七瀬ユウカは異世界で死んだ
箒
0章 脱却編
第1話 天生 / テンセイ
この物語は異世界に行ってヒロインにちやほやされて、そんな物語でもなく。
主人公独自の魔術でモブをざわつかせる、そんなものでもなく。
はたまた、チートスキルでスローライフをするわけでもなく。
ただヒロインを殺され、文字通り必死に全力で敵を討つ、そんな物語。
◇
4月9日
俺の名前は影山。
高校を中退し、ニートをしているものだ。
職質を受けるときは高校生と言い張っている。
いや、年齢的には高校生ではあるが。
そんなどこにでもいる俺だが、ある転機が訪れた。
そう、宝くじが当たった。
5億。
これはある日、昼に起きて散歩をしている時だった。
道端に一枚の宝くじ券が落ちていた。
そのあとは言わなくてもわかるだろう。
5億円ももらうとなると、人は返って冷静になるもんだ。
もう勉強する必要がないという解放感が気持ちいい。
いや、まあ勉強していたわけではないが。
俺はこっから5億円とともにスローライフを送っていくわけだ。
とりあえず本屋でラノベを大人買い…いや、本屋ごと買ってやろうか…
「おい!あぶねーぞ!!!」
後ろ方向からおじさんが何やら叫んでいる。
ったく日中からうるせーな。
なにが危ないってんだ…
トラック。
軽トラックだ。
なんで俺の目の前に…
「へ?トラック?」
音とか何も聞こえなかったぞ!?
くそッ!!動けよ俺の足!2か月だけ陸上部だっただろうが!!
ここに来てずっと家に引きこもってた弊害が出てしまったか!
まずいまずいまずい…!!
俺は5億当たったんだぞ!!!
こんなところで死ぬわけにはいかないんだよ!!!
トラックとの距離。
10メートル
9メートル
8メートル
「あぶない!!!!!」
女性の叫び声と同時に俺は吹き飛ばされた。
二か月だけ陸上部だった体はあっけなく吹っ飛ばされた。
突き飛ばしたその手は、俺の手より二回りくらい小さな手だった。
まずはありがとう。そして俺の身代わりになってしまってごめん…
そしてその少女はヘッドライトに照らされ、死んだ。
これが少女の一度目の死だ。
「お疲れさまでした。そして、おめでとうございます。」
んん…
ここはどこだ…
あぁ…俺、死んだのか…
煙かとも思ったが、匂いから察するにどうやら線香?のようだ。
地面から1メートルくらいの高さで視界が晴れた。
「な、なによこれ…ここはどこなのよ…」
俺と同時、あるいは少し早く立ち上がった少女。
気の強そうな甲高い声で、ツンデレそうな声で。
黒髪でセミロングの。
俺が昔、通っていた高校と同じ制服だった。
「あなたは不運にも死んでしまいました。
ですがここには生前は善い行いを積極的に行っていたと記させています。」
そういって本をパラパラとめくるのは、2メートルくらいの美女。
続けて美女は言った。
「そこで、一つ提案があります。
今いた世界には戻せない決まりですので。
他の別世界、異世界に転生してみてはどうでしょう」
これって…異世界転生か?
本当にそんな馬のいい話が本当にあるのか?
「もしかして、転生ってやつなの!?」
「その通りです。あちらで暮らしやすいよう色々な祝福を授けます。そしてこれが…」
女神らしき人は、その女に手をかざす。
その瞬間に長細い剣が女の前に現れる。
「これが聖剣…?」
「ええ、こちら聖剣ヘラクレスです。
勇者が使用した伝説の剣です」
「ヘラクレス…?」
「ええ、今から行く世界には、『祝福』という神からの加護が授けられます。
この剣もその一種だとお考えてください、」
女神は『まあ、元居た世界にも祝福はあるにはあるのですが…』と言った。
女の番は終わった。さあ次は俺の番だ。
「あのうぅ…あなたはどなたで…?」
困り顔の女神らしき人は言った。
「え…?」
「す、すみません。今調べます…
えっとなになに…宝くじのがあったことで末代までの運を使い果たして死亡…」
ニコニコの笑顔でこの女は言った。
「なんだよ末代までの運がなくなったって、
俺のスローライフはどうなんだよ!返せよ俺の5億円!!!」
「ですが、もう体は焼かれてしまったので…」
だから煙くさいのか。
「なんかあの女の子の時と態度違くない!?もっとへりくだってよ!!」
クレーマー対応する時の店員みたいな顔をしている。
「…まあ異世界に行くからには、魔王は倒して見せるわよ!!」
女はというと、死んだというのにハイテンションだ。
すでに剣を使いこなしている風だった。
「そうですか。では良い異世界ライフを…」
俺と女の子の頭上を「ひょい」っと魔法をかける。
今チートをくれたのかな?
