第36話 『説明』と『認識』
パチ、パチ、と音がした。姿は相変わらず見えないが、拍手であると理解できる。「すごい……驚きました」と声が聞こえたところを見ると、どうやら本当に感激しているらしい。
「ここまで見抜かれたのは初めてです。こんなに知識がない中、よくここまでたどり着きました。おめでとうございます。あなたの言う通りです、変態さん」
拍手が止む。
「ですが、補足をさせてください。あなたの言うことはほぼ当たりです。ですが、まだ条件はあるんですよ。私の能力の発動条件は二つ。『説明』と『認識』です。私の能力を理解した上で、さらに私と対象者が同時に『一撃与えた』『一撃もらった』と認識しなければ、この魔法は発動しません」
槇のいう『同時』がどれほどの精度なのか、気になるが、気にしても無駄だろう。
「さっき、エレベーター内にトラップをしかければいい、と言っていましたよね? エレベーター内の放送を疑問視していました。ですが、これでわかったでしょう? 能力を知らない状態で攻撃を受けても対象は死にません。いくらトラップにかかっても、それが私の魔法だとわからなければ意味がないんです。エレベーター内の放送は、その準備ですね。あそこまで言っておけば、扉が開いた直後の攻撃はみんな『一撃必殺』になります。わざわざ待たずとも、扉の前に、先ほど言ったような通りだけで発動する罠をしかければ、みんな死にます。ただ、私がそれを見ている必要がありますから、隠れるにせよ、近くにいくことは絶対なのですが――」
――私が『一撃必いれた』と思って、あなたが『一撃入れられた』と思えば、それでいい。
「ふふふ。ねえ、あなた、なんで私がこうやって自分から説明しているかわかりますか?」
ぼくは答えない。槇が近づいてきたのを感じ、距離を取る。今まで以上に、気を使って。
「それはね、『説明』が『デメリット』にならないからですよ。私が説明すればするほど、あなたは知識が増えていく。それだけ『誤爆』の確率があがっていく!」
誤爆。確かにその通りだ。『一撃必殺』は、別におはじきやBB弾を使わなくても発動できるのだ。わかりやすいからそうしているだけであって、それに拘る必要はない。
「気をつけてください。あなたに触れる全てのものが、『一撃必殺』になりうる凶器なんですから‼︎」
走っているうちに、なにかにぶつかれば、それを攻撃だと思ってしまえば、それだけで死ぬかもしれない。なにを『一撃』と思うか。なにが『一撃』なのか。曖昧だ。曖昧だが、応用がきく。応用がききすぎて、魔法使い本人にさえもなにが『一撃』なのかわからなくなるほどに。
「……なるほど。確かに、それはすごい能力だ」
「負けを認めましたか? なら、もうあきらめて出てきたらどうです? 大丈夫ですよ。痛みはありません。そのころには死んでいます」
「すごい能力だけど、残念だな。本当に残念だ。――ぼくの予想通りだったよ」
「……は?」
「ここに来るまでに、もう予想できてたって言ったんだ。それを越えない。もう少しなにかあるかと思ったんだけど、どうやらなさそうだ」
「あなた……なにいってるんですか? まだ、この後に及んで勝機があると思っているんですか? ……ねえ? ねえったら‼︎」
槇が叫び、バチバチと音がした。おそらく手に持ったなにかをそこら中にばらまいているのだろう。だが、そこにはもう誰もいない。そのころにはぼくは移動を開始していた。もう逃げる理由はない。そろそろ終わりにしようと思って、上へと上がっていった。
『非常階段』を使って、また展望室へと戻っていた。
槇が到着する前に、展望階の非常階段の扉にトラップがないことは確認していた。トラップの知識なんてなかったが、『一撃』もらったとわかるものがあるのだろうと思い、そのあたりを中心に探っていた。
だが、槇の発言からそれも無駄だったと思う。『一撃与えた』と認識が必要な以上、階段や踊り場のような、見えにくい位置にトラップはないに違いない。あるなら扉本体やドアノブといったもの。それか、その近く。
槇の姿が見えないので、非常扉を開けるのにも躊躇がいらないと分かったのがありがたい。説明にデメリットがないと言ったが、そんなわけないだろう。能力をバラすことは、弱点をさらけ出すことだ。
下の階に行かなかったのは単純に、下になにがあるかわからなかったからだ。もしかしたら非常扉が閉まっており、行き止まりになっているかもしれない。手のひらを切るようなものが仕込まれており、怪我をするかもしれない。そのときはまだ切り傷でも、槇に見つかったら、それが致命傷になるかもしれない。
だから、上の階に戻った。
うっかり足を踏み外さないように、『一撃』をもらわないように慎重に進み、そしてまた三窓のまる場所へと戻ってきた。
槇も、すぐぼくの後を追って非常階段から姿を表す。デジャヴのように、息は乱れ、肩で呼吸をしていた。
「あなた……何者ですか?」
ぼくは言った。「ただの人間だよ。ちょっとおかしな能力を持った、ね」
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