ダンジョンの秘密を探して

「冒険だよ、冒険!」

「いえーい」


 仲間も増えたし、取り敢えずテンション上げていこう。


「まぁそれはいいんすが、なんかあてでもあるんすか?」

「ないよ!」


 いつもてきとうに直感で行動を選んでいるのに、たまたま必要なときだけ都合よくあてがある、なんてあるわけないよね。仮にあったとしたら、先にそっちに行ってただろうし。


「ので、新入りくん! どこか気になるところはあるかね?」

「お、直感の見せどころってやつ? ちょっと待ってね、するからさ」


 準備? なんだろう。

 そう思っていると、トレイシーは何処からともなく短剣らしきものを取り出した。収納術ストレージは異界にもあるんだね。


「お待たせ。こいつを持ってないとね、あんま直感が働かないんだあ」

「冒険の相棒的なやつね。分かる気がするよ」

「相棒、か。そだね、おれたちにとってはみたいなもんだけど、そっちのが格好いいや。今度からそう言おっと」


 名前を見てみる。『探索者の短剣ダウザー』と名の付いたそれは、どう見ても一点物だった。超欲しい。大事そうにしてるけど、特に特別な効果とかはないみたい。直感どうこうについては多分、気持ちの問題だね。トレイシーが持ってる異界のもので、なんか要らないものとかないかな?


「さあ行こうぜ、相棒ダウザー。むーん……。……そうだなあ、近場だと、あっちのほうが気になるかもって感じ? 危険度も、そんな死ぬほどじゃあないと思う!」

「直感つってもてきとうすぎんだろ」


 あっち、と指す方を見る。記憶によると、あっちの方角には、近いところに初心者向けのダンジョンがあったような気がする。たまたまかもしれないけど、何も把握していないはずの直感としては、精度が高過ぎるような感じがする。


「あっちが気になるんだね。地図があるともっと正確にわかったりするの?」

「ん。そうだね。おれの十八番おはこと言ってもいい! 単に面白そうなものを探すってだけなら、よ」

「本当かよ……」


 見習いは、疑わしそうな目でトレイシーを見ている。気持ちはわかるけどね。流石に自信過剰だと思う。

 近辺の地図を持ってきたら、トレイシーは迷いなくダンジョンの位置を指した。


「具体的には、ここだね。何このマーク? 未知っぽくはなさそうだけど」

「初心者向けのダンジョンがあるんだ。駆け出しの冒険者はよくお世話になるの」

「なるほどね。聞いてる限りではそんな面白そうでもないけど、行ってみればわかるよね。おれもこの世界でまともな戦力になるかはよくわかんないし、当たって砕けよう」


 そういや、戦闘能力に関しては何も意識してなかったね。只者ではないとは思っていたけど、戦えるかどうかは別の話だろうし。


「じゃ、早速行ってみようか。装備とか持ち物は大丈夫? あと、何か要らないもの持ってたら見せてほしいな」

「おれは大丈夫だよ。特にあげられそうなものは持ってないや、ごめんね。……ダウザーはあげないかんね。他のは見つけたらあげるけど、これだけは駄目」

「そっか。残念」


 欲しがってたの、やっぱりバレてたね。大丈夫、取り上げたりしないよ。


----


 到着です。ここが目的地の、


「だん!」

「ジョン!」

「……仲いいっすね、あんたら」


 呆れた声で見習いは言う。せっかく仲間が増えたってのに、ノリが悪いね。トレイシーは逆に、わたしの期待に対して察しが良すぎるかもしんないけど。


「ここがそのダンジョンってやつ? なんか、みたいな場所だねえ」

「そうだね。色んなアイテムが湧いたり、魔獣を倒してドロップ品を獲得したりして、冒険者はそれで生計を立てることもあるんだ」

「ふーん……? 役割としては、資源の生産施設的な感じでもあるのかなあ」


 わたしたちは最初から「そういうもの」としか認識してないから、特に疑問も何もないけど、トレイシーにとっては不思議なものらしい。異世界の常識ってのも興味あるね。


「そっちの世界……ホロウェンバークスだっけ? には、そういうのなかったの?」

「ないねえ。……いや、あったんだっけ? まあ、普通はないよ」


 一度断言したけど、トレイシーは途中で首を傾げていた。皆無というわけでもない、ということだろうか。あるいは記憶が曖昧なのかな?


「何にしろ、ここは好きに探索しても、誰も咎めない場所ってことだね?」

「いや、俺は咎めるぞ。ある程度はいいけど、無駄すぎることはしっかり止めるからな」

「大丈夫だよお。独りでやる時よりは、ちゃんと効率良くやるって。……じゃあ、まずはあの隅の方かな」


 トレイシーは迷いなく部屋の隅に向かっていった。


「何かあったよ。コインみたいなやつ」

「わぁ、それ見たことある! 『探索者の証』とかいうやつでしょ? なくしたと思ってたのに、まだあったんだ」


 まだ駆け出しの頃に、くまなく探していたから見つけられたものだ。当時もちゃんと持って帰ろうとしてたのに、いつの間にかインベントリから消えてたから悲しかったな。


「ナズナはこういうの好きそうだよね。取り敢えず記念に持っていこうかな」

「うん、大好き。トレイシーもそういうの好き?」

「そだね。普段は見つけるだけで満足して放っとくんだけど、これは一旦持っとかないと駄目なタイプのやつかなって」

「そっか。そういえば、探すのが好きなだけって言ってたっけ。トレイシーって変わり者だね」


 見習いは「お前が言うのか」みたいな顔をしている。わたしが変わり者なのは特に否定しないけど、トレイシーが変わり者なのも事実だから、別にわたしは間違ってないと思うな。


