俺の股間はバハムート
フェニックス太郎
第1話 伝説の竜王バハムート、降臨!!
森の奥深く、苔むした岩と歪んだ木々に囲まれた一角で、召喚士レオンは膝をついて息を整えていた。
夜風が冷たく頬を撫で、遠くでフクロウの鳴き声が響く。
月は雲に隠れ、薄暗い光だけが彼の手元を照らしていた。
レオンの前には、地面に刻まれた巨大な召喚陣――何年もかけて魔術書を読み解き、試行錯誤を重ねて完成させた渾身の作品だ。
彼の手には、ボロボロになった革表紙の魔導書が握られている。
ページは黄ばみ、角は擦り切れ、ところどころインクが滲んで読めなくなっている。
それでも、レオンにとっては宝物だった。
10年だ。
10年の間、村の皆が「召喚士なんてもう時代遅れだ」と笑う中、彼は森にこもり、魔力を磨き、呪文を唱え続けた。
失敗した召喚獣の数は数え切れない。スライムに潰され、ゴブリンに追い回され、挙句には謎の光るカエルに足を舐められたこともあった。
それでも諦めなかった。
「俺は最強の召喚士になる。世界を震撼させる存在をこの手で呼び出すんだ!」
レオンは立ち上がり、声を張り上げた。風が一瞬止まり、森が息を呑むように静まり返る。
彼は深呼吸をし、魔導書を開いた。最後のページには、古代文字で綴られたバハムートの召喚呪文が記されていた。
伝説の竜王、天空を支配し、大地を焼き尽くす最強の召喚獣。
その名を口にするだけで震えが走る。
「準備はできた。もう後戻りはしない」
レオンはポケットから小さな水晶を取り出し、召喚陣の中心に置いた。
それは彼の魔力を増幅するための触媒で、村の長老からこっそり拝借したものだ。
いや、借りただけだ。返すつもりはある。たぶん。
彼は目を閉じ、心を集中させた。両手を広げ、魔力を全身に巡らせる。
召喚陣の線が微かに光り始め、地面が小さく震えた。
レオンの口から、呪文の最初の言葉が漏れる。
「我が血を捧げ、魂を刻み、闇より出でし王を呼び覚ませ…」
声が低く響き、召喚陣の光が強くなる。風が再び吹き始め、彼のローブをはためかせた。レオンの額に汗が滲み、指先が震える。
それでも彼は止まらない。呪文は続く。
「天を裂き、地を砕く者よ!我が命に従い、現世にその姿を示せ!」
召喚陣が赤く燃え上がり、雷鳴が空を切り裂いた。
木々が揺れ、鳥たちが一斉に飛び立つ。
レオンの心臓が早鐘を打ち、魔導書のページが勝手にめくれ上がる。
そして最後の言葉を、彼は叫んだ。
「来たれ、竜王バハムート!!」
一瞬、世界が静寂に包まれた。時間が止まったかのように、音も風も消え去る。
レオンは息を止め、目を固く閉じた。
そして――轟音とともに、光が召喚陣から噴き出した。眩しさに耐えきれず、彼は腕で顔を覆う。
光の中から、巨大な影が浮かび上がるのが見えた。
「来た…来たぞ!」
レオンは腕を下ろし、目を細めた。
そこには、翼を広げた巨大な竜のシルエットがあった。
鋭い爪、燃えるような瞳、黒光りする鱗
――まさしくバハムートの姿だ。伝説が、目の前に現れたのだ。
「やった…やったぞ! 俺は成功した! 最強の召喚獣を呼び出したんだ!」
歓喜の叫びが森に響き、レオンは拳を握りしめた。10年の苦労が報われた瞬間だった。彼の目に涙が滲む。
だがその時、光が急速に収束し始めた。バハムートの姿が縮こまり、まるで吸い込まれるようにレオンの方へ向かってくる。
「え? 待て、待て待て! どういうことだ!?」
レオンが慌てて後ずさろうとした瞬間、下半身に熱い衝撃が走った。彼は思わず膝をつき、ズボンに目をやる。
そこには…何かが蠢いていた。
「な、なんだこれ!?」
ズボンが膨らみ、ゴゴゴゴという地響きのような音が響く。
次の瞬間、ズボンの布が弾け飛び、レオンの股間から黒光りする小さな竜が顔を覗かせた。
翼は小さく、目はギラギラと輝き、口からは小さな炎がチロチロと漏れている。
「…バハムート、だよな? お前、バハムートだよな!?」
レオンが半泣きで尋ねると、小さな竜は首を振ってこう言った。
「フン、当然だ。俺が伝説の竜王バハムートだ。貴様が俺を呼び出した召喚士か?」
声は低く威厳に満ちていたが、問題はその位置だ。
レオンの股間にしっかりと根を張り、まるでそこが定位置であるかのように落ち着いている。
「いやいやいや! お前、なんでそこにいるんだよ!? バハムートって、もっとこう…でっかい竜で、空を飛んで、敵を焼き尽くす存在じゃなかったのか!?」
「フッ、俺の力に大きさは関係ない。貴様の魂に宿った以上、ここが俺の居場所だ。文句があるなら召喚を解け。ただし、その場合貴様の命も終わりだがな」
バハムートがニヤリと笑う。レオンは絶句した。成功したはずの召喚が、こんな形で裏切るとは。
その時、背後から聞き慣れた声が響いた。
「おーい、レオン!どうだった、召喚は成功したか?」
村の幼馴染で剣士のリシアナが、軽い足取りで近づいてくる。
レオンは慌ててズボンを引き上げようとしたが、時すでに遅し。リシアナの視線がレオンの股間に釘付けになった。
「…レオン、お前、それ何?」
「ち、違うんだリシアナ! これはバハムートなんだ! 最強の召喚獣なんだよ!」
「バハムート? 股間にいるのが?」
リシアナの顔がみるみる赤くなり、次の瞬間、彼女は剣を抜いて叫んだ。
「この変態! 召喚だかなんだか知らないけど、そんな言い訳通用するわけないだろ!」
「待て待て待て! 本当なんだって! ほら、バハムート、なんか言え!」
「フン、女よ。俺は確かにバハムートだ。貴様の貧弱な剣など俺の炎で溶かしてやろうか?」
股間から威勢のいい声が響き、小さな炎がチロッと飛び出す。リシアナは目を丸くして後ずさりした。
「…マジで喋った。レオン、お前…本当にこんなのを召喚したの?」
「だから言っただろ! 俺は最強の召喚士なんだ!」
「いや、最強とか以前に…その見た目、どうすんのよ」
リシアナが呆れたように言うと、バハムートが再び口を開いた。
「見た目など些細な問題だ。俺の力は本物だ。さあ、召喚士。俺を試してみるか?」
レオンは頭を抱えた。
確かに力は本物かもしれない。
でも、この状況でどうやって最強を目指せばいいんだ!?
こうして、召喚士レオンと股間のバハムートの奇妙な冒険が始まったのだった。
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