龍を狩るということ
「……なぁんとなんと、龍狩りや。この海におるバケモン、『
サングラスのお兄さんは、言うだけ言って、去ってしまった。興味があるなら正式に話を聞きに来いって言ってたから、本当にただの
トレイシーは、ぽつりと呟いた。
「
「それ、トレイシーが言うとすごく違和感あるけどね」
しかも、導きの白竜さんは別に敵対してたわけでもないのに、自分から喧嘩売りに行ってたからね。似たようなもんじゃないかな?
「切られるためにある尻尾を切るのと、命を奪おうとするのは全然違うでしょ? おれが言ってるのはそういうことだよ。目的も成果も違うんだから、決して同列じゃないんだ」
「なるほどね。確かに、そうかも」
つまり、ダンジョンボスの目を盗んでお宝を拝借するのと、ダンジョンボスを倒してお宝を手に入れることの違いか。それならわかる。トレイシーの説明に納得していると、やっと復活した見習いが口を挟んできた。
「……それで納得する
何のことだろう。状況的に、あのサングラスのお兄さんがそうだった、ってのは分かるんだけどね。
「姐さん、マジで気付いてなかったんすか? あのサングラス野郎、『果てなき
じゃあ有名人じゃん。サインでももらっとけばよかったかな。
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取り敢えず今日のところは、宿で一泊。ガチの冒険者は、昼夜も何も関係なく活動してたりもするけど、わたしたちは別にそんな生き急ぐ必要ないしね。やろうと思えば出来なくはないにしても、リラックスも大事だよ。
「いや、もちろん名前は知ってたよ? でも、見たことない人を、初見でそうと判断できるかどうかは、また別の話じゃない?」
「一理なくはねえんすが、とはいっても世界的に有名な冒険者っすよ? 冒険とは縁遠いやつならまだしも、姐さんが見てわからんかったってのは意外すわ」
なんか馬鹿にされてる気がする。不服。見習いは冒険者オタクだし、気付きやすいってのもあるんじゃないの?
態度で不満を表していると、トレイシーがフォローっぽいことを言ってきた。
「まあ、ナズナはあんまり他人の表面の特徴は見てないんじゃないかな? おれもそうなんだよね。相手が誰なのかの判断は、表面よりも中身を見た方が手っ取り早いからさ」
言われてみると、そうかも。『
「ちょっと違うが、相貌失認みたいなもんか? まぁ
「実際、兄さんの言うとおりなんだよね。
名前で認識されない存在、か。わたしたち冒険者でいえば、等級なしの冒険者がそうだね。名前は当然あるんだけど、その名前も存在も
「有名人とまでは行かないにしてもさ、見習いもそろそろ、等級の認定してもらったほうがいいんじゃない? ずっとわたしに見習いって呼ばれてるのも嫌でしょ?」
「……考えときます」
いつも通りの反応だね。気乗りしないみたい。いけるかいけないか、でいうと全然いけるとは思うんだけどな。何を尻込みしてるのか、よくわかんないや。興味ないのかな?
「ナズナ先生、質問です! 等級ってなんですか! ナズナ自身は
「冒険者の等級だね。ざっくりいうと、冒険者がどれくらいのやり手なのかを認定して、冒険者としてかけられている探索制限を外していくためのものだよ」
あと、流してもいいんだけど、わたしが
「なるほど。聞く範囲だと、
「そうだね。そもそも等級の認定は、一人前の冒険者であることの証明なんだ。
わたし自身が
「等級に関しては、それで全部なのかな?」
「うん。一応、
「へえ。ありがとう。おれも頑張れば認定もらえるのかな?」
「実力は十分だろうね。ただ、ある程度の活動実績の報告が要るから、もうちょっと先にならないと、流石に無理かな」
活動期間たった数日で、等級が認定された冒険者とか、聞いたことないからね。
「それで、そのクラゲンさんが、龍狩りのお供を探してるらしい、と」
――一人やと怖いし、みんなで力合わせてな。
「
一人でやれるなら、一人でやる方が、報酬も独り占めできるし。
素朴な疑問に首を傾げていると、トレイシーと見習いは揃って微妙な顔をしている。ふたりとも、「こいつ何言ってんの?」みたいな顔をしないでよ。
「……そりゃ、危険だからじゃないかな……?」
「姐さん。言っときますけど、やれる
え? トレイシーだって、一人で竜に挑んでたじゃん。あれは討伐が目的じゃないとは言ってたけど、実際に匹敵する力を持つんなら、討伐だってできるんじゃない?
「龍狩りって、一人でやるもんなんじゃないの? 『
「どこの常識っすか……。普通は複数人、大規模のチームでやるんすよ、龍狩りなんてのは。イブキのおっさんは
「ああ。確かにあの
むぅ。ちょっと納得行かないなぁ。なんとなく、それだけが理由じゃない気がするんだよ。最高位に認められるような冒険者が、本当にそんな些事を気にするんだろうか。
「でも、なるほどね。無茶な仕事じゃなくて、十分に勝機が見込めることなんだったら、一枚噛むのはありかもね。
「じゃあ行こう!」
「いくらなんでも即答過ぎません?」
トレイシーの言う通り、千載一遇のチャンスとも言える。龍狩りなんて、最高の浪漫だからね。何事も、経験あるのみだよ。
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