『俺達のグレートなキャンプ2 ハイテンションだるまさんがころんだ』

海山純平

第2話 ハイテンションだるまさんがころんだ

第一章

金曜の夕方、仕事帰りの石川は珍しく飛び跳ねるように歩いていた。これから向かうのは今月の「グレートなキャンプ」の計画会議だ。千葉と富山が待つ喫茶店に向かう道すがら、石川は頭のなかで今回のキャンプの「メインイベント」をシミュレーションしていた。

「よっしゃ、今回のキャンプは絶対に盛り上がる!」

石川は自分の発想に自画自賛しながら喫茶店に入ると、すでに席についていた千葉と富山に向かって手を振った。

「遅い! いつもより三十分も!」

富山はいつものように眉間にしわを寄せていた。彼女はいつも心配性で、石川の奇抜な計画のたびに胃薬を持参するほどだった。

「悪い悪い、でも今回のプランを考えてたら時間を忘れちゃってさ。今回のキャンプは絶対に最高になるぞ!」

石川は座るなり、まるで営業マンのように両手を広げて宣言した。

「え?何をするの今回は?」千葉は目を輝かせた。石川の計画がどれほど突飛であっても、彼は常に全力で楽しむ好奇心旺盛な男だった。

石川はニヤリと笑うと、スマホで何枚かの写真を見せた。それは山に囲まれた美しい湖畔のキャンプ場の写真だった。

「二泊三日で『逆転湖岸キャンプ場』に行くぞ!場所は絶景だし、何より、周りにキャンプしている人が多いはずだ!」

「うん、いいじゃん。でも、周りに人がいることはそんなに珍しくなくない?」千葉が首をかしげる。

「そこなんだよ!」石川は指をぐっと立てた。「今回のメインイベントは、『ハイテンションだるまさんがころんだ』だ!」

一瞬の沈黙。

「は?」富山の声は小さかった。「なにそれ?」

「簡単!だるまさんがころんだをめっちゃテンション高くやるんだよ。しかも、キャンプ場の広場でな!」

「えーっと、小学生の遊びじゃん…」富山は頭を抱えた。「なんでわざわざキャンプ場までいって、そんなことを…」

「そこが面白いところ!」石川は興奮気味に続けた。「みんなでめっちゃはしゃぎながら、叫びながらやるんだ。だるまさんがころんだって言うとき、普通は静かに言うだろ?でも俺たちは逆にめっちゃ大声で『だ~るまさんがぁ~ころ~んだぁ~!!』って叫ぶの!」

石川は実演しようとして立ち上がり、店内で大声を出そうとしたが、富山に慌てて袖を引っ張られて座らされた。

「喫茶店でやめて!私たち追い出されるわよ!」

千葉は爆笑していた。「面白そう!でも周りのキャンパーに迷惑かけない?」

「それが醍醐味だよ!」石川は興奮を抑えられない様子だった。「最初は不思議がられるかもしれないけど、絶対に周りも巻き込んでみんなでやりたくなるはず!徐々に参加者が増えていって、最後にはキャンプ場全体で『ハイテンションだるまさんがころんだ』大会になるんだ!」

富山は頭を抱えて唸った。「また周りのキャンパーに迷惑かけるパターンね…。前回の『深夜のヘッドライト・モールス信号大会』で怒られたの忘れたの?」

「あれは単に時間帯が悪かっただけだって。今回は昼間にやるし、誰も怒らないよ。むしろ『参加させてください!』って言われると思うね」

「ハハハ、やってみよう!」千葉は相変わらず石川の計画に乗り気だった。「俺、だるまさんがころんだ、結構得意なんだ。小学校の時、クラスで一番上手だったよ」

「得意って…」富山は呆れた表情を浮かべながらも、内心では少し面白そうだと思っていた。石川の突飛な企画は毎回ヒヤヒヤするけれど、結果的には楽しい思い出になることが多かったからだ。

