第42話  『世界最低』

「『世界最低』。おれなら、お前をそう名付ける。お前はどこも弱くもない。そんで強くもない。最強には程遠い。最弱には死んでもなれない。ただ最低なだけだ。ただただ最低なだけだ。でも、最低なだけだ。人間として生きるには障害だが、致命的じゃない。だから言う。人間を辞めるな。人間でいろ」

「…………」


「『言語障害』。その使い方に気をつけろ。それは、『神』と同じことができる能力だぞ? 『自分』を『神』にできる、『忘却』させて『創造』できる能力だぞ」


『言語障害』。『言葉、文字なら関係なく操れる』能力。それを使えば、


 世界中に残っている神話を消せばいい。

 それだけで、神は消える。それをできる力がある。そして、ぼくを神に置くことも、可能だ。


「お前は、あいつと違って不完全なまま、おれに見つかった。『神』に見つかった。これが『世界最弱』らしく隠し通されていたら、どうなっていたか想像できねえ。それだけで言えば幸運だ。だが、不完全だからこそ、神は先手を打てた。『世界最弱』らしく、勝負をせず、勝負すらさせてもらえず、お前は土俵にあがることになった。模倣使いという名の魔法使い。そのわけのわからないものと戦う使命を無理やり与えられた」


 ぼく一人のために、日本中を巻き込んだ。ぼくも、ほかの魔法使いも、それ以外の人間もみんな被害者なのだ。戦う理由を知らされていない。なんのために戦うかわからない。この状況を理解している人など、一人もいない。


「模倣使い、か。今更だけど、なんとなく言い得て妙だよね」

「お前を捕まえるためには、力が必要だった」

 力。そんなもの、果たして必要だろうか。腕力一つあれば、ぼくは簡単に屈服するというのに、


 ――わざわざ『異能』という『概念』を無理やり『作り出す』必要はあったのだろうか。


「直感的に、上だと認識させたかったんだよ。人間以上の存在だとわからせたかっただけだ。お前にも、ほかの人間にも。それには『超能力』って言葉がぴったりだった。それを与える手段もあった。あいつは、時間を操作できる。異能を与えることも可能だった」


 時間を操作できるということは、進化を操作できるということ。先ほどの割葉の言葉でもあったように、人間から外れかけた存在なら、度々いたのだ。ただ、発見され次第割葉が殺していっただけで。決して数を増やさなかっただけで。四つ葉のクローバーが、見つかれれば摘まれていくように。


 だが、『神』はそれを許さなかった。


『異能』の種を見つけ、保護した。そして、育てた。長い時間かけて交配させ、人間を越えるまで待った。二年前、突然魔法使いが現れたようだがそうじゃない。

「なんで、二年前だったんだ?」

「お前は能力に目覚めたのが、二年前だからだ」

 二年前。そのときなにがあったかもう思い出せないが、ぼくが”覚醒”したのはなんとなく覚えている。


 能力を、『言語障害』を理解したことをなんとなく覚えている。


 そのときの感情は、不快、だった。

 気持ち悪かった。とにかく不快だった。今すぐ死にたくなるほど、全身がぼくを拒否した。

 そのあとに割葉が現れなければ、ぼくは死んでいただろう。教えてくれなければ、この能力に怯えて自分を殺していただろう。あの不快感は、おそらく恐怖だ。ぼくがぼくじゃなくなったと知って、怖くなったのだ。22年間を否定され、生まれ変わり、今まで一緒だったものが入れ替わり、混乱したのだ。


「お前の覚醒を、『神』は知っていた。けど、どうすることもできなかった。お前を下手にいじれば、『言語障害』ごと消え去る恐れがあった。お前を失うわけにはいかない。唯一無二の存在だからこそ、『神』は慎重に根回しをした。わざわざ『異世界』なんて単語を広め、『魔法』なんて言葉を、『ファンタジー』なんて言葉を作った。全部お前のためだ。お前がどこかの主人公のように『わあ、おれ、すごい力を授かった』なんて言うのを期待したんだろうが、ダメだったな」

「それどころじゃ、なかったからね」


 そんな余裕はなかった。そんな発想はなかった。そんな幸運なこととは思えなかった。

 ハズレ籤の当たりを引かされた。そんなもんなんだろう。隕石を受け止めて死ぬ役目を負わされた。それに近いのだろう。

 はたから見れば当たりでも、ぼくにとって、それはハズレだった。

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