第31話 パーティと終わり
新築祝いのパーティーは混沌を極めていたが、これはこれで頭を空っぽにして楽しむことができた。むしろこの無計画さや混沌さだったからこそ楽しめた可能性は高い。
料理をみんなで準備するときなんか、音に聞こえし家庭科の調理実習のようで特に楽しかった。
私は家出してしまっていたからそんな経験を積めずに過ごしていたけれど、もらった記憶に紛れていたような調理実習と違って楽しくてたまらなかった。
記憶によれば、男子がサボったり包丁でふざけて脅してきたりとストレスフルでまとまりがないものだった。
しかし、影の精に見守ってもらいながら、ほぼ私だけのメンバーながらもみんなでワイワイしつつ真面目に料理するのは楽しかった。
影の精が独立して行動している間、オーバーフローを起こしてもお互い無事ですむように、ユキには背中で羽になってもらうのではなく、アイスを作るために材料を冷やす装置の中に隠れてもらった。
その装置を使って、私は雪鏡といろんな種類のアイスを作っている真っ最中だ。
さすがに小さい子一人に調理はさせられないからね。危なっかしい。
私たちがアイスを作る一方、ユキは装置の中でじっとしているのではなく、ラーメンやたこ焼きの仕込みをすませ、影の精にお願いしてこっそり運び出してもらっていた。
たこ焼きやラーメンを希望している奴らは影の精の料理アシスタントをしている。夢鏡コンビだ。
影の精の手料理と、ユキがこっそり用意してくれた料理が一緒に並ぶらしい。あとで必ず食べに行きたい。なんせ私は影の精の手料理を食べてみたかったからっ。
世界中のお菓子、デザートは歌鏡トリオが担当している。
世界中の料理なんて、希望した全ての料理に当てはまるからどうするか悩ましかったし、あまりに種類がたくさんあるから、夢鏡のだしたお菓子とデザートの案と合体させて世界中のスイーツを作ることにしたようだ。
そうなるとアイスも含まれちゃうからアイスはデザートから除外してもらっている。
にしても夢鏡のやつ、たこ焼きとラーメン、お菓子にデザートって食い意地張りすぎだろ。あいつやっぱりただの食いしん坊だったわけか。
二人になってから夢鏡のような性格をしていないけど、夢鏡のときと同じものが食べたいのかどうかが心配になってきた。隙を見て確認すべきでは?
性格もしゃべり方も表情も夢鏡と全然似てないからね。顔は同じでも。
雪鏡と一緒にアイスの材料を量って混ぜてしばらく冷やす段階まで調理を終えた。
雪鏡は調理中に材料を混ぜ疲れて腕が辛いと訴えていたので、ちょうどひと段落したし、冷やしている間できることなんかないから休憩がてら元夢鏡コンビのところに遊びに行くことにした。
子供用にシェイクして作るアイスの道具とかそういえばあったな。影の精なら持ってるだろうか?
腕を辛そうにさすっている雪鏡を見ながら、夢鏡たちのところへ行くついでに見つけられたら用意しようと思った。うっかり忘れなければ。
夢鏡コンビに食べたいものを聞きに行くついでに道具を探すにしても、まだ幼い雪鏡を一人にしておけないから気分転換に他の様子を一緒に見に行こうと提案すると、目を輝かせながら元気良く頷いてくれた。
良かった~!行きたくないとか駄々こねられなくて!
そういえば、母の買い物についていくと、私を見るなり知らないおばさんが「良い子で羨ましい」なんて母に言ってたっけ?
良い子って何?普通にしてるだけだし不満な気持ちでいっぱいなんだけど?なんて、反抗的な気持ちになりながら聞いていたのが懐かしい。
当時はそんな風に言語化なんかできなかったけどさ。
こうして連れ歩く側になってみると、言われていた意味がよくわかった。
すんごい素直に言うこと聞いてくれる。変な要求じゃないからなんだろうけど、ちょっと心配になってきちゃうくらい素直だ。
もしこのままなにも酷い目に遭うことなく育ったなら、どんな子になるだろう?このまま素直に言うことを聞いてくれるのだろうか?それとも、納得できなかったら言うことを聞かないのだろうか?
