋慕うようになったのは幼稚舎で出会った瞬間からだった。しかし迦允には芝蘭の他に思いを寄せる相手が出来る事をその当時から己の異能を以って「視(し)って」いた。
初めから諦めていた。
逆にその2人の未来に幸いあれと応援する心積りでさえいた。
けれどどういうわけか芝蘭が『視(み)』た未来は変わった。
迦允と「あの高貴な方」との婚姻話が婚約まで済ませたという段階で立ち消えになり、それを耳にした芝蘭は「この『世界線』しかない!」と奮い立ち、皇権の何もかもをフル活用して、いや、生来より創世神から授かった「異能」も何もかもを総動員して迦允の妻と言う座を掴み取ったのだ。
そこまでして孕んだ愛しい子が「無能」だなどと、芝蘭は信じたくなかった。
「創造神さま、ひとたびだけ。たったひとたび、この瞬間のみで結構でございます。どうか創造神さまにとっては穢らわしいわたくしが発言する事をお許しくださいませ」
芝蘭は産褥の床からなんとか身を起こし、決して開いてはならない瞳を閉じたまま迦允の気配を手繰り、触れた迦允の温かな腕に縋りながら創造神にうかがいを立てる。
「よかろう」
迦允が浮かべている絶望と苦悶の表情に満足したのか、創造神はしたり顔を浮かべているであろう声音をまったく隠さず、笑いすら帯びた声で返してきたので芝蘭は思い切って尋ねた。
「それはひとえにわたくしの血筋が、創造神さまと敵対なさっておられる創世神さまが手づからお創りになられた血族だからでしょうか?。であればわたくしのみ断罪をお下しくださいませ。この子に罪はございません」
創造神はほっほっと笑う。
「ああ、その子供に罪は無い。そなたの血も穢れているとは我は思わぬ。創世神からすれば実に清らかなものであろうと想像できるな。それゆえに」
「『それゆえに?』わたくしの子が罪すらも犯していないのなら、何故でございますか?」
「……キモチワルイ」
「え?」
芝蘭の問いに答えたのは、先程嫌々ながら海流に祝福を授けた4柱の精霊だった。
「キモチワルイ!」
「キミガワルイ!」
「キショクワルイ!」
「キニイラナインダ!」
4柱の精霊達は創造神の背後から姿を現すと海流を口々に罵った。
「ソノ餓鬼ノ持ツ、僕タチの祝福ニ対スル『対価代ワリ』ハ、コノ世界ニ今マデ無カッタ味ガスルノ!」
「『普通ノ魔力』ヲ捧ゲルナラ『対価』トシテ貰ッテヤッテモイイケドサ、
櫻井ノ『願イ』ト言ウ『対価代ワリ』ノ『祈り』ハ
触レラレテモ『キモチイイ』カラ無償デ『カナエ』テヤルケド、
創世神系ノ血ト交ッテ生マレテル『魔力』?、ミタイナヤツ?。
アレ、モー、クソマズイ!
ソレモ、トンデモナイ量ダヨ?コンナノ捧ゲラレタッテ、イラナイネ!」
「ソウ!ソンナノイラナイ!。
ナノニコノ『餓鬼』ワ勝手ニ僕タチトノ回路ヲ開イテ
ソノ汚イ『僕タチノ世界ノ理カラ外レタ魔力』ヲ押シ付ケテクルノ、
嫌ッ!」
「僕タチ、イヤイヤデモ祝福シテヤッタノニ!。
ナンダソノ仕打チ!。
死ンデ詫ビロ!。
キモイ!。
纏ワリツイテクンナ!。
不快ナンダ!!!!今スグ死ネ!!!!!!」
『ソウダソウダ!』
声を合わせる4柱の言葉に創造神は何度も頷く。
「と言うわけだ。我が許しても、櫻井に直接力を貸す精霊達が『否』を唱えては仕方がないであろう?。
我とて精霊達を抑えてまで我が力を貸す気は毛頭ないしの。
もはや『我の世界の理』と、その子供は縁が無かったと諦めよ」
「そんな……」
創造神は項垂れた芝蘭に最終結論を告げるとそれは痛快であると言わんばかりに再びホッホッと笑った。
「なあに、聖良の血族はポンポンと子を産むと聞く。次の子が櫻井寄りであればその時は祝福を与える考慮だけはしてやるかもしれんよ、『精霊達』がな。我はその決定に気が向けば耳を貸してやってもよい。
ではの、さらばだ」
音もなく閉じられた交信に、芝蘭は涙を流しながら縋っていた迦允のスーツの裾を握りしめて言葉を紡いだ。
「申し訳ございません迦允さま。わたくしの『聖良の魔眼』が創世神さまにお捧げする『対価』と、迦允さまが『錬石術師』として創造神さまに捧げる『対価』はこの世界の理から見ても特殊な物。
相成れぬ『力』同士が混じり合って生じた海流の『魔力』は精霊さま達の不興をかってしまったようです」
「芝蘭…」
肩を震わせる芝蘭を迦允はそっと抱きしめる。
その温かさが、返って芝蘭にとっては辛いものだった。
「ごめんなさい……!。わたくしのわがままが迦允さまの尊いお血筋を穢してしまいました。無理を通して迦允さまとの婚姻を強請ったツケが今返って来たのですわ。
