淡墨の深層 第三十七章 押し切られたのはソコだけ?
あやさんとマサヤさんが、まるで寄り添うようにツバキの二次会へと入って来たのを見たミサコから……
もう帰る……だから僕も一緒に出て欲しいとせがまれ、店を出て……
歩道から……ビルの隙間へと引きずり込まれ……
強引にキスを……されてしまった。
されて……しまった……?
された……ところまでは、確かに『その通り』だった。
『もしも』あの時、そこで直ぐに止めておけば……離れていれば……
ミサコが「一方的にしてきた」と、あやさんへも『報告』ができたんだ。
然しながら……『現実』には……
そのまま離れることもなく……ミサコの腰へ腕まで回して……
キスを『し続けた』のは、ミサコだけではなく……
僕も……『同罪』だったのだろう。
結局その夜は、幸い……
まゆなの時のような『そのままホテル行き』コースにはならなかった。
それもそのはず……そもそも僕自身にその意思が無いのだから、当然だったが……
あのビルの隙間から、僕にずっと腕を絡ませたままのミサコを……
腕を振り解こうと思っても、絶対に解けない強い力……否、彼女が自ら明かした『柔』で僕を捕獲したままのミサコを……
小田急線の新宿駅まで送り、帰らせた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日月曜日はシフト休、火曜日から通常勤務だったが……
週の中頃……出勤すると、カウンター業務のハルナさんから……
「れいくん宛に電話があったわよ」
携帯電話も無い時代……部屋へも電話を引いていなかった僕は、連絡先として店の電話番号を人へは伝えていた。
「昨日、れいくんが早番で上がった後に……上木さんて女の人から。電話を入れるよう伝えて下さいって」
え? あやさんから……電話解禁のお知らせ?
「わかりました……ありがとうございます、ハルナさん」
「彼女かしら~?」
「その『彼女』を……続けてもらえるかどうかの、瀬戸際なんですよ」
「あれ? でもよく電話来てたのって……高樹さんだったわよね? 最近は無いけど、別れたとか?」
ハルナさん……よく覚えていますね、みおさんのことを……。
ハルナさんは『ツバキメンバー』でもないし……言ってもいいかな。
「みぉ……高樹さんは、お母さまの療養のために、長野県へ引っ越しちゃいました。遠距離恋愛はしたくないって、お互いに確認し合って……別れました」
「ふ~ん。それでそのあとが上木さん……で? もう瀬戸際なの?」
「そ……そうなんですよ。とにかく今夜、電話入れてみます。ありがとうございました」
「まだあるのよ」
「え?」
「もう一本……本城さんて、若い女の子の声だったけど」
「!!」
ミサコにも店の番号、伝えてあったんだっけ。
「その子も電話欲しいんですって……それで瀬戸際なのね~、フフフ!」
「ハルナさん……なんか楽しんでません?」
「そりゃあまぁねぇ……進展あったら、また教えてね」
「わかりましたよ……もぉ……お昼のドロドロドラマじゃないんですから……」
「知ってる人の実話の方が、ドラマなんかより数倍面白いわぁ」
「はぁ……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その夜、先ずはあやさんへ電話。
「れい? 待ってたわ。色々と訊きたいこともあるし」
「それは僕も……一つだけ、先に訊いていい?」
「いいよ」
「マサヤさんと……よりを戻すの?」
その質問に、あやさんは直ぐには回答せずに……
些か呆れたような声で……
「あ~あ、それでかぁ!」
「それでって?」
「この前の二次会、マサヤと遅れて入った……あん時の私たち二人、そんな風に見えたんでしょ?」
「うん……見えた。ミサコも……そう思ってるってさ」
「え~? だってミサコちゃんて今、マサヤの彼女だよ」
「それも本人から聞いたけど……あの夜の段階でもう二週間近く会えてないし、電話もマサヤさん出ないって……嫌われたんじゃないかって、言ってた」
「二週間近くか……確かにここんとこのマサヤ、私と会ってたからね」
それで……だったのか。
ミサコも僕も、同じく『二週間近く』が共通していたのは。
「あやさん……マサヤさんと……どうして?」
「そんなのぉ……マサヤは友達なんだから、キミのことで相談してたに決まってるでしょ? あとその元凶のアイツ! シンはどう? 出てった?」
「いや……まだ居るよ」
「まぁ、この際シンの件は措くとして……とにかくお互いに、何かと誤解があるみたいね」
「うん。あの夜はミサコから、僕も一緒に出るようにせがまれて……最初は、そんなことしたら余計にこじれるからって諭したんだけど……押し切られて、結局は一緒に出ることになったんだ」
「そこまでは、私も見ていたわ。でも……押し切られたのはソコだけ?」
「え⁉」
「他にもあの子から……押し切られたコトが無かったのかって訊いてるの!」
「!!」
まさか……まさかあやさん、ミサコが僕にキスして来たことを知っている?
勿論僕は最初から、その件を隠し通すつもりは無かった。
問題は、どんなタイミングでどう伝えるのか……だったのだが……
もしも『あやさんが既に知っている』のだとすれば、それは想定外だった。
「あ……あの……」
「マサヤから聞いたのよ。彼、あのあと……『俺たち、あの二人に誤解されているんじゃないか?』って……『やっぱり二人にしておけない』って、外へ追って行ったの」
「・・・・・・」
「そしたら……れいが歩道からビルの隙間へ、誰かに引っ張られるように入って行ったのが見えたって……だから近くへ行ってみたんですって」
そんな……じゃあ、マサヤさんは一部始終を見ていた?
いや、だったら……自分の彼女がそんなことをしているのを目の当たりにして、なぜその場で止めようともしなかったんだ?
それにしてもマサヤさんは……どの辺りから見ていたんだろう?
「れい……」
「はい……」
「今から訊くことに答えなさい!」
「あ……はい」
電話越しとは言え……
あや捜査官に拠る、ロワイヤル・ホスト以来の尋問が始まってしまった。
しかも今回は……
みおさんとの『
ミサコとの『
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