淡墨の深層 第七章 今…そう白状したってこと? 

 「手の内明かす」と、前置きした上で……


「その人のことを知りたかったら、直近でどんな恋をしていたのかを知るのが一番」


 そう述べたあやさん。


 あまりにも真っ直ぐ心へと納まってしまったその言葉に、一層正直になれたのか……?

 それ以降……あやさんに誘導されるがままに答えてしまった台詞達が……


 二人のその後を決めてゆく。




「それでぇ? あの日、あ~んな大雨の中……みおさんと二人で、どこにいたの? まぁ決まってるとは思うけど……」


 「決まってる」ってあやさん、それって……

 チェックインしていたとか、言いたいの?


 落ち着いて……そのままを答えればいいんだ。


「三笠に………行きました」

「え⁉ どこかにチェックインしてたとかじゃなくて?」


 ああ……やっぱり……。


「だから……戦艦三笠。二人とも……初めてでした」

「あ……ああ、横須賀ね……東郷元帥の三笠か。ふ~ん……変わったご趣味のお二人ですねぇ」


「・・・・・・」


 四秒間……あやさんを、真っ直ぐに見つめてしまった僕だった。


「どうしたの?」

「い……いや……あやさんて……その……」


 てっきり「三笠って何?」とか「三笠山へ登山デート?」とでも訊かれるかと思っていたが……

 あやさん……ご存知でしたか。


「なぁに?」


 日本海海戦……東郷元帥……Z旗……。


「いや……なんでも……」


 確かに……自国の歴史くらいは正しく知っておくべきなのだが……

 単なるメタルねぇちゃん(本人は「パンク女」と言っていたが)の顔をしてその実、かなりの『歴女』だったみおさんのように……

 あやさん……まさか貴女もそうなのですか?


 しかし……『ソンナコト』とは関係なく、続けるあやさん。


「あの夜辺りを境に……れいもみおさんも、三次会……時々二次会もか。来なくなったよね?」

「そう……でしたっけ」


 と……ちょっととぼけてみた僕の態度は……

 続くあやさんの台詞に拠り、一切無駄だったことを思い知らされた。


「じゃあ、あの時は……みんなを巻いて……今夜と同じようにスパイ映画して……ここで始発を待って……二人で横須賀行った。それ以来付き合うようになって……三次会の時間はいつも、二人で過ごしていた……」


 一項目毎に、人差し指でテーブルを突いて……

 最後はその人差し指で銃身を作り、構え……


「今……そう白状したってことで、いい?」


 と……こちらへ銃口を突き付けて来たあやさん。


 なんて……察しのいい人なんだろう。

 でも今更……あやさんが知りたがっていることは、その通りだし……

 みおさんの『緘口令』に抵触するような内容までは……含まれていない。


「まあ大体その通り……です」


 しかしどの道このあと…『緘口令』を思いっきり破るが如き話題へと移行するであろうことは…

 この時点で、もう判っていた。

 その緘口令くちどめ部分をみんなに聞かれないために、あやさんと二人で『スパイ映画』よろしく…

 ここまで脱走して来たのではなかったのか。

 尚且つ……

 「まあ大体その通り」で、終わりにしてくれるあやさんではないことは……

 既に覚悟ができていた僕だった。

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