下に魔法陣が出現し、発光。
あ、あれ俺に剣くれないの…?
ねぇ俺にも聖剣とやらはくれないの?
「おーい俺にもなんか武器くれよー」
俺と女は段々と上昇する。
すでに女神は消しゴムほどの小ささにしか見えない。
「おい女神!無視すんなよ!!」
「あ、すっかり忘れていました!!
その聖剣に『永久所有の祝福』をお付けします!
あなたから離れると近づきます!
あとは…色々ありまーす!!」
「ありがとう女神様!!ぜーったい魔王倒しますからぁぁっっ!!!!」
「では、よい異世界ライフをーーー!!!!!!」
こうして僕たちは転生した。
目を開けると、限りない草原と暖かい空気が待っていた。
ヨーロッパとかもこんな感じなのだろうか。
「あなたも転生してきたのね!私、優夏よ!!」
「うん。俺は影山。転生者同士頑張ろうな。」
握手を求められたことなど無いが、冷静を装い握手する。
あ、俺今日トイレ行ったあと手洗ってないわ。
「そうね!じゃ、私はこっちの道に行くから!」
優夏はテキパキと俺とは違う道へと歩きだした。
歩いて5歩、いや、3歩の時であった。
体が発光したのだ。
この時の俺は異世界に来たばかりだったから、
突如して発光することに抵抗がなかったんだ。
俺は発光すると共に、優夏へ衝突する。
「ッいた!!なにすんのよ」
「あ、いやすみません」
反射で誤ったが、俺は悪くない。
「ま、まあ私は可愛いから、貴方が衝突するのも無理はないわ」
優夏は再び同じ方向へと歩きだす。
俺はそれを見届ける。
すると、5メートル前後でまた発光する。
どんどん優夏に近づいていく。
そしてまた、衝突。
「ちょっと!!!
いくら可愛すぎるからって、二回はないんじゃない!?」
「違う!俺のせいじゃないんだ!」
「は?どういうこと?」
「じゃ、じゃあ後ろ向きに、俺から離れてくれよ」
優夏は渋々後ろ向きで歩く。
でもやはり5メートル付近で俺が発光する。
そして優夏へと飛ぶ。
その時に女神の言葉が頭によぎる。
『その聖剣に『永久所有の祝福』をお付けします!
あなたから離れると近づきます!』
そして、俺がここ5年ほど培ってきたハイファタジーの知識が解を出した。
「これ…俺にも祝福ついてね?」
「だ!か!ら!どういうことだって言ってんのよ!」
あの後、俺は泣く泣く優華の後をストーキングしていた。
だが、しびれを切らした優夏は聖剣を地面に突き刺し、俺に怒鳴り散らしてくる。
それも異世界の街の真ん中で。
「いや…俺に聞かれても…」
ていうか、なんで俺が怒られるんだよ。
「せかっく異世界に転生できたのに、なんで引きこもりのニートと一緒に行動を課せられる羽目になるのよ!」
おうおう初対面で言ってくれるじゃねえか。
「引きこもりはいいけど、ニートは言いすぎだと思うな」
「あっそ。じゃあ行くわよ」
プイっと反対の方向にテクテク歩いていく。
俺が引っ張られるので、ゆっくり歩いてほしい。
「行くってどこに行くんだ?」
「あなたそれでも引きこもりニートオタク?ギルドに決まってるでしょ?」
「だからニートは言うなって!バイトくらいしてたわ!!」
まあ、ドラッグストアのバイト二日で飛んだけど。
「へえそうなの、ところで影山さん。ギルドはどこかしら」
「知らねえよ、知るわけないだろ」
「じゃ、そこら辺のNPCに聞いてくるわ。」
優夏は辺りを見回したのち、
その中で一番モヒカンで一番筋骨隆々のおっさんに話かけにいく。
いきなり走るの辞めてほしい。
優夏は気づいていないが。俺は今引きずられている。
そして体が発光している。
「あのう…この街にギルドってありますか…?」
上目図解をしながら目をパチパチさせている。
少し可愛い。
いや、惑わされるな俺よ。
先ほども罵られたばっかじゃないか。
「##!#########!###!」
「ありがとう!おじさん!」
ん?
今なんて言ってた?