迦允さまと『あの方』とのお子様なら偉大な傑物が生まれる事を『視って』居るのに!わたくしは……!。
わたくしは、海流の未来を、歪めてしまいました!わたくしの血族『聖良』は絶対に『私利私欲の為に未来を剪定してはならない』のに、きっとわたくしは無自覚に……わたくしが……!」
「芝蘭、それは違うよ」
迦允は悲鳴のごとく泣きじゃくる芝蘭の肩を抱いて優しくさとすように声をかける。
「私と『アイツ』との事をまだ気にしてたのか、芝蘭は。まあ『気にするな』と言うには少し難しい、か。はは。確かにアイツと私は長い付き合いがあったからね。
けれどね芝蘭、私はアイツとは結局『どの世界線』でもただの幼馴染みの腐れ縁で終わっていたと思うのだよ。君がこの子を身籠ったと聞いてからはより強くそう思うようになったんだ。今は信じられないのかもしれないが本当の事なのだよ」
「そう……なのでしょうか?」
芝蘭は瞳を閉じたまま、泣き濡れた顔を上げる。
「そうさ、だから気持ちを切り替えて行こう、芝蘭。
海流に創造神様の祝福をいただけなかったのは残念だが、君は私との婚姻時に創世神様に祝福はされずとも絶縁はされてはいなかったね?」
「え、ええ……ですが」
「ならば海流は『創世神様の眷属の祝福』はいただけるかもしれない。
この子はもはや『錬石術師』にはなれないが、普通の魔術師にはなれるかもしれない。
まだ正確に測ってはいないが、この子が持つ『魔力』量はかなりのものだと精霊様達も言っていたし、創世神様が御使役なさっている『妖精様達』に祝福をいただければば必ずや……!」
迦允の、わずかな希望にすらがんと灯る瞳に、芝蘭は困ったように首を振る。
「ですが……やはりいけませんわ迦允さま、お忘れですの?。
わたくしは創世神さまお手作りの血族の末裔。
そんなわたくしの子には妖精さまだけの祝福には止まらず、きっと創世神さまも祝福なさいます。
けれど創世神さまによる『聖良』の血筋への祝福の『対価』は迦允さまと同じように『魔力』ではありませんわ」
「その通りです」
その時、悲嘆に暮れながらも立ちあがろうとしていた2人の頭上から創造神とはまた違う、光り輝く言葉が降り注いだ。
「っ!創世神さま……」
芝蘭はびくりと身体を震わせ、言の葉へ振り仰ぐ。
「ご無沙汰いたしております、創世神様」
それぞれ頭を垂れた2人に「堅苦しい挨拶はよいのですよ」と、創世神はコロコロと笑って手にしていた扇子で制する。
「かつての私の愛し子、芝蘭よ。彼の穢らわしき創造神が創りし血族と婚姻すると奏上を受けた日は気が牴れたのかと思っていましたが、この事については『おめでとう』の寿ぎを与えてあげましょう。
しかして……ふむ、芝蘭に似て澄み切った藍色の瞳を受け継いだ事、誠に良きかな。
それに免じて私はこの子供に祝福を授けると決めました。
創造神と違って私はとても心が広いでしょう?」
すると海流は尊大な声が響いてくる方向を確かめるかのように、その深く藍色の瞳をきょときょとと巡らせた。
「ありがとうございます、創世神様!」
創世神の言葉に明らかにホッとした表情を浮かべた迦允と違い、芝蘭は青ざめてギュッと唇を噛み締める。
一時の間ののち芝蘭は口を開く。
「感謝いたします創世神さま、ですが……此度の祝福は辞退させていただきたく存じます」
「ほう?私の祝福を拒絶するとは。私が創りし子の血筋のくせに不遜な物言いですね」
「だって感じますもの」
芝蘭は二度と開かぬと決めていた瞳で感じるそのままを言の葉に乗せた。
「創世神さまを信奉する御使いさま達が、怒り狂われている空気をひしひしと」
「ああ、『妖精達』ですか。捨ておきなさい。
アレらは創世神が使役する精霊共に似て、『「私の」世界の理』に準じて人々の『魔力』を対価に『普通の魔法』を授ける使い達ですから、怒り狂っているうちはその子供に力を貸す事は無いでしょう。
だからこそ。
その子供が『「私の」世界の理』から外れていても、私だけは『聖良』の血に祝福を授けると言っているのです。
妖精達にも『聖良』の異能に限ってその子供を受け入れるよう厳命しますから、お前の拒絶は許しません」
「ですが」
芝蘭は創世神の言葉を決死の思いで遠ざけようと食い下がった。
「『覚者』である『聖良』の異能の『未来視』を行使する際に捧げる『対価』は『寿命』ですわ。
この力を持つ者は皆、年若く命を落とします。
ですから聖良は側妃を何人も抱えて何十人もの子をもうけ、血を繋げてまいりました。