背筋がスッと冷えてくるような錯覚とともに危機感が雪崩のように押し寄せてくる。
獅子は子を谷に落とすなんて言葉があるし、このまま甘やかして育てるわけにはいかないだろう。このままだとロボットみたいになんでも人の話を聞くような子になってしまって、使い捨てのボロ雑巾みたいにされるんじゃないか?
私はこいつの親じゃないから、なおさらいつ私がいなくなっても一人でなんとかできるよう育てるしかない。
自分がどんな目に遭ってきたか、どんな風に親に育ててもらったかを一生懸命思い出しつつ、月鏡と日鏡のいる影の精の調理場にたどり着いた。
影の精はニコニコしながら手際よく料理を作っている。
月鏡と日鏡は四苦八苦しながら影の精に指示を仰ぎ、ラーメンとたこ焼き作りに没頭していた。
影の精は変幻自在だから腕を増やすのなんか朝飯前のようで、あちこちに影を伸ばして器用に調理をしていて思わず拍手しそうだった。
あれ、なにしに来たんだったか……。
思い出を振り返っていた上に影の精にみとれていたから、思考を今に戻すのに少し苦労しつつ、なんのためにここまで来たかようやく思い出せた。
日鏡と月鏡が夢鏡だったときと希望の料理は変わっていないかどうかと、子供がアイスを作るのにおすすめの方法としてシェイカーかなにかを使っていた気がするから、似たような道具がないかを聞きに来たんだったな。
ずっと忙しそうにしている三人が一息ついたなと思った隙に話しかけてみると、日鏡と月鏡はそれぞれ好物だから問題ないという返事だった。
そっか、良かった。
胸をなでおろしていると、影の精はニコニコしながらアイスに使えそうなシェイカーを貸し出してくれた上に、できたての料理の試食までさせてくれた。
影の精が作ったのは天津飯だった。
ユキと二人で修行していた日々を思い返しながら、求めてやまなかった影の精の手料理を口元へ運ぶ手が震えた。
見た目良し、匂い良し、口に運ぼうとする間だけでもよだれが溢れて止まらない!
食べたくてはやる気持ちを抑えながら、うっかり落としたり零しそうな不安に苛まれながら口に含む。
うっまあ!
思わずもう一口食べたくなるくらい美味しくて頬っぺたが落ちそうだった。
隣で雪鏡も小さなスプーンを口に突っ込んで目を輝かせている。
も、もう一口……。
欲に負けそうになった時、夢鏡のことが頭に浮かんで自制心が強く働くのをはっきり自覚した。
やつのようにはなるまい!やつのようには!
別に今しか食べられないわけじゃないし、あとでもっとたくさん食べられる。だから今は我慢だ。耐えろ、耐えるんだ!
強い意思で耐えることを選ぶと、影の精がこっそりと天津飯を試食させてくれた痕跡を隠しているのが目に入った。
そういえば、うちのお母さんも親戚の集まりのとき、ご馳走をこっそりつまみ食いさせてくれた痕跡を隠してくれたことがあったなあ。
雷の精がお父さんにどことなく似ているように、影の精はお母さんにどことなく似ているのに気がついた。
他の精霊たちも、今まで知り合ったいろんな人たちに少しずつ似てたりするのかな?気づいていないだけで。
今後雪鏡をどう面倒見るか考える参考にさせてもらおう。
精霊を見て気づいたことや思い出した両親からしてもらったことを取捨選択しながら育てる方針でいく。昔のことを想起させてくれる精霊たちから学びながら接していくんだ。
売られた経験はもちろんなしだ。溝に放り込むふりをされたのも、もちろんなし。
あとは同じように育ててみたい。理不尽な意地悪は同じように受けさせる。
相手が子供になった自分だからそう思えるんだろうな、きっと。自分の子供や他人の子供にそんな過酷な道を歩ませようだなんて思えないから。
誰かに悪役をやらせようなんて気も起きないから、私がわざと雪鏡に性悪をして、ユキに守ってもらったり面倒見てもらうのが良いだろうけど……。
当のユキは雪鏡から隠れたがっちゃってるからなあ。
仕方がないから、雪鏡には人間として魅力を感じられる人になってもらうしかない。
ユキがちゃんと名乗れるようにするためにも、名乗るのを要求して約束するだけじゃなく、名乗りやすいようにしてあげないと。
少なくとも、同じ話を何度もしないようにはしたいが、精神やられると誰だって同じ状態になるだろう。だから必ず同じ話をしない人間にできるかどうかは……。
