プレイリスト

PCで苔を育てる人

プレイリスト

もうずいぶんと


長い時間電車に揺られている気がしたが


ふと意識を向けると


まだプレイリストの2曲目が始まったばかりだった


あるいは


もう既にプレイリストは一周してしまって


それで最初に戻ってきたのだと説明される方が


余程自分の感覚と近いように思われたが


今し方到着した駅から推察するに


やはりそれ程の時間は経っていないようだった


乗り換えだ


こう乗り換えばかりしていると


この電車は


果たして私を送り届けるつもりが


あるのだろうかと問いただしたくなる


しかし問いただすまでもなく


その答えはNOである


電車はただ決められた時間に


決められたレールを走っているだけであり


仮に乗客が1人もいなかったとしても


素知らぬ顔でダイヤを遂行するだけだ


今のところはまだ運転手という存在があり


そのおかげで不気味な無機質さはないものの


それもやはり時間の問題に違いない


思わず


完全に無人化して自動で走り続ける電車と


それだけを残して


文明が衰退してしまった世界を夢想する


地球の周りを月が回るように


皇居だったその周りを


山手線と呼ばれる”デンシャ”が


ただ無機質に回るのである


文明が衰退した後に


わずかに生き残った人類が


それが遥か昔に栄えた超科学文明の


産物であることを知る術はなく


偏西風を利用して航海していた


かつての船乗りと同じように


ただただ便利な自然現象として


それを利用するのである


そして路線と時刻を教えこまれた犬に


荷車をひかせて


人はただそれに乗っているだけで


乗り換えを次々と終えて


文字通り一歩も動かずに目的地に到着する


私を本当の意味で


目的地まで送り届けてくれる


その乗り物が生まれるまでには


いやはや一度文明の衰退が


必要であることがわかり


ふと私は我にかえる


プレイリストは


そろそろ二周目を始めようとしていた

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