リリリリスタート~浪人生なのに男女で同棲⁉︎ 勉強が捗るはずもなく……堕落生活、半年継続中。一体いつになったらリスタート出来るんだ!!~
ケチュ
プロローグ
時刻はおよそ深夜二時を過ぎた頃。
締め切ったカーテン、テーブルの上に放置されたままの空のカップラーメンと大容量のコーラ。
目の前の大きなテレビには毛むくじゃらな巨漢とウサギが擬人化したような女の子がせわしなく動き回っては拳をぶつけあっている。
そして画面の前の俺は至極冷静にコントローラーを弾き、ウサギの女の子が華麗なバク転を披露する。
慣れもあってか自分でも惚れ惚れする動きなのだが“隣に座るもう一人の住人”は愚かにもそうは思わないらしい。
「ちょこまかジャンプして時間稼ぎしても無駄だよ? そろそろボクの瞬殺コンボでぶっ飛ばしてあげるから」
「知ってるか? チョウチンアンコウってのは提灯には意味があるんだよ。こうやって釣られた餌を狩るために——」
「——なっ!」
画面にウサギの女の子がアップされてその妖艶な笑みを見せつけながら『YOU WIN!!』の文字が浮き出てきた。
——俺の勝ちだ。
コントローラーを置いてやや嫌味っぽい笑みを浮かべて一言。
「はい俺の勝ち」
これで何度目だろうか?
悔しさが滲み出た虐めがいのある表情を見たのは。
「あとミリだったじゃないか。どうして耐えるんだよ! もう——!」
朝陽は落胆し喘ぎ声を漏らしながらドサッと倒れ込む。
俺はそんな彼女にさりげなく視線を向けている。
「部屋だから良くない?」と目のくらむような薄着を平気で着る彼女には流石にもう慣れっこだ。
とは言え「じゃあ落ち着いていられるのか?」と言われれば横に首を振らざるを得ない。
自然と視線が戻されるのは不可抗力だ。
——こんな日常を、怠惰で自慢出来ない日常を楽しんでいる自分がいる。
駄目だと思いながらもこんな時間が居心地よくてやめられない。
いつになったら浪人生として俺たちはリスタートが切れるんだろうか?
〇
「瑞樹ー見てみたまえ! これをー」
隣の部屋から朝陽の声が聞こえた。
どうしたものかと俺は返事をしようとして思いとどまる。
この少しふわふわと浮遊感のある雲のような声の時は何か手伝ってほしい時によく使うものだ。
新しいゲームソフトを買いたいとか、今月の課金額をあと少し上げて欲しいだとか、そう言った類のことが多い。
仮に今掃除中でないのであれば相談に乗ったが、重い腰を上げてようやく始めた数か月ぶりの大掃除がせっかく軌道に乗り始めている現状を考えると、無理だ。
可哀そうだが今回は心を鬼にしなくては。
「朝陽。今は掃除の途中なんだぞ? 不必要な事なら聞かないからな」
一応刺すように言ったつもりなのだがそんなのお構いなしに朝陽は俺の視界に飛び込んできた。
ふわりとクラゲのような形の髪を靡かせながら。
呆れるほど子供みたいにキラキラと輝いた瞳で見つめられては突っぱねようと思った決意も少し揺らぐ。
そして彼女の両手に握られた想定外の“それ”を見た瞬間に心の鬼は立ち去ってしまった。
「……それは!」
朝陽が摘んでいるのはとあるゲームのソフトケースだった。
数年前に大流行した格ゲー『ケモナー戦線・弐』。
俺が朝陽の家庭教師を始めた頃くらいに買った思い出の一つだ。
いつの間にか行方不明になっていたもんだから間違えて捨てたのかと思っていたのに、まさか再発見できるとは思ってもいなかった。
「マジか、失くなってなかったのか。どこにあったんだ?」
「ボクのところの本棚に挟まってた」
「なんでそんなとこに……どうりで見つからないわけだ」
やはり大掃除は大切なようだ。
多分やらなかったら一生見つからなかっただろう。
朝陽は表紙だけ見てとりあえず本を買って本棚にしまうことはあるけれど読書はほとんどしないから整理整頓される機会がほとんどない。
そんなことを思われているとは知らずに朝陽はちろりと舌なめずりをして挑戦的な笑みを浮かべる。
「掃除終わったらさ久しぶりにこれやらないー?」
どうりで声のテンションが高いわけだ。
家事や勉強にもそのぐらいやる気を出してくれればいいんだけどな。
「そうだな……久しぶりに見つかったもんな。でも掃除終わったらな?」
「だよねだよね! じゃあさっさと終わらせちゃおうか!」
そう言うとパタパタと忙しそうに背中を向けて出て行ってしまった。
嵐が過ぎた後みたいな静寂が俺の部屋を支配する。
けもせんかぁ……。
今思えばそれが初めて朝陽と一緒にゲームをやったやつだったよな。
そっから気が付けばこんなに……。
俺の部屋の棚にはいくつものゲームソフトケースが並んでいる。
そのどれもが一緒にゲームをするようになってから買ったやつで、その数は参考書よりも多くあまり埃を被っていない。
確か朝陽に初めて会ったのは月凪に家庭教師を頼まれたからだった。
それは半年前——俺が家庭教師として朝陽のマンションにあいさつに行った時のことだ。
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