決して声が遠かったとか、小さかったとかではなくて、
何を話しているかわからなかった。
感覚は、英語のヒーリングテストに近いかもしれない。
まあ、学校行ってないけど。
「優夏さん。今なんて言ってました?」
「え?耳が腐ってるの?噴水を左って言ってたじゃない」
純粋無垢で言うその瞳はかなりの値打ちのなものだ。
最も、ミュートして聞けばの話だ。
「一言余計だな」
そう呟いて俺と優夏は早速ギルドへと向かった。
優夏が聞けているということは、きっと聞き間違いとかだったのだろう。
決して、この国の言語が分からない。なんてことはないだろう。
どの小説、マンガ、アニメでも言語が分からないなんて、致命的な欠陥あるわけないよな。
うん、聞き逃したんだ。絶対。
—―ギルド—―
学がないので中世ヨーロッパの建造物と言うものを知らないが、これは中世ヨーロッパ建造物だと、はっきり言える。
オカリナとかそういうケルト音楽が聞こえてくる。
木製のドアを開けると、目の前に3人の受付嬢。
左側には、酒場が併設されているようだ。
左側の酒場には歴戦の冒険者たちが緊迫とした空気が流れている。俺らを睨むもの、見もしないもの、仲間と話すもの。十人十色、多種多様、三者三様な冒険者たちだが、唯一の共通点はみんなマッチョなことだろう。
弓や巨大な斧、杖や剣があることに若干のテンションが上がりつつ、受付嬢に冒険者登録をお願いする。
登録料とかかからないよなぁ…
「ねえ受付嬢さん?私たち遠い街から来て、冒険者登録したいんだけど」
「いらっしゃいませ。冒険者登録申請ですね。ステータス開示をお願いします。」
良かった。ちゃんと言葉を理解できる。
さっきのは偶然聞こえなかったようだ。
「なによそれ」
優夏は店員に横柄な態度をとるタイプなのかもしれない。
「…でしたら、2番の部屋までお願いします」
右側には1番から5番までの番号が振られた試着室のような空間があった。
赤いヒラヒラのカーテンで中は見えない。
現代世界の役所みたいなとこだな。
たらい回しにされる所とかもう正にだな。
まあ、行ったことないけど。
二番の部屋に行くと4畳くらいの個室で、部屋の中心には1メートルくらいの水晶玉がオーラを放っている。
オタクの勘が「これに触るとステータスが表示されてすごいことが起きる」と言っている。
部屋に遅れて新たな受付嬢が来る。
「ねえ影山、受付嬢って巨乳なんじゃないの?」
「おいやめろ。失礼だ」
「まあでも小さくもないし、最近の受付嬢は可愛い系が流行りなのかしら」
受付嬢は俺らに説明をする。
「こ、こちらは魔電玉と言って…」
魔電玉。なるほど、触ればいいんだな。
「あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!!」
触った瞬間、右手に恐ろしいくらいの電気が駆け巡る。
血管、骨、筋肉、全て痙攣して動かない。
また死ぬのか?
「魔電玉は、本来手袋を…」
「私も触るわ!」
優夏もすかさずタッチ。
が、何も起きない。
起ってはいるが、効いていないのだろう。
「影山ったら、大げさね。大したことないじゃない。やっぱりニートは我慢できないのね。それもそうね、怠惰でニートなんだから。」
こいつ俺がマヒで動けないことをいいことに、言いたい放題。
いや、前からか。
「本来は、手袋をつけて触れるものです…
では、優夏さん影山さん。『ステータスオープン』と言ってください」
「「ステータスオープン」」
目の前に半透明の板。
ウィンドウ?と言うやつか。
「そこには、名前、スキル、職種、祝福、固有スキルの記入があります。そして、職業によって武器や戦い方を合わせます。」
先ほどとは打って変わって淡々とハキハキ喋る受付嬢。
おそらく、お決まりなのだろう。
だが、名前が影山ではなく『カゲ』になってるのは、転生者のみの特典だろう。本名だと異端すぎるし納得だ。
「ねえ、私『剣士』なんですけど。『剣豪』とか『騎士』とかがいいんですけど」
不服そうにユーカはそういった。
「『剣士』や『魔法使い』などは自分の功績によって職業がランクアップします。」
「ふうん。まあいいわ。カゲ、貴方はどんな職業だったの?」
「言わない。」
「教えなさいよ」
「言いたくない。」
「どうせ、最弱職の鍛冶職とか回復職じゃないの?」
回復とか鍛冶とか、職業があるだけで、俺はいいと思う。
そう、俺はこっちの世界に来ても『無職』のようだった。
そしてこの時、俺は、俺らは知る由もなかった。
だって、どのライトノベルもヒロインは死なないから。
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祝福使い ユーカ 『剣士』
スキル 祝福
自然治癒 『永久所有』
『不酔』
固有スキル 『自動追撃』
無 『自動追跡』
『治癒加速』
魔力保有量 『吸血拒否』
1000/ 1000 『明暗補助』
魔力出力量 『言語分析』
10000/ 10000 『言語翻訳』etc…
所持品
『聖剣』ヘラクレス
セーラー服
ハンカチ
七瀬ユウカが死ぬまであと2話
次の更新予定
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七瀬ユウカは異世界で死んだ 箒 @koyomihoukibosi
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