うーんと雪鏡の育成計画で頭を悩ませながら、影の精たちに別れを告げ、私たちのアイスコーナーへと戻った。
アイスはちょうど混ぜどきで、また雪鏡と一緒になってアイスをかき回した。
「腕いたい」
雪鏡がほんの少し混ぜて音をあげたので、母と父に、こういうときなんていわれたかを回想した。
あれは確か知育ゲームでホットケーキを知って興味をもって作ってみたいって言い出したときだったか。それとも、アイスを作りたいと言って作ってた時だったか。
父親は「すぐ音を上げたな」って言いながら笑ってたっけ。
母親は「もうちょっと頑張りな」だったっけ?どうだったかなー。
うーんと唸りながら、雪鏡を少し休ませてやりつつ何を言われたか思い出す。
ボウルは机の上に置いて水平な状態ではなく、少し傾けて液体を密集させてたな。
具体的にそういわれたわけでなく、ボウルは傾けて泡立てると良いって言われてたんだけどさ。
「ボウルは机の上に置きっぱなしじゃなくて、少し傾けて……」
親に言われたことを反芻しながら雪鏡の様子を見て教えてみると、雪鏡は言われた通り素直に傾けていた。
私にもこんな時期があったんだなあ。
今では何のためにそうするのかとか、なにをさせようとしているのか疑問に思いながら人の話を聞いちゃうし、それをしたらどうなるかとか警戒しながらだから、雪鏡の様子をみているとなんだか切ないような、見てて危なっかしくて放っておけないような、複雑な気持ちになりながら話をつづけた。
「しっかり支えながら、片手で泡だて器を持って混ぜるんだよ。腕は楽にならないけど、しんどい分、頑張った分美味しくなるからね」
確か母親からそういわれたっけか?なんて思いながら雪鏡に言うと、目を輝かせながら一生懸命アイスをもう一度混ぜ始めた。
父親からは「混ぜ続けられるか?」みたいな、意地を張りやすくなる言葉をかけられたような気がする。母はシンプルに応援してくれてたっけ?
どれもこれも小学生になる前までの思い出だ。懐かしいな……。
その後のことを思うとほんの少し寂しい気持ちになりながら、アイス作りに夢中な状態で雪鏡をほったらかすのではなく、雪鏡の様子を見守りながらアイス作りの続きをした。
雪鏡は腕がつらいのか、口を堅く結んで一生懸命混ぜだした。
アイスの状態もさほど悪くはないし、十分混ざってるだろう。
子供の頃って大人になってからさほど苦労しない量や対象でも、混ぜるの結構きついもんだったよなあ。
雪鏡に冷凍装置へ入れて良いというと、アイスを装置にいれたあと息をついて達成感に満ちた笑みを見せてくれた。
私の分もついでに入れてもらってお礼を言うと、嬉しそうにニコニコしていた。
喜んでもらったり、褒めてもらうの大好きだったもんね。
よし、一苦労させたところで……。
影の精から借りたシェイカーを取り出し、雪鏡にこういう作り方もあるのだと教えてみた。
確かこれは父親のやり方だったか。いや、母だったかな?この際どっちでもいいか。
「この中に材料を入れて思いっきり振ってみて」
雪鏡は首を傾げてシェイカーを見ている。
言われただけじゃわからなかった時期があったな。大人になってからも、言葉だけじゃ理解できないことって結構あるもんね。
小さいころの私は、会話を理解できても、自分の頭で理解したことや気持ち、言いたいことを言葉で表現するのが苦手だったっけ。
言葉だけでなく、動作にするのも苦手だったような。
イメージはできるんだけど、順番を組み立てるのが苦手だったって言うのかな?脳内イメージで作業こなしちゃうと、終わった作業として思い浮かんでた作業を忘れちゃってたのもあった気がする。
言葉で表現するのが苦手だったのは、言葉を知らなかったことと、言葉の組み立てが苦手だったから……だったはず。いや、どうだったか。
うろ覚えな記憶をたどりつつ、雪鏡を後ろから抱え込むようにして自分の視点で何をしているのかみれるように手本を見せた。
たしか、周りから見るのと自分から見るのとじゃ全然違って見えるから、外から見ても何をどうしてるのかわかりづらかった覚えがあるんだ。これならわかりやすかったはず。
「こっちの器にアイスの材料を量って入れるんだよ」
言いながら手本を見せている途中で、自分でやりたそうに声をあげながら両手を伸ばしてきて笑わされた。
あったなー!こんな時期!
