淡墨の深層 第二十五章 曲を作った…聴いてくれ
一緒にバンドを組むこととなったシン。
彼女から追い出され『宿無し』だと言うので、アパートで暫くは同居させることにはなったものの……
酒癖が非常に悪く……
街中でもポケビンをラッパ飲みしながら歩き回り……
人にも絡んで、トラブルを起こしかねないヤツだと判明。
もう……同居させておくのも潮時だと、思い始めていた僕だった。
それでも部屋にいる時は……
二人で『バンド活動』らしきことができている点を……
僕はどこか、自分自身への免罪符にしていた面があったのかもしれない。
『らしきこと』とは……
まだメンバーもギターとヴォーカルしかいない状況で、スタジオを借りてジャムる段階ではないことは判っていたし……
ならばアパートの部屋……YANAHA CX7ならあるから……
ギターとシンセで『セッション』……
と、言ったところで……
シンはキーボードが弾けない。
ならば僕がシンセを弾くとなると……シンはギターも弾けないと。
この二人だけでは、楽器によるセッションは成り立たないのだった。
こいつ……ホントに以前、バンドでヴォーカル演ってたのかな?
そんな疑いを持ち始めたある夜……
またも酔っ払って帰って来たシンは……
直ぐにベッドに横になり、そのまま眠ったのかと思っていたら……
「れい……」
「なんだ……まだ起きてたのか」
「曲を作った……聴いてくれ。歌詞もできてる……」
と言って来た。
楽器の弾けないシンが、一人アカペラで唄った曲は……
バラッドだった。
黙って聴きながら、歌詞を書きとめた僕は……
「良い曲じゃん! 全然メタルじゃないけど……あ、バラッドでもアレンジ次第でメタルにできるから、アレンジは任せとけ!」
「そ~か?」
「歌詞、今書きとめたから……違ってたら後で訂正してな!」
コイツ……楽器は弾けないけど、コンポーザーとしての才能があるのかも!
バンド名は既に……“エリーゼ”と決まっていた。
「シンが一番好きなバンド……ライヴ・ワイヤーって言ってたじゃん?」
「ああ……」
「エリーゼではさ、上手なキーボードを入れて、シンフォニックな様式美メタルを演りたかったんだけどね」
「そうか~」
「でも、シンが作った曲は、シンの好きなように演っていこうと思うよ」
「うん……い~んじゃねぇ?」
「僕だってロックンロール系は大好きだからさ! ステージでの意外性を狙う意味でも、やっぱロックンロールなアレンジで演ろうぜ!」
「あ? ああ~」
「こうしたバラッドだけじゃなくて……もっとロックンロールな隠し玉、あるんだろ? そっちの楽曲は、頼むよ!」
「ああ……ロックン……ね。まぁな……」
そんなやり取りがあったせいか……
「これ以上、酔って人に迷惑をかけるようなら出て行ってもらう」件は、いつの間にか『立ち消え』のようになっていた。
しかし……
その夜のシンが、酔っ払っていたとは言え……
彼の、この時のテンションの低さの理由は……後に判明する。
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