第3話 私で童貞捨てた癖に!

 剣影は売店にておにぎりやサンドイッチを横目に楽しそうに商品を選ぶ蛍について行った。


 剣影「まだ決まらないのか?」


 蛍「ちょっと待っててください、こんな機会滅多に無いので嬉しくて………………」


 剣影「そろそろ授業始まるぜ?」


 蛍「サボっちゃおうかな~部長もどうです?」


 剣影「俺はいいけど、入学したてのお前が行かないのはまずいだろ。」


 蛍「いいんですよ、興味ないですから。」


 剣影「中学の時みたいになるかも知れないだろ?」


 蛍「部長が居るので、うちは大丈夫です!(い、言っちゃった! )」


 剣影「俺が居たらなんだよ? 友達とか彼氏とか居た方がいいだろ?」


 蛍「彼氏…………(部長が彼氏になってくれればもうそれだけで…………)」


 剣影「まあ、お前の勝手だがな。」


 蛍「部長は………彼女とか作らないんですか?」


 剣影「俺? まあ、予定は無いな。」


 蛍「選べる立場じゃないですもんね~」


 剣影「うるさい。」


蛍は少し背伸びをして棚の上にあったいちごミルクを取ろうとしたが、届かなかった。


 蛍「部長、取って。」


 剣影「はいはい。」


剣影はいちごミルクを取り、それを蛍の頬に当てた。


 蛍「きゃっ! もう!」


 剣影「ふふ、はい。」


剣影は蛍にいちごミルクを渡し、蛍は会計に向った。


 おばちゃん「甘いね~」


 蛍「何がですか? これは甘さ控えめですよ?」


 おばちゃん「甘いんだよ。」


 蛍「………?」


剣影は財布を取り出し、会計を済ませた後、中庭のベンチに腰掛けて太陽に照らされながらゆっくりとした時間を過ごした。


 蛍「部長は何も買わなくていいんですか?」


 剣影「ああ。」


 蛍「飲みます? って何言ってんの私!? (間接キスじゃん!)」


 剣影「遠慮しておく。」


チャイムが鳴っても二人はその場を動かず、小さい口で蛍は少しづついちごミルクを飲んでいった。


 蛍「二限目から行きます?」


 剣影「俺はゲーセンに行くわ、じゃあな。」


 蛍「うちも行っていいですか?」


 剣影「まあ、いいけど。」


 蛍「やったぁ!」


 剣影「送ってやるよ。」


 蛍「え? どうやって?」


 剣影「バイクで来てるんだ。」


剣影はそう言って立ち上がり、校門へと向かって行った。蛍は残りを一気に飲み干し、小走りで剣影について行った。


 剣影「ここで待ってろ。」


剣影は蛍を校門の傍で待たせ、外に行き、近くの駐車場に止め立った自分のバイクに乗って校門に戻って来た。


ブロロロロロロッ


 蛍「すごっ! 部長のバイクですか?」


 剣影「ああ、400㏄のアメリカンだ。かっこいいだろ?」


剣影は一旦降り、ヘルメットを取り出して蛍に渡した。


 剣影「乗ってる時は俺の腰を掴むんだ、いいな?」


 蛍「は、はい!」


アメリカンという事もあり、二人乗るのは難しくなく、蛍は剣影の後ろに乗り、剣影に後ろから抱き着いた。


 剣影「しっかり掴まってるよ。」


 蛍「はい………(だ、抱き着いてちゃってる、きょ、今日は最高の日かも!)」


剣影はニュートラルから一速にギアを変え、クラッチを徐々に離しながらアクセルを捻ってその巨体を動かし、風を切ってゲーセンへと向かった。


 蛍「きもち~!」


 剣影「落ちても拾わないからな、しっかり掴まってろよ。」


潮の香りに包まれながら海沿いを駆ける剣影は、その景色と女性を後ろに乗せているという事から少し気分が浮ついてきて、少しだけ笑みをこぼしながら楽しんでいた。


 蛍「このまま世界の果てまでいっちゃいましょう!」


 剣影「ガソリンがもたないから無理。」


 蛍「じゃあ東京まで!」


 剣影「ゲーセンだろ? 木更津くらいまでだったらいいけどさ。」


 蛍「じゃあアウトレット!」


 剣影「バイクだぜ? 大した荷物は持てないからな。」


 蛍「じゃあ…………まあ、部長が行きたい所でいいですよ。」


 剣影「じゃあゲーセンだな。」


改めてゲーセンに向かい、剣影はゲーセンの駐車場にバイクを止めて降り、中に入って行った。


 剣影「さて。」


剣影は真っ先に格ゲーをする為に店の二階に向おうとしたが、蛍に引き留められた。


 蛍「まさかとは思いますけど格ゲーするつもりじゃないでしょうね?」


 剣影「そのまさかだけど?」


 蛍「せっかく女の子と一緒に居るのに格ゲーなんてやめて下さいよ、クレーンゲームでもやりましょ?」


 剣影「ええ? もう指が格ゲーの指なんだけど? さっきからずっとコマンドを頭の中で打ってるんだけど?」


 蛍「駄目です、人形とか取ってうちにプレゼントしてください。」


剣影は半ば無理矢理クレーンゲームに連れていかれて、かわいいと気持ち悪いの中間の様な訳の分からないカエルのぬいぐるみを取る事になった。


 剣影「何でこんなのを………………」


 蛍「凄い青春って感じしません?」


 剣影「何が青春だよ、くだらねぇ。」


 蛍「そういう所が部長の悪いとこです! 将来後悔しますよ!」


 剣影「絶対しない。」


 皐月「あれ? 宮本じゃん。」


クレーンゲームの前でカエルと睨みあっていた剣影に、近くでメダルゲームをしていた同級生の神谷皐月(かみやさつき)がメダルを手の上でジャラジャラさせながら剣影に話しかけてきた。


