第6話 仲間外れ(昴視点)
「で、話って?」
勝也は明らかに嫌そうな顔をしながら、ニコニコと不気味な笑みを浮かべている京子にそう言った。
「ずっと言おうと思っていたのだけど、貴方たちいい加減その泥臭い喧嘩ではなくもっと違う喧嘩をしなさい」
何を言い出すかと思えばコイツ...! 殴り合いをやめろってことか?!
「はぁ? 突然なんだよ、お前が口出しするな」
ついカッとなり、声を荒らげてしまったが京子は動じることも無く笑みを崩さずに口を開いた。
「ちゃんと聞いてから発言して頂戴。そうね、例えばゲームとか!あ、勿論内容は私が決めたやつよ」
「ほんとお前は唐突だな、でも確かにな…その方がフェアだと思うし俺は賛成だ」
賛成だと…?!殴り合いを辞めるなんて私は絶対に嫌だ!
「はぁ?! ゲーム?そんな生ぬるいもんじゃ喧嘩した気にならねぇーよ!」
勝也に殴って貰えなくなるじゃないか...!じゃなくて、殴れなくなってしまうじゃないか!
「昴、まさか私に逆らうの?」
「えっ…?」
京子は先程まで浮かべていた笑みを崩しキッと眉を釣り上げた。
「いいのよ?私は昴の大事な家族がどうなっても」
額から嫌な汗が流れた。
「おい京子、それは流石に…!」
京子はカバンからクマのぬいぐるみを出した。
クマ吉くん…?! まて、学校に登校する前にはちゃんと私の部屋のベットに置いていたはずだ、いつ盗ったんだ…?
「昴の大事な家族…クマ吉くんを私が持っているうちは、私に逆らわないほうがいいわよ。この子の首なんて直ぐに引きちぎれるのだから」
「わ、分かった…分かったから、クマ吉くんには手を出さないでくれ!」
「聞き分けが良くて助かったわ!流石昴、いい子いい子」
腹立つなコイツ...! 殴りたいけどクマ吉を京子が持っている間は何も出来ない…
「ごめんな、クマ吉…お前を助けてやれなくて」
すると勝也は苦笑いをしながらこっちを見た。
「お前、マジで言ってんの?ぬいぐるみだよ?」
「は?クマ吉くんは私の大事な家族だ!それがぬいぐるみだとしても見捨てるわけないだろ!」
すると京子が何かを思い出したように「あっ」といった。
「そういえば勝也、貴方に話があるの、聞いて頂戴」
「えっ、嫌だ」
「なんでよ」
「だってなんか怖いもん」
「もんとか言わないで、気色悪い。言うこと聞かないと貴方のベットの下にあるものを学校に持って来て女子に見せびらかすわよ!そうねぇ、あの1番過激そうな陵じょ…」
「それ以上言うなぁ! 色々な意味でやばいからやめてくれ!!」
「りょうじょ? なんだそれ」
まるで私が居ないかのように2人で話しているものだから少し腹が立つ。
仲間はずれは嫌だ、意地でも話の間に入ってやる!
「昴は知らなくていいのよ。それに勝也と2人で話したいから昴は先に帰ってくれないかしら?」
私は知らなくていいだと?! しかも2人で話すとか…!
「私が居たら駄目なのか? 2人で何を話すんだよ」
聞かれたら困るって事か?だとするともしかして告白…?いやいや、何考えてるんだ私、京子が勝也に告白するなんてことがあるはずがないだろう。
あの2人だぞ? 長年一緒にいる私でもこの2人が仲良くしているところなんて見たことがないし、勝也は京子のことを本気で怖がっている。
だが、思い返してみると勝也を虐めている時の京子はいつも楽しそうで、私のときと違って遠慮がない。ってことはやっぱり京子は勝也を特別に思ってるのか…?
もし京子と勝也が付き合ってしまったらどうしよう。なんか嫌だ…
「心配しないで、直ぐに終わるから。昴は勝也の家で待ってなさい」
京子は早く帰れと言わんばかりの少し苛立ち紛れの視線を向けてきた。
「わかった…」
内容はなんであれクマ吉を京子が持っている限り京子の命令には逆らえない。
私には黙ってこの場を去り勝也の家に行く選択肢しかなさそうだ。
その後、学校を出てからも、ずっと2人が何を話しているのかを考えていたらあっという間に勝也の家に着いた。
ちなみに勝也の家は私の隣だ。
私と勝也の家はどこにでも建っているような普通の一軒家だがその向かい側にある主張の激しい大豪邸は京子の家だ。普通の家が並んだ住宅街に建っているのは場違いすぎる。
相変わらず京子の家はデケェな〜と思いながら勝也の家のインターホンを押すと勝也とそっくりな顔が現れた。
「あら〜昴ちゃんいらっしゃい。いつも遊びに来て貰えて嬉しいわ!入って入って!…って、あら?勝也と京子ちゃんは?」
「ちょっと遅くなるらしいです。私は先に家に行っとくようにと言われたので…」
この気さくで優しそうなオーラを放っている方は勝也の母親の優子さんだ。
勝也と顔は似ているが性格は明るくて優しい。そして雰囲気も穏やかで接しやすい。アホで短気ですぐ手が出る勝也とは大違いだ。
「あら、そうなの? 困ったわね、買い物に行こうと思ってんだけど勝也が居ないならやめておこうかしら。昴ちゃんを1人にさせる訳にも行かないし…」
「いえいえ! 気を使わせてしまってすみません…私の事は気にせず買い物に行って来てください、 勝也も直ぐに帰ってくる思うので」
「あら、そう? じゃあ買い物に行ってくるわね。勝也の部屋にお茶とお菓子置いてあるから先に食べていいからね」
そう言うと優子さんは家を出て行った。
登り慣れた階段を登って2階にある勝也の部屋に向かった。
部屋に入った私は少しくたびれている勝也のベットに腰をかけた。
小学生の頃から毎日のように来ている部屋だ。自分の部屋のように落ち着く。
「はぁ」と溜息をつきながらベッドに寝転んで枕を抱き締めた。
勝也の匂い…いい匂いとは言えないけれどなんか落ち着くんだよな。
もし勝也と京子が付き合ったとしたら、京子はこの匂いを私なんよりもずっと近くで匂えるんだろうな…って、何を考えているんだ私は...!
勝也に見られたら終わる、確実に。
なんか最近の自分が気持ち悪すぎて嫌になってきた…
お願いだから2人とも早く来てくれ、一人でいると余計なこと考えてしまいそうだ。
それに仲間外れにされてるようで気に食わない。
何だか腹が立ってきた私は手に持っていた勝也の枕を地面に向かって投げた。
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