桜の咲く頃になると
千莉々(チリリ)
第1話 桜の咲く頃になると
4月だというのに、今日は肌寒い。
薄手のコートを羽織って電車に乗り、職場へと向かった。
改札を出て5分ほど歩くと、いつのも公園にさしかかる。
「今年も綺麗に咲いているな」
1本の大きな桜の木が満開だった。
桜を見ると子供の頃を思い出す。
10歳の頃、都会から少し離れた新興住宅地に引っ越した。
近くに山や畑があり静かな所だ。
小学校までの道沿いには木が植えられ、春になると桜の花びらが舞い散る。
幼稚園の頃から喘息を患い体が弱かったせいか、季節の変わり目には学校を休みがちだった。
先生に弱い子と思われ、心配されるのは少し嫌だったのを覚えている。
高校に入学する頃には喘息は出なくなった。だからといって、自分が元気いっぱいだとは思っていない。
今日もいつも通りに仕事を終え、午後5時半には帰り支度を始める。
短大を卒業し、24歳で転職し、今の会社は5年目になる。
事務職で、日々の仕事はほぼ変化はないかもしれない。
けれど、忙しかったり、失敗したり、上司に注意されたりと楽しい事などない。
仕事が楽しくないのは当たり前か……
社会人になった頃は、仕事で嫌な事があると家に帰ってもウジウジと悩んでいたっけ。
それが、ある時、会社を出ると職場での事をスッと忘れられる技を習得した。
実際には忘れているのではなく、気にしなくなるのだけれど……
子供の頃、体が弱かったことを同僚は信じてくれないほど、今は普通に暮らしている。
弱かった自分がいたから、普通に健康であることを嬉しく感じられる。
子供の頃の弱かった自分に言ってあげたい。
「未華子ちゃん、幸せですか? 大人になったら、わりと元気に暮らしていますよ。会社で嫌な事があっても、図太く生きているから安心して」
さて、今日は高校時代の友達と晩ご飯を食べる約束だ。
久しぶりだけれど、いつも会うとすぐに以前通りに話せてしまう。
お互いの近況報告や職場の愚痴など、色々と喋りながら、たくさん食べて、たくさん笑おう。
そして、ぐっすり寝て明日からも普通に暮らすぞ。
桜の咲く頃になると 千莉々(チリリ) @chiriri2424
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