第12話 記憶の断章と、起動する勇者プログラム。

 ある朝、ユウトの様子が、ちょっとおかしかった。


 


「……夜、寝てたらさ。変な夢を見たんだ」


「へーどんな夢?」


「……“誰か”が俺に言うんだよ。**『勇者プログラム、起動します』**って」


「いや待て、その時点でもう普通じゃないやつだろ!」


 


 しかもその日から、ユウトのスキル構成が勝手に変わりはじめた。


【ユウトの職業が“聖導士”から“勇者(PROTO)”に変化しました】


 ■スキル追加:

 ・“コード・スラッシュ”

 ・“ディスペル・ワールド”

 ・“エンコード・ソウル”


「なんか職業名に“PROTO”とかついてるけど!?なにそのベータ版みたいな勇者!!」


「……俺、ほんとに“人間”なのかな」


「やめろその深刻な自問自答!今週中にツッコミ回数オーバーしそうなんだが!?」


 


 ■アステリカとの会話

 俺は、思い切って魔王様に話を聞きに行った。


 


「……ユウトが、勇者プログラムってのに勝手に変わった。これ、知ってる?」


 


 魔王アステリカは一瞬だけ黙ったあと、いつもの飄々とした顔をやめ、静かに語りはじめた。


 


「……“勇者”っていうのは、本来、存在しない存在なの」

「この世界を“正しい物語”に戻すために、管理層があとから追加した、修正パッチ」

「ユウトは、たぶんその“制御装置”として選ばれた」


「……ってことは、ユウト自身も“この世界の登場人物”じゃないのか?」


「正確には、“本来の物語”には存在しなかった。でも、あなたと出会って、“物語の中身”になった」


「それって……」


「――そう、バグよ。だけど、だからこそ彼はここにいる」


 


 なんだよそれ。


 何が正しいのか、どこまでがシステムで、どこからが“人”なのか。


 わかんねえよ。


 でも――


 


 ■夜、ユウトと再び話す

 ユウトは静かに笑った。


「……俺、やっぱりどこかで自分が普通じゃない気がしてたんだ」

「でも、それでもいいやって思ったんだよ。だって――」


 


「この世界で、ヒナタと出会えたからさ」


 


「……やめろ、そんな顔で言うな。思春期男子が混乱するだろ……!」


「冗談だよ、冗談。でも……マジで、ありがとうな。俺、ここにいていいんだって思えたから」


 


 そう言って笑うユウトに、俺はなぜか**“最初から知ってたような”懐かしさ**を感じた。


 


 そしてその瞬間。


 俺のステータス画面が、一瞬だけざらつく。


 


【同期エラー発生】

【対象:勇者PROTO / ユウト】

【アクセス試行中の記録ファイルが不完全です】


 


「……おい、これって――」


 


 ■遠くの空が、裂けた。

 王都の空に、赤いノイズのような裂け目が現れた。


【Warning:世界構造不整合が発生しました】


「まずい……世界のデータが、“上書き”され始めてる!?」


「――このままじゃ、“物語そのもの”が消えるぞ!!」


 


 俺たちは走る。

ユウトも、ノエルも、そして魔王アステリカも。


 それぞれの“記憶”と“立場”を超えて、世界を守るために。


 


「勇者だろうが、魔王だろうが関係ねぇ!」

「俺たちは、“今ここにいる理由”を守るんだ!!」


 


 その叫びが、ノイズの向こうへ届くことを信じて。

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