第12話:決意と帰路

 真壁基氏と真壁碧純は、実家での滞在を終える朝を迎えていた。


 佳奈子と忠信の承認を得て、二人の関係は新たな段階に進んだ。


 朝食のテーブルで、佳奈子が穏やかに言った。


「基氏、碧純、昨日話したこと、ちゃんと覚えててね。真壁家の跡取りとして、あなたたちに期待してるわ」


「あぁ、分かったよ、母さん。けど、急に言われても頭整理しきれねえよ」


「うん、ママ、私たち、ちょっと考えさせてね。でも、お兄ちゃんと一緒にいられるなら、嬉しいよ」


 佳奈子が笑顔で頷いた。


「そうね。急がなくていいわ。二人で幸せになってくれれば、それでいいんだから」


 忠信が無骨に呟いた。


「基氏、お前、猟の手伝い忘れんなよ。猪が増えてる」


「分かったよ、父さん。次帰る時にな」


 朝食後、二人は荷物をまとめ、駅へ向かう準備をした。


 佳奈子が玄関で見送りながら、手作りの漬物を渡した。


「基氏、碧純、これ持って帰りなさい。つくばで食べてね」


「ありがとう、母さん」


「うん、ママ、ありがとう。また帰ってくるね」


 忠信が縁側から手を振ると、二人は水郡線に乗り込んだ。


 電車の中で、碧純が基氏に寄り添った。


「お兄ちゃん、ママ達が認めてくれて、なんか安心したよ」


「あぁ、俺もだよ。けど、世間がどう思うか、まだ分からねえな」


「うん。でも、私、お兄ちゃんと一緒なら、なんでも乗り越えられるよ」


「……お前、強くなったな」


「だって、お兄ちゃんがそばにいるからだよ」


 基氏は碧純の手を握り、窓の外を見た。


 山間の景色が流れ、つくば市への帰路が近づいていた。


 アパートに戻ると、二人は荷物を解き、リビングで一息ついた。


「お兄ちゃん、夕飯どうする?」


「実家から持ってきた漬物あるだろ。それで何か作ってくれ」


「うん、じゃあ、簡単な炒め物にするね」


 碧純がキッチンに立つと、基氏は原稿に向かった。


 新作の締め切りが迫っていたが、心は軽かった。


「母さん達が認めてくれたなら、もう逃げなくていいのか」


 執筆が進む中、碧純が料理を運んできた。


「お兄ちゃん、ご飯できたよ。山菜炒めと味噌汁だよ」


「美味そう。いただきます」


「いただきます」


 食事をしながら、碧純がぽつりと言った。


「お兄ちゃん、私たち、これからどうする?」


「どうって……一緒に暮らすだろ。お前が学校卒業するまでは、ここでな」


「うん。でも、その後は? ママ達、真壁家の跡取りって言ってたよね」


「あぁ、そうだな。俺、作家ならどこでも書けるし、大子で暮らすのもありか」


「私もいいよ。お兄ちゃんと一緒なら、どこでも幸せだよ」


 基氏が笑った。


「お前、ほんと甘えん坊だな」


「だって、お兄ちゃんの彼女だもん。甘えてもいいよね?」


「あぁ、いいよ。お前、俺の大事な女だからな」


 碧純が基氏に寄り添い、肩にもたれた。


「お兄ちゃん、私、ずっとそばにいるよ」


「俺もだよ。お前と一緒なら、なんでもやれる気がする」


 その夜、二人は寄り添って眠りについた。


 新たな日常が始まり、兄妹を超えた関係が根付きつつあった。


 翌日、碧純は学校でクラスメイトと話していた。


「真壁さん、実家に帰ってたんだって? どうだった?」


「うん、楽しかったよ。家族とたくさん話してさ」


「お兄ちゃんとも会えたんだよね? いいなぁ」


「うん、お兄ちゃん、大好きだからね」


 笑顔で返す碧純だが、心の中では「恋人でもあるんだよ」と呟いていた。


 一方、基氏は編集者から連絡を受けた。


「茨城先生、新作の進捗どうですか?」


「あぁ、順調だよ。もうすぐ送れる」


「良かった。読者、妹物楽しみにしてますよ」


「……分かった。けど、そろそろ違うジャンルも挑戦したいな」


「え、マジですか? でも、茨城先生の妹物は唯一無二ですよ」


「そうか。なら、もう少し続けるよ」


 電話を切り、基氏は苦笑した。


「お前のおかげで、妹物しか書けねえよ、碧純」


 その夜、碧純が帰宅すると、基氏がピザを注文していた。


「お兄ちゃん、またピザ?」


「あぁ、都会の味だろ。お前、好きだろ?」


「うん、大好きだよ。お兄ちゃんもね」


 二人は笑い合い、ピザを食べながら未来を語った。


「お兄ちゃん、私、卒業したらどうしようかな」


「お前がしたいことやれよ。俺、支えるから」


「うん。なら、お兄ちゃんと一緒に暮らして、料理とかもっと上手くなりたいな」


「いいよ。お前、俺の専属シェフになれ」


「やった! お兄ちゃん、私のことちゃんと見ててね」


「あぁ、見てるよ。お前、俺の大事な女だからな」


 二人は手を握り合い、新たな決意を胸に抱いた。


 実家での対話が、二人の絆を強めた。


 佳奈子の思惑通り、真壁家の未来を担う可能性が見えてきた。


 だが、世間の目や将来への不安はまだ残っていた。


 二人の愛は、試練を乗り越えられるのか。


 つくば市での生活が続き、二人の物語は新たな章へ進んでいた。


 それは、二人だけの秘密と幸せに満ちた未来だった。


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