第10話:新たな日常と隠された思惑
真壁基氏と真壁碧純は、朝の光が差し込むリビングで向かい合って朝食を食べていた。
昨夜、二人は兄妹を超えた関係を認め合い、初めて異性としての距離を縮めた。
基氏が碧純の額にキスをした瞬間から、二人の間に流れる空気は変わっていた。
「お兄ちゃん、味噌汁どう?」
「あぁ、美味いよ。いつもありがとうな」
「うん。お兄ちゃん、私のことちゃんと見てくれるようになったよね」
「……あぁ、見てるよ。お前、女としてな」
碧純は顔を赤らめ、小さく笑った。
「嬉しいよ。お兄ちゃん、私、ずっとこうなりたかったんだから」
「俺、駄目な兄だよ。お前をこんな風に思っちまって」
「駄目じゃないよ。お兄ちゃん、私のこと愛してくれてるなら、それでいいよ」
基氏はコーヒーを啜り、目を逸らした。
心の要石が崩れた今、碧純への愛情と欲望が混ざり合い、抑える必要がなくなっていた。
だが、その先に何が待つのか、不安もあった。
その日、碧純は学校へ行き、基氏は原稿に向かった。
新作の妹キャラは、もはや碧純そのものだった。
「お前がそばにいるから、こんな話しか書けねえよ」
苦笑しながらキーボードを叩くが、締め切りが迫る中、執筆は順調だった。
夕方、碧純が帰宅すると、基氏はキッチンで夕飯の準備をしていた。
「お兄ちゃん、珍しいね。料理してるの?」
「あぁ、お前いつもやってくれるから、たまには俺がな。カレーだけどいいか?」
「うん、大好きだよ。ありがとう、お兄ちゃん」
テーブルに座り、カレーを食べながら、碧純がぽつりと言った。
「お兄ちゃん、私たち、これからどうなるの?」
「どうって……一緒に暮らしてるだろ」
「うん。でもさ、私たち、兄妹じゃなくて、恋人みたいだよね」
「……そうだな。お前がそれでいいなら、俺もそう思うよ」
「嬉しいよ。お兄ちゃん、私、お兄ちゃんの彼女でいいよね?」
「あぁ、いいよ。お前、俺の大事な女だよ」
碧純は目を輝かせ、基氏の手を握った。
「お兄ちゃん、私、幸せだよ」
「俺もだよ。けどさ、母さん達にどう説明すんだよ」
「……そっか、ママとパパに言うの、難しいよね」
「あぁ。俺たち、血縁じゃないけど、兄妹として育てられたんだから」
「でも、私、お兄ちゃんと一緒にいたいよ。ママ達に反対されても」
「俺もだよ。けど、少し考えようぜ」
二人は笑い合いながらも、心のどこかに不安を抱えていた。
その夜、佳奈子から電話がかかってきた。
「基氏、元気? 碧純はどうしてる?」
「あぁ、元気だよ。碧純もな」
「そう。仲良くしてるみたいね。ふふふっ」
「……何だよ、その笑い」
「何でもないわよ。基氏、碧純のことよろしくね」
「あぁ、分かったよ」
電話を切った後、基氏は違和感を覚えた。
佳奈子の声に、どこか含みがあった。
「母さん、まさか気づいてるのか?」
実は、佳奈子は二人の関係を薄々察していた。
基氏のシスコンぶりと、碧純の兄への執着を昔から知っていた。
「ふふふっ、基氏と碧純が結ばれれば、真壁家の跡取りも安心ね」
夫・忠信にそう呟くと、彼は黙って農具を磨いていた。
「佳奈子、お前、企んでるな」
「企むなんて人聞き悪いわよ。ささやかな願いよ」
佳奈子は、基氏と碧純が結ばれることを望んでいた。
血縁ではないとはいえ、我が子同然に育てた二人が幸せなら、それでいいと思っていた。
翌日、碧純は学校でクラスメイトと話していた。
「ねえ、真壁さん、『茨城基氏』の新作楽しみだよね」
「う、うん、そうだね」
「妹物最高だよ。お兄ちゃん欲しいなぁ」
「……私、お兄ちゃんいるよ」
「え!? ほんと!? どんな人?」
「優しくて、ちょっと変だけど、大好きだよ」
「いいなぁ。私もそんなお兄ちゃん欲しいよ」
笑顔で返す碧純だが、心の中では複雑だった。
「お兄ちゃん、私の恋人でもあるんだよ」とは言えなかった。
帰宅後、基氏がリビングで原稿を読んでいた。
「お兄ちゃん、ただいま」
「お帰り。夕飯、ピザ頼んだぞ」
「やった! 都会の味だね」
ピザを食べながら、碧純が切り出した。
「お兄ちゃん、私、クラスで『お兄ちゃんいる』って言っちゃった」
「そうか。どうだった?」
「羨ましがられたよ。でも、私、お兄ちゃんのこと恋人だって言えなかった」
「……そりゃそうだろ。世間じゃ兄妹だもんな」
「うん。でも、私、お兄ちゃんのことちゃんと彼女として愛したいよ」
「俺もだよ。お前、俺の大事な女だからな」
碧純は基氏に寄り添い、肩にもたれた。
「お兄ちゃん、私、ずっとそばにいるよ」
「あぁ、俺もだよ」
二人は寄り添いながら、新たな日常を受け入れていた。
だが、その幸せな時間に影が忍び寄っていた。
数日後、佳奈子から荷物と共に手紙が届いた。
『基氏、碧純、元気にしてるみたいね。そろそろ実家に帰ってきなさい。話したいことがあるわ』
「……母さん、何だよ、これ」
「ママ、何か企んでるのかな?」
二人は顔を見合わせ、不安と期待が入り混じった。
佳奈子の思惑が動き出し、二人の関係に新たな試練が訪れようとしていた。
新たな日常が始まったばかりの二人に、どんな未来が待つのか。
それは、まだ誰も知らなかった。
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