日本呪術捜査本部『JWIH』
桜田
第1話
「ひとつ、訂正させてください。私たち、日本呪術捜査本部は呪術を無効するのが目的ではありません」
徳永恵梨香の言葉で、記者たちの間にどよめきが起きた。
霞ヶ関にある警視庁本部の一室だ。
多くの記者が詰めかけ、後方にはキー局のカメラが前方を捉えている。
前方には、警視総監と徳永がテーブルに座っている。
「あなたたちは、呪術被害に遭った方たちを救うために組織されたんですよね」
最前列に座る男性の記者は戸惑った顔で尋ねた。
徳永はまっすぐに記者を見据える。
「私たちの目的は、呪術を行う犯人を拘束し、法の裁きを与えることです。呪術は自然発生し人に危害を与えるものではありません」
言葉を句切り、徳永は会見場を見回す。
記者たちがこちらの話を聞く態度になっていることを確認する。
徳永はよく通る声で話し出す。
「呪術の背後には、術者がいます。被害者を救うために呪術を無効化しても、術者や依頼者がいる限り同じ被害に遭うでしょう」
徳永が話したことは、この場にいる誰もが理解している。
だからこそ、記者たちはどこか皮肉めいた表情を浮かべる。
男性の記者が質問する。
「呪術を使う人間をどうやって見つけるんですか? 十年ほど前から日本では呪術による被害が頻発しました。ですが、呪術犯罪で犯人を捕まえたのは多くはありません。その理由はあなた方がよくわかっていますよね」
「ええ。呪術は遠隔で行うため、ほとんどが犯人にたどり着くのは困難です。被害者を調べることで、犯人を特定するしかありません」
だが、その人間を特定するのも容易ではない。
地道に聞き込みをし、確度の高い容疑者をあげる必要がある。
「呪術という超自然現象を前に、我々警察は無力といってもいい」
「じゃあどうやって?」
「最新の科学技術と、古来からの呪術に関する知識を組み合わせた方法で捜査を行います」
「科学技術と呪術の知識ですか?」
「呪術は、超自然現象です。ですが、科学的に解明できる部分もあるのです。我々は、その両面からアプローチすることで、事件の真相に迫り、術者を逮捕します」
徳永は、自信満々の笑みを浮かべる。
「すでにその成果は出ています。最近、呪術者が逮捕されたことは、ご存じですよね」
「ええ、政治家などから依頼を受けていた……」
男性記者の目を見開く。
半年前、ひとりの術者が逮捕された。
その者は、政治家から依頼を受けて、呪術による殺人を行っていた。
その術者は、3人を呪殺した。
この事件は、世間を震撼させた。
政治家が依頼者だったことはもちろんだが、術者を逮捕したからだ。
「あの事件は、あなたたちが担当したのですか?」
「ええ、試験運用として、その事件を担当しました」
徳永は真剣な表情になる。
「我々は、呪術を使う人間を、絶対に許さない。そして、呪術被害に遭われた方々を、必ず救う。それが、我々日本呪術捜査本部の使命です」
徳永の言葉に、会場は静まり返った。
記者たちは、徳永の言葉を真剣に受け止めているようだった。
そのとき、会見場のドアが開き、ひとりの警官が入ってくる。
その警官は、記者たちを一顧だにするすることはなく、会見の司会を行っている男性のもとに走る。
警官が小言でなにかを話すと、司会の男性の顔がこわばる。
記者たちもなにか起きていることに気づいたのか、それぞれがスマホを見ている。
「大規模な呪術犯罪!」
ひとりの記者が叫ぶと、会見場は混乱に包まれる。
中には、会見場から飛び出していく者もいる。
徳永は、司会者を見る。
早く説明にきなさい、と目で訴える。
そのとき、徳永のスマホが振動する。
素早く画面を確認すると、徳永はスマホを警視総監に見せる。
画面を見た警視総監は、徳永を見て頷く。
「お前なら、きっとできる。頼んだぞ」
「必ず事件を解決します」
徳永は立ち上がると、会場を後にする。
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