やりたくて仕方ないんだけど、とっかかりがわからなくて、見せてもらってすぐに自分でやりたくてたまらなくて最後まで手本見ないでやりたがる傾向があったのを思い出させられる様子に思わず笑わされた。
で、やるっていって道具を受け取ったら緊張かなにかで頭から内容が飛んじゃってなにもできなくて、父親にからかわれたり煽られて拗ねて不貞腐れて「もうやんない!」なんていってたっけ?
同じことしそうだな、雪鏡も。
とりあえず後ろから抱えたまま道具を渡してみると、やはり雪鏡はキョトンとして何もできなくなってしまっていた。
私はいつから自力でできるようになったんだろうな?
不思議に思いながら、雪鏡に一つ一つ順番にやることを教えてあげると、少し生意気な口を利いてから少しずつ自分で頑張り始めていた。
順番は口頭じゃなくメモかなにかで書いて傍に置いておいてやればいいのかもしれないな。
会話より文章を読む方が得意だったのを思い返しながら、シェイカーに材料を入れていく雪鏡を見守っていると、雪鏡は「できたー!」なんて嬉しそうにはしゃいでいた。
シェイカーに材料を入れ終えただけでこの喜びよう。
あはは、そうかそうか、できたか!アイス自体はまだまだできてないぞ?むしろこれがスタートラインだぞ?
父親だったら「まだ全然できてへんやん」なんて言うんだろうなーなんて思いつつ、私は私でからかいそうになるのを我慢しながら、シェイカーの蓋の閉じ方を一度見せて開き、雪鏡に閉めさせた。
自分でやりたがりだったのを懐かしく思いながら見守り、しっかり蓋が閉まったか確認してから思いっきり容器を振らせてやると、手が滑ったのか、シェイカーが雪鏡の手からすっぽ抜けて私の下顎に直撃した。
「ぬうんっ」
雪鏡は変な声を上げた私の痛がる様子をみてゲラゲラ笑っている。
「何笑ってんだよ、いてえよ!」
子ども相手でもわざと正直に言った。言わないと痛みがわからない子になりそうだったから、わざと少し大げさに痛がって見せてもみる。
言い方がまずかったかな?大げさすぎたかな?なんて思いながら様子を見ると、雪鏡は人を殺したかのようにわなわな震えながら目に涙を浮かべていた。
言い方がきつすぎたかな!?
やりすぎたかな?なんて思いつつ、うちの母親が大げさに痛がったり悲しんだりしたのを思い出しながら演技をつづけた。
「痛いよお、痛いよお」
ちょっとやりすぎてるかな?なんて思いながら口調だけ柔らかめにして泣き真似もしてみた。母の真似だ。
雪鏡は痛がる私の様子を見てボロボロ泣きながら心配そうにしているけれど、なんて言えばいいのかわからなさそうにしている。
そうだねえ、私は言葉での表現苦手だったもんね。
しかし、ここからどうやって教えるか……。うちの親はどうやって教えてくれてたっけ??
泣き真似しながら困っていると、ちょうどいいところに歌鏡三人衆がやってきた。
「えっ?!どしたどした?」
「大の大人がなに泣いてるの」
「どうしたの?いじめられてるの?」
陸鏡らしきやつと空鏡らしきやつは雪鏡が泣きそうになって困っているのを見てすぐに心配し始め、海鏡らしきやつは私の様子をバッサリぶった切るように非難してきた。
母もこんな風に言われたことがあったのだろうか?非難されると結構ぐさっとくるもんだな……。
泣き真似する私を白い目で見てくる三人の視線が刺さるように痛い!言葉も痛かった!下顎なんか正直全然痛くもないし涙なんてかけらも出ないくらいだけど、歌鏡三人衆の言葉と態度で本当に泣きそうになってくる。
くう、察してほしかったけど致し方ない。
三人の手を引っ張って雪鏡から引き離し、コソコソと事情を話すと納得しながら笑ってくれて協力してくれることになった。
話をわかってもらえるのがこれほどまでありがたいとは思わなかったな。
心配そうにこちらを見ている雪鏡の元へ泣き真似しながら戻ると、結局区別がつけられない歌鏡の誰かが私からだけでなく、雪鏡からも事情を聞こうとしていた。
両方の話を聞くのはとても良いことだからね。雪鏡の成長にいい影響があって手本にしてもらえたらいいな、なんて思いながら見守れた。
雪鏡はつたない言葉で正直に、一生懸命な様子でシェイカーが当たっちゃったことを歌鏡の一人に話していた。
雪鏡は話しながらボロボロ泣いている。
罪悪感で胸が押しつぶされそうだよ!
