詩集:幻灯回廊

神宅真言(カミヤ マコト)

永遠の孤独


『征服されざるもの』の名を誇る 孤高の毒薬が在る


  ・


それは静かに氷めいた表情で 唯 佇んでいるものの


ひと度覗けば 妖しき美の閃光に眼を灼かれ


曼荼羅めく迷路に千々に砕かれ


そして 透いた深淵に吸い込まれ 何処までも堕ちてゆく


  ・


気付いた時には もう手遅れなのだと思い知れ


美とは あたかも拒絶であり あるいは暴虐であり さりとて呪術であり


何億年の圧が凝縮されたその念たるや


もはや人の知り得る奇跡など 疾うに超えて久しくば


  ・


故に それは毒なのだ


征服されざる毒なのだ


魂を侵し思考を奪い光で総てを塗り潰し


狂気の絶頂へと突き落とす 純粋無垢なる孤高の毒


  ・


血を吸い死を食い されど穢されぬ強固な結晶は


人の意志など越えて尚 象徴じみて燦燦と


ただ冷酷に ただ静謐に


いつか その身が砕け散るのを 密やかに待ち侘びている



  ▽


詩のテーマは、ダイヤモンド。

その昔、ダイヤはひいて粉にすると毒薬になると信じられていたそうです。


そしてダイヤモンドの語源は、征服されざるものという意味のアダマスという語。

ダイヤは地球の奥深くで途轍もなく強い熱と圧力に途方も無い時間晒されてようやく完成するのだとか。

ただの炭素でしかないのだから科学的に考えれば毒になる筈は無いのですが、これらを合わせてみるに、相手を殺すぐらいのエネルギーは持っているかも知れません。


或いは、ダイヤには幾つもの伝説や逸話があります。呪いのホープ・ダイヤモンドを始め、枚挙にいとまが有りません。現代ですら、紛争地で採掘される血にまみれたダイヤがあり、また美しさに魅せられた人間達のドラマも産まれ続けています。


世界一美しい呪物──それがダイヤモンドなのかも知れません。


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