----


「何だあ、この露骨な装置はあ……」

「触るなよ、警報トラップだ。作動するとモンスターが大量に湧いてくんぞ」


 見習いはトレイシーに、ダンジョンの罠について教えている。先輩って感じだね。いいじゃん。


「なるほど。つまり、触ると兄さんに怒られるやつだね。……困ったなあ。超触りたい」

「何でだよ。言っとくが、振りじゃねえぞ。絶対触るなよ。……絶ッ対だからな!」

「……はあい」


 トレイシーは、警報トラップに興味津々といった様子だね。トレイシーなら何となく、本来説明されるまでもなく触らないようなものな気がするけど。


 うずうずしていたトレイシーは、こっちに寄ってきて小さな声でぽそぽそと話しかけてきた。幼児かな? かわいいね。


「ナズナあ。おれ、アレ触りたいんだよね」

「どうして? 見習いが言ってる通りの罠だよ?」

「でもなあ。って思うんだよねえ。出てくるモンスターはおれが責任持ってなんとかするからさ、ちょっと兄さんを連れて、しばらくここから離れててくんない?」

「直感ってやつ? そういうの、大事だよね。でも、危険だからそれは駄目。そんなのより、もっといい方法があるからね」


 内緒話をしながら、チラチラと見習いの方に視線を送っておくと、見習いも寄ってきた。ちょっとイライラしてるみたいだね。


「何をコソコソ話してんすかねぇ? 俺には聞かせられないような相談すか?」

「そんなことないよぉ。ねぇ? トレイシー」

「そうだね、ナズナ。怒られそうだけど、別に聞かせられないってわけじゃないかなあ」

「うんうん、ちゃんと分かってんなぁ。……ならもう正直に言えよ、新入り」

「ええー? いちいち聞かなくても、何となく分かるでしょ? 怒られるの嫌だし、言いたくないなあ」

「言わなくても既に怒ってるから、安心して言いな」


 ふたりが話している間に、こっそりとその場を離れる。トレイシーは触りたいけど、触れない。わたしは触る必要はないけど、触れる。だったら両方合わせれば、よね。


「おりゃあ!」


 ガチャン、と作動させた警報トラップから、けたたましい警報が鳴り響き、モンスターの群れが現れる。久々に見るけど、やっぱ結構な量だね。


「いや分かっちゃいたけどマジで何やってんすか姐さんー!?」

「いい運動になるかと思ってね!」

「せめてちゃんと宣言してからやれって、ついさっきも言いましたよねぇ!?」

「ごめんねえ、兄さん。ちゃんと責任は取るからさあ」

「んなこと言っとる場合か! さっさと逃げんぞ!」


 見習いは逃げる気満々だね。わたしも、普段ならそうするだろうけど。


「いいや、おれは逃げないよ。このまま殲滅戦だ。おれのわがままに付き合う必要ないし、兄さんもナズナも退避してていいよ」

「私も付き合うよ。大丈夫、多分いけるって!」

「正気かよあんたらぁ! 付き合えばいいんでしょもう!」


 結果が分かってても敢えてやりたかったのは、つまりそういうことだよね。


----


「いやあ、苦しい戦いでしたな! お二方、ご協力感謝感謝だよう」

「……そうか? 少なくともお前は余裕だったじゃねえかよ……」


 やっぱりというべきか、トレイシーは特に危なげもなく戦闘をこなしていた。相手もそんなに強いのはいなかったけど、例の短剣を使った独特の刀剣術、只者ではないことがわかる。


「長期戦は疲れるからねえ。おれ、あんま体力ないし」

「息も切らしてるようには見えねえけどな。……んで、迷惑までかけた結果は満足か?」

「そうだね。んじゃないかなあ、多分」


 わたし? インベントリには…… 何か『蛮勇者の証』とかいうのがあるね。いつの間に?

 名前もちょっと失礼だけど、レアアイテムだと思うので、全部許しました。


「これかな? さっきのコインに似てるね」

「なるほど、そんな感じなんだね。となると、あとんだろ」

「あぁ、そういうことかぁ。一個じゃ足りなかったってことだね?」


 つまりは『証』が何個かあって、全部集めるとより嬉しい、そういう仕組みなんだね。


「よくわからんすが、姐さんも新入りも、その何の効果もないコインを集めてるんすね?」

「そうそう。一つだと意味なくても、全部集めたら何かあるかもしれないでしょ? というわけで、これ預かっといて」


 見習いに『蛮勇者の証』を渡しておく。わたしには似合わない気がしたし。見習いにはもっと似合わないけど、いいでしょう。リーダー権限です。


「何で俺に渡すんすか。荷物持ちなら新入りでもいいでしょうに」

「みんなで探して、分担して持ちたいの! 勝手に捨てないでね!」

「まぁ、いいっすけど……。預かるだけっすからね」


 仲間外れはよくないからね。浪漫ってのはみんなで探さないと。


★☆★☆★☆★☆


探索者の短剣ダウザー

(装備効果なし)

 探索者に類稀な直感力を与えるとされる、異界からもたらされた片刃の短剣。


『探索者の証』

 汝、注意力に長ける者。広く視野を持ち、常に油断なく行動すべし。


『蛮勇者の証』

 汝、戦闘力に長ける者。驕ることなく賢明に行動し、分の悪い争いを避けるべし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る