でもこれもこの子のためだと心を鬼にしながら泣く演技を続けていると、仲直りの仕方を他のもう一人の歌鏡が提案してくれた。
あとでこいつらに見分けがつけやすいよう目印か何かを身に着けてもらいたいな……。
頭の片隅で思いながら泣く演技を続け、雪鏡が歌鏡から教わった謝り方を口にした後、心配してくれた。
「もう怒ってないよー大丈夫だよー仲直りしようねー!」
言いながら顎をさすると、残った一人の歌鏡がおまじないを雪鏡に教えてくれた。
「痛いの痛いの、飛んでけー!っていうといいよ!」
迷信でしかないけれど、子供の頃確かに大人たちからそうやって教わったのを懐かしく思いながら聞き、雪鏡が歌鏡の真似をして、私の顎に手を伸ばして「いたいのいたいの、とんでけー」なんて言っていて少しだけ和やかな気持ちになった。
同じ私とはいっても、幼いと少し見た目が違うからか嫌悪感はそこまでないし、小さい子は小さい子だからか癒された。
でもやはり自分は自分だから、これから先きつい仕打ちを受けてもらうのに変わりはないし変えるつもりはない。
いろいろなことを考えつつ、仲直りをし終えておまじないもかけてもらったあとは、歌鏡たちがどうしてここにきたのか用事を聞いてみた。
デザート類はもうほとんどできたから、アイス作りの様子を見に来ただけだったらしい。
影の精たちも調理を終えたらしく、まだ料理している私たちのところへ必然的に人が流れてきた。
アイスって凍らせないといけないし混ぜないといけないから時間かかるもんな。
最後はみんなでアイスを混ぜて冷やし、固めている合間に予定にあったゲームのうちの一つをして遊んだ。
案外、きちんとした計画を立てずに何をやるか大まかに決めて開いた時間にねじ込むのも悪くないと思わされるやり方で、少し関心させられた。
みんなでアイスを作っている合間に、シェイカーで引き続きアイスを作っている雪鏡に、親に言われたこと、経験させてもらったことの続きを吹き込んだ。
「自力で一生懸命混ぜて作るやり方もあれば、こういう便利な道具を使って作るやり方もあるんだよ。ただ、どっちが好きかはできあがったものを食べてから選ぶといい」
シェイカーは私が振るの下手くそだったからか、自力で混ぜたアイスよりあまりおいしくなかった思い出があったからそういっただけだった。
「こんな楽に作れるなら苦労して混ぜたのは無駄だったんじゃないか?」なんて言っちゃった私に対して、両親は出来上がったのを食べてから言いなさいと言っていた思い出もある。
自力で混ぜた方がしっかり混ざっていて口当たりも良くて好きだったけれど、シェイカーのはあまり良く混ぜれてなくて好きになれなかったっけ。
今ではもっといい道具がたくさん出ているだろうから、それを使わせてやっても良かったんだけどね。
雪鏡はシェイカーでアイスを作ると、私と同じことを言っていた。
私は両親と同じことを口にしながら優しく諭してみると、雪鏡は目を輝かせながら頷いた。
アイスがすべて完成して料理がそろったので、ついに豪華な食事会が開催されることになった。
しかし、すべて採用した当の夢鏡は二人に分裂してしまっただけでなく、分裂した後の二人とも司会するような性格じゃないようで、二人で司会するよう言われても拒否していた。
「私は人前に立つのが苦手だから……」
顔を赤くしながら笑顔で一生懸命手を振って拒否しているのは日鏡の方かな?
月鏡は部屋の隅っこで傍観を決め込もうとしているし、目が合うと殺してきそうな視線をぶつけてくるから誰も何も言えなさそうにしていた。
そこで雷の精が司会になって音頭をとり、かなり気楽でシンプルなお食事会の幕の開け方をした。
挨拶ってこんな簡単でいいんだね。
私としても見聞きしたのは初めての経験だったし、小難しいことなんか何一つ必要なくて気楽になれるお手本だった。
雪鏡にも良い影響があったかな?