「それじゃあ、今週末に決定だな!準備するものは特にないけど、みんな元気だけは満タンに持ってきてくれよ!」石川は握りこぶしを作って前に突き出した。

千葉も同じように拳を合わせる。「おうよ!」

富山はため息をつきながらも、二人の拳に自分の拳を合わせた。「まったく…今回はキャンプ場から追い出されないことを祈るわ」

第二章

土曜日の朝、三人は石川の車に乗り込み、「逆転湖岸キャンプ場」に向かった。車内では石川が運転しながら、ラジオの音量を上げて歌っていた。千葉も一緒になって歌い、後部座席の富山は二人の騒がしさに慣れた様子で、外の景色を眺めていた。

「なあ富山、お前も歌えよ!」石川はルームミラー越しに富山に声をかける。

「いいわよ、あなたたち二人だけで十分うるさいから」

「もう、そんなこと言わずに!キャンプは全力で楽しむのが一番だぞ!」石川はさらに音量を上げた。

三時間のドライブの後、彼らは目的地に到着した。キャンプ場は予想通り人で賑わっていた。週末ということもあり、多くの家族連れやグループがテントを張り、バーベキューやレジャーを楽しんでいた。

「おお!人がいっぱいだ!これは期待できるぞ!」石川は車を降りるなり、キャンプ場を見渡して喜んだ。

「まずはテント設営だよね」千葉は荷物を取り出しながら言った。

三人は湖に近い、開けた場所にテントを設営した。周りには数メートルおきに他のキャンパーたちのテントが立ち並んでいた。

「よし、テント完成!」石川は満足げに手をたたいた。「それじゃ、早速…」

「ちょっと待って」富山が石川の袖を引っ張った。「まずはお昼ごはんにしましょう。それから…その…だるまさん、やるにしても、まずは腹ごしらえよ」

「そうだな!」千葉も同意した。「お腹空いたし、まずは飯だ!」

三人はバーベキューセットを取り出し、肉や野菜を焼き始めた。香ばしい匂いが広がり、近くのキャンパーたちも時折彼らの方を見ていた。

食事を終え、一息ついた頃、石川は立ち上がった。

「よし!いよいよ『ハイテンションだるまさんがころんだ』の時間だ!」

「マジでやるの…」富山は小声で呟いたが、石川は聞こえないふりをした。

「場所は…」石川はキャンプ場を見渡して、「あそこだ!」と指さした。それは湖のほとりにある広場で、周りにはキャンプしている家族連れや若者グループがいくつも見えた。

「サイコーの場所じゃん!」千葉も立ち上がった。「行こうぜ!」

富山は渋々ながらも二人についていった。広場に着くと、石川は大きな声で説明を始めた。

「じゃあルールの説明をするぞ!基本的には普通のだるまさんがころんだと同じだ。俺が鬼になって、『だるまさんがころんだ』と言う間に、みんなは進んでくる。振り向いたときに動いていたらアウトだ」

「うん、基本ルールは同じなんだね」千葉がうなずく。

「違うのは、」石川の声が大きくなった。「とにかくみんなハイテンションであること!俺が『だぁ~るまさんがぁ~ころ~んだぁ~!!』って叫ぶから、みんなも進む時は『うぉおおお!』とか『いくぞおおお!』とか叫びながら進むんだ!」

近くにいた子供たちが興味深そうに三人を見ていた。

「もう、声小さくして…」富山は周りを気にしながら言った。

「そんなの面白くないだろ!ハイテンションが命なんだから!」石川は笑った。「じゃあ始めるぞ!俺から鬼な!」

石川は湖に背を向けて立ち、千葉と富山は約10メートル離れたところに立った。

「せーの、だぁ~るまさんがぁ~」石川は思いっきり声を張り上げた。「ころ~んだぁ~!!」

振り向くと、千葉はすでに大きく前進していた。彼は「うおおおお!」と叫びながら、まるでスポーツ選手のように腕を振りながら進んでいた。富山は恥ずかしそうに小さな声で「えい…」と言いながら、少しだけ前に出ていた。

