忘れちゃったの

六角

忘れちゃったの

「きゃあ!誰よ!離して!!」

老婆は車椅子をおす女に怒号をとばす。女は呆れたような顔でただ言い返すこともなく車椅子を押す。女もイラついているのだろうか車椅子を押す速度はやけに速い。


「誰かー!助けてー!!」

老婆は大声で叫ぶ。よりによって僕と同じ方向に進んでいく。なんか気まずい。ここら辺は人通りも少ないちょっとした住宅街で、道には彼らと僕の3人しかいない。家からは人の気配がほとんどしない。こう言ったやり取りは、よくあることなのだろう。


 女は僕の方をチラチラ見て、弁明するように老婆に話しかける。

「もう、お母さん、やめてくださいよぉ。」

そんなことをわざわざ言わなくても僕は彼らの状況がいかに大変かわかってるつもりだ。

「お母さんじゃない!あなた誰よ!チカはどこに行ったの!!」

「チカは私よぉ。忘れちゃったのぉ」

女は一層大きい声でそう言う。


「おかあさん!」

走る音と同時に背後からそう聞こえた。

「ちょっとなにやってるんですか!」

背後にいたのは女と同じくらいの背丈の別の女。

「助けて!」

老婆は新しく現れた女に目をやって助けを求める。車椅子を押していた女は車椅子ごと老婆を薙ぎ倒して走り去っていった。


「お母さん!大丈夫?」

「いててて、大丈夫」

「なんなのあいつ」

「知らない人」

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忘れちゃったの 六角 @Benz_mushi

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