こいつがこれからどんな風に育っていくのか、あたたかい気持ちで頭をなでてやると、服の袖を引っ張っていろんな料理のところへ連れていかれた。
振り回す癖はどこかでタイミングをみてなんとかしてやらないと。
人には人のペースがあって、自分のペースを崩されるのが嫌だったりしんどかったりするんだと教えたいけれど、今はパーティだから次の機会でもいいだろう。
思いきり楽しめない私としては、こうして楽しめるうちに楽しんでいてもらいたい。
その一方で、雪鏡が計画性もなにもなく料理をてんこ盛りにお皿に盛っていて、思わず注意をしてしまった。
それ私もやったことあるよ!なんて心の中で言いながら「最初にそんなに盛って食べちゃうと、他の料理食べられなくなっちゃうよ?アイスも食べたいでしょ?」とやんわり指摘してみた。
雪鏡は少し残念そうにしながら盛った料理を戻そうとしていたので、それは見る人の心象もあとからとる人の気持ちもあんまりよくないだろうと思ったから自分の皿を差し出して受け取った。
小さいころの私より聞き分けが良くないか?
自分が本当はいかにクソガキだったか気づかされたような気がしてきて、なんだかおかしくなって笑ってしまった。
私は盛ったやつ減らしたり戻したりせずそのまま食べちゃったのに、こいつは人の話を聞けるいい子だな。
でもそのままだと都合のいい子にされてしまうんじゃないかという心配が山のように詰みあがっていたけれど、私のアドバイスに納得したから言うこと聞いてくれたんじゃないか?という可能性もあって、どう育てていくかでかなり悩んだ。
辛い目に遭わせるべきか、言うこと聞こうと思った理由を聞いてから方針を決めるか……。
子育てって難しいな、余裕がないとこんなに考え事なんてできそうにないな、働きながら子供の面倒見てる人たちってすごいなと思いながら、雪鏡がまたたくさん料理をお皿に盛らないかペース配分に気を配りつつ料理をとっていると、日鏡と月鏡が会話している内容が耳に入ってきた。
「私が日鏡なんてやっぱり荷が重いよー。じゃんけんで決めたって言っても、私がいつも手を伸ばしたいのはお月様の方だし月鏡が良いよー……。司会だって私には無理だったし、交換しよ?月鏡はいつもお日様の方に手を伸ばすじゃん!」
どうやら、日鏡は自分の意思で日鏡を名乗ろうと思ったわけではなかったらしい。
月鏡は「断る」といって要求を拒否していた。
「私は誰かの太陽になんかなれない」
なんて言ったかと思えば、不機嫌そうな様子で日鏡を置き去りにしてどこかへ行ってしまっていた。
置いていかれた日鏡は寂しそうな顔で俯いている。
「私だってなれないよ。二人で月鏡やればいいじゃん」
なんだか見ちゃいけないものを見ちゃった気がする……。
ほんと、この二人をどう合わせたら夢鏡みたいになるのやら。
声に出さないよう、夢鏡のちゃらんぽらんさと話してて気楽な様子を思い返して笑っていると、雪鏡がいつの間にかデザートコーナーへまっしぐら。
もうデザート食べるの!?
小さい子はすぐお腹いっぱいになるもんね、そうだよね。
背が低いと視野も低く、見えてるものが人より少なくなりがちだし、周りにいる人も小さい子に気づくかどうか……。
ちゃんと傍にいて見守りながら目印としての役目を果たさねば。
自分のことをそんなふうに思いながら雪鏡の傍にいき、欲しがるデザートで手が届かないところのものはとってやった。
雪鏡はものすごく嬉しそうで幸せそうな顔をしながらデザートを頬張っている。
幸せそうでなによりだよ!
子守の大変さで四苦八苦しつつ、ついにアイスコーナーにまでやってきた。
しまった。そういえばユキさんはずっと冷却装置の中だけど、パーティ楽しめてるのかな?