「富山!それじゃテンション低すぎ!もっと声出せよ!」石川は指摘した。

「うるさいわね…」富山は小声で言ったが、次第に周りの視線も気にならなくなってきていた。

「だぁ~るまさんがぁ~」石川は再度大声で叫び始めた。「ころ~んだぁ~!!」

今度は千葉だけでなく、富山も「えいえいおー!」と声を出しながら前進した。そして驚いたことに、近くで遊んでいた子供たちが二人、千葉と富山の横に立って一緒に進み始めた。

「わあ!参加者増えた!」石川は嬉しそうに叫んだ。

子供たちは「うおー!」「えいえい!」と叫びながら、千葉と富山と一緒に前進していた。子供たちの親も微笑みながら見守っていた。

「だぁ~るまさんがぁ~ころ~んだぁ~!!」

次第に参加者は増え、近くのテントから若者グループも興味を持ったのか、加わってきた。石川の予想通り、「ハイテンションだるまさんがころんだ」はキャンプ場の新たな出し物として注目を集め始めていた。

第三章

「だぁ~るまさんがぁ~ころ~んだぁ~!!」

石川の叫び声に合わせて、今や十数人の参加者たちが「うおおおお!」「いくぞおおお!」と叫びながら前進していた。小さな子供から大人まで、みんな思いっきり声を出して楽しんでいた。

富山もすっかり気持ちが乗ってきて、「えいえいおー!」と大きな声を出しながら、大胆に前に進んでいた。

「いいぞ、富山!その調子だ!」石川は喜んだ。

この騒ぎを聞きつけて、キャンプ場のスタッフが一人やってきた。石川は一瞬「怒られる…?」と不安になったが、スタッフは笑顔で近づいてきた。

「なんだかとても楽しそうですね。これは何をしているんですか?」スタッフは好奇心旺盛な様子だった。

「『ハイテンションだるまさんがころんだ』です!」千葉が誇らしげに答えた。「普通のだるまさんがころんだを、めちゃくちゃテンション高くやるんです!よかったら一緒にどうですか?」

スタッフは少し考えて、「面白そうですね。実は今日の夕方にキャンプファイヤーがあるんですが、その前の出し物として、これをみんなでやってみるのはどうでしょう?」

「マジで!?」石川は驚いた。まさか公式イベントになるとは思っていなかった。

「はい。このキャンプ場では、キャンパーから面白い提案があれば積極的に取り入れるようにしているんです。これは子供たちも大人も一緒に楽しめそうだし、ぜひやってみたいですね」

スタッフとの会話の後、三人は興奮して自分たちのテントに戻った。

「すげえじゃん!石川のバカげた計画が公式イベントになるなんて!」千葉は笑いながら言った。

「『バカげた』って言い方はないだろ!」石川は抗議したが、内心では嬉しくてたまらなかった。

「いや、正直に言って最初は恥ずかしかったけど…」富山は笑顔で言った。「思った以上に楽しかった。みんなもノリノリだったし」

「だろう?」石川は満足げに胸を張った。「俺の『奇抜でグレートなキャンプ』のモットーは間違ってなかったんだ!」

夕方になり、キャンプ場中央の広場にキャンパーたちが集まり始めた。キャンプファイヤーの準備が着々と進み、スタッフがマイクを持って前に立った。

「皆さん、こんばんは!今日のキャンプファイヤーの前に、特別イベントとして『ハイテンションだるまさんがころんだ』を行います!これは今日キャンプに来られている石川さんたちが考案したゲームです。石川さん、ルール説明をお願いできますか?」

スタッフはマイクを石川に渡した。石川は少し緊張しながらも、マイクを持ってルール説明を始めた。

「えー、皆さんこんばんは!今日は特別な『だるまさんがころんだ』をやります。それは、『ハイテンションだるまさんがころんだ』!ルールは簡単。基本は普通のだるまさんがころんだと同じですが、とにかくみんなハイテンションで!私が『だぁ~るまさんがぁ~ころ~んだぁ~!!』と叫んだら、みんなも『うおおおお!』『いくぞおおお!』と大声で叫びながら進んでください!」

