青春日記

新村幸子

第1話

消毒のキツイ匂いによって一人の少年は目を覚ます。そして自分に付けられている点滴などを確認して困惑した表情を浮かべる。


「此処…………………病院?」

「俺、さっきまで部活に居たはずじゃ…………………………………」


周りに居る親などが心配する中、彼は自分に何が起こったのかと思い記憶を遡る。そう、それは…………………………………







明るい春の色の花びらが舞う中、一人の少年は並木道を駆け抜ける。まだ少し肌寒い空気が彼の肌を刺すが、彼は止まる事無く風を切る。


「やっば、遅刻だ遅刻」


彼の名前は三崎光太郎。四月から高校三年生となり、新たな新入部員を勧誘し主将としてチームを引っ張っていく事になる。そんな中今まさに遅刻中なのである。


「よし、五分だからセーフッ!!」

「アウトだ三崎、席に着けー」


クラスの中でどっと笑いが起こり光太郎はいつものように軽く謝り席に着く。教材を取り出してはお気に入りの消しゴムを忘れた事に気付く。


(あちゃー……家に置いてきた)

「ゲホッゴホッ…………………」

(あー…咳辛い、早く花粉滅んでくれ)


隣の席の友人に消しゴムを借りようとした所激しく咳き込む。友人が大丈夫かと問いかけてくるが今年の花粉症が酷いだけだと明るく笑い返すだろう。

そして授業が始まる中一人窓側の席で眠りにつくだろう。










「おーい、三崎起きろよ」

「もう部活だぜ」


「お?ああ、もうそんな時間か」


そう言い陽の光で暖められたブレザーを腕を通さずに羽織れば友人の後を追い更衣室へと向かう。使い込まれたシューズはボロボロで共に歩んできた日々が思い出される。ウェアに着替えてグラウンドに出ればマネージャーに靴紐をきちんと結べと叱られる、彼女はいささか怒りっぽいようにも思うがそれは置いておく。


「今日はチーム組んで練習試合だそうよ、私伝えて来ようか?」

「大丈夫、メンバーに知らせてくる」


最近、体調が悪そうな主将を心配してマネージャーはそう言うが問題ないと言い彼は走り出した。…………………………………そこで彼の記憶は途切れている。






「母さん、泣かないで?何があったん?」

「…詳しくはお医者さんから聞いてちょうだい」


彼は何か深刻な問題でも起きたのだろうかと訝しみつつもベッドから起き上がりナースコールを押す母を見つつ窓ガラス越しに外を見る。昼間の陽気な暖かさは消え、何処か心を不安にさせる冷たい風が窓ガラスに叩きつけられる。

暫くするとノックが聞こえて医者が入って来る。そして両親は一度退室してもらい二人きりになる。


「あの…俺ってそんなに不味い状態なんですか?」

「…単刀直入に言いますと、とても酷い状態です。最近酷い頭痛や身体が上手く動かなかったり、咳が止まらなかったりしませんでしたか?」

「あぁ、思い返してみると…でも、花粉症が酷くなっただけじゃないんですか?」


そう光太郎が言えば医者は首を横に振り口を開く。そしてその言葉に彼は驚愕するだろう。


「俺が…………………………………余命三年?嘘……………ですよね?」

「嘘ではありません、確かに診察した結果大病を患っている事が判明しました」

「そんな…………………………………これから大会もあるのに」

「…………………暫く時間が必要ですか?」

「…はい、両親には家に帰ってもらうように言伝をお願いします」


医者が退室すれば、ベッドに倒れ込み小さく息を吐く。自分が死ぬ事も想像できなかったがそれ以前にチームの皆に迷惑をかけてしまうと思い自責の念に駆られる。

その負の感情が蓄積していく様にため息をつき、どうにか感情を落ち着かせようと点滴を持ち、押しながら病院を散策し始める。

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