心配になりながら、シェイカーで作ったアイスと、自力で混ぜさせたアイスを雪鏡に用意して食べさせている間、装置に耳を近づけて中の音を聞いてみた。
ユキと雷の精の会話が中から聞こえてくるし、影の精も会話に混じっているのか、静寂の跡に返事をしている声が聞こえてくる。
どうやら精霊組はユキのところでパーティを楽しんでくれていたらしい。
音頭をとってもらったあと見かけないなと思ってはいたんだけど、まさかこんなところにいたとは。
一安心できたので、引き続き雪鏡の子守りをする。
アイスを食べ終えた雪鏡は、やはりシェイカーより自力で混ぜた方のアイスを気に入っていた。
「自力で作るのも楽しくて美味しくて良いけど、何でも楽をするのが良くないわけじゃないんだ。より良くしていくために楽をする工夫をするのには知識と知恵がいるんだ。シェイカーよりも良い道具があるのかもしれないし、もうすでに世に出回っている可能性だってある。新しく作るのも良いと思うよ。たくさんの物事を知って、勉強して賢くなったら、いろんな方法を編み出せるって寸法さ!」
言い方が難しかったかな?なんて思いながら、両親に教わったことを組み合わせて教えてみると、雪鏡はキョトンとした顔をしたあと、目を輝かせながら頷いてくれた。
そういえば、早口で聞き取れないこともあったっけかな。なるべくゆっくり話さないと。
いろんな回想をしつつ面倒を見るのは楽しかったけれど大変だった。頭が疲れる!
そういえば、小さい頃から人間以外に対して好奇心旺盛だったなあ。
雪鏡もそうらしく、隙を見せるといつの間にかいなくなっちゃってて、気力もげんなりしていた。
母親に半ば脅しをかけられるように注意されたから、どこかに勝手にいなくならなくなったんだっけ?それとも、トイレ行くときに脅されたのがきっかけだったんだったか?もしくは、腕を引っ張って連れて行かれかけた時?
なんにせよ、怖い経験がきっかけで勝手に消えなくなったのだろうという予想はついていた。今日はパーティだから大目に見るけど、ちゃんとそういう怖い経験も積ませてやるから覚悟しな。
ご飯でお腹いっぱいになった後のゲームはなかなかこたえたけれど、懸念していたような日を跨いで開催なんてことにはならなくて首を傾げた。
パーティを開いてからかなりの時間が経ったはずなんだが……。
そういえば、城の中なのにオーロラが見えるぞ。まさか……。
冷却装置の中にいるユキにノックをしたあと、こそこそと聞きたいことを聞いてみた。
もしかして時間を止めてるかゆっくり流してるかどれかかな?と思ったからだ。
すると、ユキは頷いて状況を教えてくれた。
どうやら夢鏡が言った通り、童話がすべて終わりを迎えたため、空間が端の方から徐々になくなっていたらしい。
雷の精と影の精がオーバーフローを抑えられるかどうかの実験をしたときに気が付いて、精霊三人で相談してせめてパーティまで持ち堪えさせようと決めたのだとか。
相談くらいしてくれても良かったのに。
これが崩れ行く世界の中で、精霊三人組が用意してくれた夢のように楽しいひと時だったのを知って少しだけ切なくなった。
もしこの空間がなくなったら、みんなそれぞれの世界に帰るのだろうか?
私はどちらに配属されるのだろうか?またユキに会いたいって思ったのに、家出する前の世界に帰されるのだろうか?ユキにこちらの世界のユキと会わせるって約束したのはどうなる?
戻る世界を選べたらどれだけいいだろうか?
でも、もしみんなそれぞれの世界に帰るなら、雪鏡はこれからどうなる?ちゃんと誰かが育てられるのか?
心配ごとが山のように積みあがっていく中、最後のゲームまで終えてパーティは解散、それぞれの部屋でゆっくり休むことになったけれど、私の中では心配事がずっとぐるぐる回っていた。
道具を片付け、冷却装置から出てきたユキはまだしばらく時間を止めてくれるとのことだったけれど、疲れたりしないだろうか?
止めれるって言っても、あとどれくらい止められるのか。
ユキと雪鏡から採取したカードがまだ残っているけれど、空のカードはないからオーバーフローしても解消してやる手段が花畑しか浮かばない。
あの空間が崩れてなくなっていたら、あとはもうなすすべがないかもしれない。
様々な不安に苛まれているといつの間にか眠れていたらしいけれど、あんまりよくない夢をみながら眠る羽目になって次の日を迎えた。
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