言えない言葉
星無 夜月
今年の桜
上を見上げると雲ひとつもない快晴。
久しぶりの晴れに気持ちも上がる。
あまりの気持ちよさに目を閉じて目の前の空気を思いっきり吸いこんだ。
髪の毛を通り過ぎる風、太陽の温かさ、周りの賑やかしい音、草花のいい匂い…。
全部が心地よく感じる。
その瞬間、突風がビューっと吹いて目を開けると、目の前にあった桜の木から桜の花びらがハラリハラリと舞い落ちる。
まるで魔法に操られているかのように舞っている姿はとても綺麗で涙が出そうだった。
私には大好きな人がいた。
その人は、桜が好きでよく一緒にここの桜並木を見に来ていた。
ここに来るとその人を思い出してしまう。
その人とは、私の留学をきっかけに別れてしまったのだけれども、今も忘れられない。
今隣にいる彼は、君じゃないのに…。
後ろから私を呼ぶ声が聞こえて、思わず唇をグッと噛み締め笑顔で振り向いて彼に手を振った。
「待った?ごめんね?」
走ってきたのか、息を切らして私に近づいてきて額に滲んだ汗を拭きながら謝られた。
時計を見るけど集合時間よりも5分遅れただけでそんなに急がなくても良かったのに…。
「そんなに待ってないし、大丈夫だよ」
申し訳なさそうな顔をした彼を励ますように
彼の手を私がギュッと握って歩き出した。
屋台とたくさんの人がいる中を歩く。
普段こんなに人がいるところに来ることがないから、人に当たらないように周りに注意を払いながら歩く。
もしかしたら君も誰かと今来てるかな?
なんて頭の片隅に悪い考えが浮かんでくる。
1度考え出した思考は、止まることを知らずに
ついつい周りをキョロキョロしてしまう。
いきなり挙動不審になった私をみて彼が笑う。
「珍しいものなんてなんかあったっけ?」
彼が顔をかたむけて優しい顔で、微笑見かけられる度に心が痛む。
まるで私の心が嘘ついてるみたい。
「何も無いよ!」
振り返って笑顔で彼に伝えると私は前を向いてまた、君がいるじゃないかと思って目線だけが忙しく動く。
見つけてどうしようってわけじゃない。
ただ一目見たかった。
君がどうしてるのか…今笑顔でいるのか。
ただ、それだけの欲望に動かされていた。
ふと上を見上げると桜並木と言われるだけあって、大きな桜の木がズラーっと道沿いに並んでいる。
桜の絨毯と言われるくらい桜が散っていて、とても幻想的だ。
「今年も桜並木が綺麗だね」
そう口から出るほど絶景だった。
私たちはちょうどいい時期に来たと思う。
晴れてるのもあって、写真もとても素敵に撮れたとおもう。
彼が私の手を握って私の目を見て
「そうだね、また来年も2人で来ようね」
そう言われて目の前の桜を見た。
桜を見ながら隣の彼じゃなくて君のことを思う私を許してね。
「大好きだよ」
そう彼が伝えてくれる度にありがとうと笑い返すのが定番。
愛してるの言葉は、君だけの特権だったから。
言えない言葉 星無 夜月 @mochimochi0224
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