現に私が第25皇女として生まれて臣籍降嫁するまでに第8皇女にまで皇位継承権位が繰り上がったのも、血の繋がった兄姉様たちが我が皇国の為により良き『未来を剪定した』為に命を落とした結果。
であるからこそ、海流には『聖良』の異能を発現して欲しくないのです。
どうかどうか海流に祝福は授けないでくださいませ。どうか天寿を全うさせてくださいませ」
芝蘭は叶わぬであろうと理解しつつも、深く深く首を垂れて創世神に願った。
案の定
「だまらっしゃい!薄汚い創造神の手の者の血が混じった子の母よ!」
ズダダダダン!!と
創世神の怒りと共に櫻井の屋敷の近くに特大の雷が落ちる。
創世神の怒りはおさまらない。
「穢れのかたまりをこの世に生かして産み落とさせてやっただけでも私に感謝しなさい!!!!!。
その子供はお前と共にいつでも死なせてやってもよかったのですよ!。
しかし私は気がついたのです。
その子供に祝福を与え、異能を得た子が得意になって『未来視』を乱用し、無様に死ぬさまを見るのは『とても楽しい事』であるとね」
「創世神様はなんという事をおっしゃる」
迦允はギュッと海流を抱きしめる。
芝蘭はふるふると首を振りながら
「ひどい、ですわ……」
と言葉を絞り出した。
創世神はそんな3人を愉悦に口の端を歪めながら鼻で笑い飛ばす。
「ふん!私を裏切り、創造神が作りし者に嫁いだ罪人が受ける罰としては優しすぎるでしょう?。
なあに、そのような未来にしたくなければお前が子に『未来視』の異能を使わぬよう教育すれば良いだけです。
子が好奇心や誘惑に負けず言う事を聞くかどうかは知りませんがね。
……ふむ?お前がそのような『未来』に『剪定』するのも面白いですね!。お前の寿命もよくよく削れるでしょう。
ますます興が乗るというもの。
さ、そろそろ穢らわしき『混ざり者』に私の祝福を授けましょうか。
妖精達よ、その汚物を私の前に持ちなさい」
『はーい!』
創世神の号令に、どこからか妖精達が現れて夫妻から問答無用に海流を取り上げようとした。
「いやです!おやめくださいまし!この子は聖良の異能を得る為の準備を何もしておりません!おゆるしくださいませ!」
「『しらん』はうるさいのー、だまってて!」
「あぐっ……!」
火の妖精は芝蘭と迦允の間に劫火を放ち、芝蘭の呼吸を止める。
「そうぞうしんの『しと』め!そのいやしいきたならしい『がき』をわたせ!」
土の妖精は悪意のこもった岩石を生み、それで迦允を殴りつける。
風の妖精はするりと迦允の腕の中の海流の足を掴み、痛みに呻く迦允から赤子を乱暴に引き剝がす。
「お、お止めください、妖精様!」
迦允は必死に我が子を取り戻そうと手を伸ばすが
「うっせーんだよ!そうぞうしんの『くそ』はひっこんでろ!」
夫妻の抵抗空しく、妖精達の強大な魔力を前に海流を抱く腕をこじ開けられ、取り上げられてしまう。
「はい!そうせいしんさま、きったないもの、とりあげたよ!ほんっとばっちいの!ペッペっ!」
「ええ、本当に。この様な穢らわしき生き物が存在すること事態我慢なりませんが、皆、この先の楽しみを思い堪えるのですよ」
『ぎゃはは!りょーかい!』
「お願いです!止めてくださいまし!後生でございます!」
「どうかお許しを!創世神様!」
「ごみども、うるっさーい!おまえらはそこでかたまってろ!」
水の妖精はイライラした面持ちで夫妻の下半身を氷漬けにした。口元まで氷漬けにしなかったのはおそらくこれから始まる創世神による『お楽しみ』を夫妻に見せつけたかっただけだろう。
そうして迦允の抵抗も芝蘭の絶叫も虚しく、海流は泣き叫ぶ夫妻の手の届かぬ高さに妖精達によって掲げられる。
創世神はにっこりと微笑みを浮かべ、海流の澄み切った藍色の瞳を覗き込む。
「櫻井海流よ、創世神『アイン・ソフ・オウル』の名において祝福を授けます。
お前は「未来視」「過去視」そして幾多或る『世界』を『視(み)』、選び『剪定』出来る『覚者』となるのです。
この異能を乱用し、悪戯に遊び、戯り、驕り、昂り。無惨に惨めに老いさらばえて
とっとと無様に滅び消え去るがよい」
それは楽しそうに祝福を授けたのだった。
「いやあああ!海流!わたくしの海流!!」
「あう?」
妖精達から芝蘭の手に突き落とすようにして投げ戻された海流は不思議そうに母を見上げる。
その藍色の両眼にはくっきりと創世神の『神跡刻印』が深く色濃く刻み込まれていた。
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