 剣影「神谷か、なんだ?」


 皐月「二年になって早々さぼり? やっぱ変わらないね。」


 蛍「だ、誰ですかこのギャルは………………」


神谷皐月は何十年も前のギャルみたいな見た目をしており、長いウェーブのかかった金髪に、わざと胸元をさらけ出すように気崩した制服、褐色の肌に濃いメイク、鞄の本体が見えない程に付けられたアクセサリー、時代に合ってないといえばそうだが、顔の良さで違和感を帳消しにしていた。


 蛍「部長、こんな人と交流を持つような人でしたっけ?」


 剣影「こうしてゲーセンでさぼってる内に知り合ったってだけだよ。」

 

 皐月「女づれなんていい御身分じゃん? 彼女?」


 蛍「かか、彼女!?」」


 剣影「違う。」


 皐月「彼女じゃないんだ、じゃあさ、この後付き合ってくんない?」


 剣影「何に?」


 皐月「買い物、バイク持ってるでしょ?」


 剣影「やだよ、面倒くさい。」


 皐月「フェラとかしてあげるからさ。」


 蛍「ふぇっ!?」


蛍はそう叫び、硬直した。


 剣影「やだ。」


 皐月「ケチ、じゃあ一回だけヤらせてあげる。」


 剣影「もっと自分を大事にしろ。」


 皐月「何でよ? いいじゃん買い物くらい。」


 剣影「女の買い物には付き合いたくない。」


 皐月「はぁ………こんな美人とセックスするチャンスを無駄にするなんて。まだ童貞でしょ? 宮本は。」


 蛍「どっ!?」


そう叫んだ蛍はその場に倒れ込んだ。


 剣影「ほっとけ。」


 皐月「私で童貞卒業しちゃいなよ~。」


皐月はそう言いながら剣影に胸を押し当て、耳に息を吹きかけた。


 剣影「やめろって。」


 皐月「宮本に言いたいな~私で童貞卒業したくせにって。」


 剣影「漫画の読みすぎだ。」


 皐月「宮本に言われたくないんだけど?」


 剣影「もう帰るからな。」


 皐月「まあいいや、また今度あそぼ。こんな時間から遊んでくれるの宮本だけなんだから。」

 

 剣影「今度な。」


剣影はそう言って倒れている蛍を担いでゲーセンの外へと出た。


 剣影「おい、起きろ。」


 蛍「ふぇふぇ、せっせっ、どど、どう!?」


 剣影(刺激が強すぎた様だな。)」


 蛍「な、何ですかあの人は、破廉恥すぎます!」


 剣影「そういう奴だからな。」


 蛍「あんな人とは縁を切った方がいいですよ! 絶対悪影響です!」


 剣影「いや、あいつはこの町最強のファイターだから縁は切れない。何時か勝つと決めてんだ。」


 蛍「くっだらな!」


 剣影「くだらないとは何だ、そんな事言ってると後悔するぜ?」


 蛍「する訳ないでしょ!」


 剣影「まあ乗れよ、ドライブしよう。」


剣影はバイクに乗り、蛍はしぶしぶ後ろに乗って、ちょっと気合を入れた後、剣影に抱き着いた。


 剣影「ちょっと強くね?」


 蛍「こ、怖くて!」


 剣影「じゃあバイク降りるか?」


 蛍「いや、いいです! 乗ります!」


 剣影「そうか。」


そうしてバイクで走りだし、取り合えず海沿いを進んで行った。


 蛍(あの女も倒さないと………うちと部長の青春を阻む者は何者であろうと排除しなくては………………)」


ゴロロロロロロッ


 蛍「雷?」


 剣影「まずいな………………」


雷の音が響くのと同時に大量の雨が降り、剣影と蛍に降り注いだ。


 蛍「きゃっ!? 雨!?」


 剣影「一旦俺の家で雨宿りするぞ!」


 蛍「部長の家!?」


剣影は急いで家に向かい、悪い視界の中を事故らない様に最大限気を付けながら進んだ。


 剣影「(凄い雨だな…………気を付けないと。)」


普段は人を乗せないせいで剣影は少し不安になり、下腹部に回る蛍の手を左手で掴んだ。


 蛍「部長!?」


蛍は驚きで心臓が飛び出そうになり、中々の声量でそう叫んだが、雨とバイクの音で剣影には聞こえなかった。


 蛍「(も、もしかしてうちの事心配してくれてる?)」


蛍は勇気を出してその手を掴み返し、指を絡めて強く握った。


 剣影「………………」


剣影は何も言わずその手を握ったまま家に戻った。


 剣影「大丈夫か? 家には気にせず入っていいから…………」


剣影が後ろを振り向くとそこには、びしょ濡れで下着が透けてしまっている蛍の姿があり、剣影は直ぐに目を背けた。


 蛍「うぅ………お邪魔しますぅ……………」

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