子供たちは既に興奮して飛び跳ねていた。大人たちも笑顔で聞いていた。

「じゃあ、始めましょう!私が鬼になりますので、皆さんはあちらの線の後ろに並んでください!」

百人以上のキャンパーたちが参加し、広大な広場でゲームが始まった。石川はファイヤー台の前に立ち、みんなに背を向けた。

「せーの、だぁ~るまさんがぁ~」石川は全力で叫んだ。「ころ~んだぁ~!!」

「うおおおおおお!!」「いくぞおおおおお!!」「えいえいおー!!」

様々な掛け声とともに、大勢の参加者たちが前へ進み出た。子供たちは特に大はしゃぎで、まるで運動会のような熱気に包まれていた。

何ラウンドか続けるうちに、参加者たちはどんどんテンションが上がっていき、最後は大人も子供も関係なく、全力で声を出し、全力で前進する姿が見られた。

キャンプファイヤーの前のイベントとしては予想以上の大成功だった。

第四章

キャンプファイヤーが終わり、三人は自分たちのテントに戻った。みんな疲れていたが、充実感でいっぱいだった。

「最高だったな!」石川はテントの中で寝袋に入りながら言った。「あんなに大勢の人が参加してくれるなんて!」

「うん、子供たちの顔がすごく楽しそうだったよ」千葉も満足げに言った。「大人たちも結構はしゃいでたし」

「私も思いっきり声出してすっきりした」富山は笑った。「明日の喉の痛みが心配だけど…でも楽しかった」

「やっぱり『どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなる!』だな!」千葉は自分のモットーを口にした。

「そうそう!」石川は同意した。「来月のキャンプはもっとすごいことを考えるぞ!」

「え?まだあるの?」富山はため息をついた。「もう少し普通のキャンプもしたいんだけど…」

「冗談だろ?普通のキャンプなんて退屈じゃん!」石川は笑った。「次は『ヘッドフォン・ダンスバトル』とか『暗闇の宝探し』とか…」

「もう!次のことはまた今度考えましょう」富山は石川の話を遮った。「今日のことを楽しもうよ」

三人は夜空を見上げながら、今日の出来事について語り合った。キャンプ場の静けさの中で、時折聞こえる湖の波音と虫の鳴き声が心地よかった。

翌朝、彼らはテントを畳む準備をしていると、昨日のスタッフがやってきた。

「おはようございます!昨日は素晴らしいイベントをありがとうございました。皆さんとても楽しんでいましたよ」

「こちらこそ、受け入れてくれてありがとうございました」石川は礼儀正しく答えた。

「実は…」スタッフは少し恥ずかしそうに言った。「『ハイテンションだるまさんがころんだ』、この逆転湖岸キャンプ場の公式イベントにしてもいいですか?夏休みシーズンの毎週土曜日にやりたいと思っているんです」

三人は驚いた表情を交換した。

「もちろんです!ぜひやってください!」石川は喜んで答えた。

「ありがとうございます。それから、もしよろしければ、次回キャンプされる時は事前に連絡いただけませんか?その時も何か面白いイベントがあれば、ぜひ一緒にやりたいんです」

スタッフと連絡先を交換した後、三人は荷物をまとめて車に乗り込んだ。

「まさか公式イベントになるなんてな」千葉は感慨深げに言った。

「石川の突飛なアイデアが、こんな風に人を喜ばせるなんて…」富山も微笑んだ。

「これこそが『奇抜でグレートなキャンプ』の真髄だよ!」石川は誇らしげに言った。「さあ、次のキャンプも楽しみに計画しようぜ!」

車は山道を走り出し、三人の笑い声が車内に響いた。彼らの「グレートなキャンプ」の冒険は、これからも続いていくのだった。

【おわり】

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『俺達のグレートなキャンプ2 ハイテンションだるまさんがころんだ』 海山純平 @umiyama117

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