永久アドレセンス

秋乃光

行くぜ! 制服デート!(……だよな?)

 高校の卒業式を終えて、大学の入学式を待っている春休み。


『チケットをもらったんだけど、暇?』


 かがみから某テーマパークに誘われた。


 鏡とは、おれの小学生の頃からのだ。

 中学までは一緒だったけれども、高校は別のところに通っていた。

 四月から、おれは大学に進学して、鏡は専門学校に行くのが決まっている。


『制服で行こうよ!』


 おれが『いいぜ!』と返事をしたら、服装を指定された。文化祭には来てくれていたし、おれも行っていたから、制服姿は見たことがある。でも、制服を着てどこかに出かけたことはない。


 巷で有名な“制服デート”ってこと……?


『おっけー!』


 デート?

 デートなのか?


 疑問に思いつつ、おれの親指はスマホの画面を滑っていた。今度の水曜日、開園時間の九時に現地集合と決まる。鏡曰く『水曜日がいちばん空いている曜日らしいよ』とのこと。


『当日、よろしくね』

『おう! 楽しみにしてるぜ!』


 わざわざ言わなかったけど、おれにとっては先週の卒業遠足ぶり。みんなで『たくさんのアトラクションに乗ろうぜ!』という作戦になり、園内を時計回りに練り歩きながら、視界に入ったアトラクションを片っ端から乗っていった。ただし、たくさん、だから、待ち時間の長いアトラクションはスルーしている。待ち時間がもったいないぜ!


 ――鏡は、どうなんだろう?


 ***


「おはよう!」


 おれは八時四十五分ぐらいに待ち合わせ場所に着いていた。周りにはおれと同世代の人たちとか、家族連れとかがいて、ぞろぞろと入場門に列を作っている。おれだけが並ぶわけにはいかないので、ちょっと焦っていたら、鏡は九時ぴったりに到着した。


「おは」


 いつもの鏡は頭の上のほうで二つ結び(※ツインテールじゃなくて、二つ結びは二つ結びでも髪の束を全部じゃなくて一部だけ結んでいる髪型。名称がわからないぜ)をしているけど、今日は頭に二つがくっついている。


「ここのネズミのキャラっぽくしたかったんだけど、……変かな?」


 お団子に注目していることに気付いた鏡が、そのお団子に触った。


「変じゃないぜ」

「そうなの?」

「おれもしてくればよかったぜ」


 受験期が過ぎたら床屋に行こうと思っていたのに行けてない。おれにしては伸びている髪を掴んで、それっぽくする。


「似合わないねえ」


 鏡は笑った。


 ほぼ毎日ラインのやりとりはしているけど、こうやって会うのは久しぶりだ。小学校や中学校の頃は保護者がついていたから、でこういう、ちょっと遠い場所に出かけるのは、初めてかもしれない。


「鏡は似合ってるぜ。なんていうか、すげー楽しみにしてきた人、って感じ」

「うん! すごく楽しみ。だって、だいぶ前に家族で来たっきりだし。ゴーカートで環菜とレースしたのを覚えているんだけど、もうないんだっけ?」


 環菜ちゃんは、鏡の妹。おれと鏡が高校三年生だから、中学三年生。時が経つのははやいぜ。


「なかったぜ」


 もしゴーカートがあったら、何回も競争してただろう。ああいうのって燃えるよな。


「? 桐生くん、調べてきたの?」


 あ。


「実は、卒業遠足で来たばっかりで」


 白状した。考えてみれば、隠すことではないぜ。


「そうなんだ。なら、案内してね」

「おう!」

「まずはこの列に並ばないといけないかあ……」


 鏡がおれの手を引いて、長い列の最後尾まで移動する。受付の人にチケットを見せるまで、鏡はずっと手を握っていた。


 ***


 前回来たときにはスルーした人気のアトラクションに並ぶ。アトラクションに乗っている時間の数倍は待たないといけないけど、待ち時間のほうが楽しいぐらいに、結構しゃべっていた。


「わあ!」


 次のアトラクションに向かう途中で、着ぐるみに出会う。……着ぐるみって言っちゃいけないんだっけ?

 鏡が急いで近付いていって、着ぐるみが両手を広げた。


「待って!」


 そのまま抱きつきそうだったから、思わず声が出る。今日一きょういちばんの大きな声が出た。


「え?」


 鏡が寸前で踏みとどまる。


 べ、別に、相手は着ぐるみだし! おれと鏡はその、友だちだから、気にすることじゃない! はず! どうかしてるぜ桐生きりゅう貴虎きとら


「お、おれも写りたいぜ!」

「そうだねえ。……あの、すみませーん! 写真を撮っていただけませんかあ?」


 通りすがりの家族連れに声をかけにいく鏡。


 鏡って、知らない人に声をかけられるようになっていたんだ。おれが初めて鏡に出会ったのは、小学校の入学式の日。鏡は隣の教室に入っちゃって、誰にも聞けずに困っていたところを、おれが助け出した。


 小学校の六年間プラス中学校の三年間プラス高校の三年間。

 十二年以上経てば、こうなるか。


「ポーズ、どうしよっか?」


 戻ってきた。鏡のスマホは、家族連れのおかあさんに託されている。

 ポーズって言ってもピースぐらいしか思いつかないぜ、って、鏡の質問に答えようとしたら、着ぐるみがおれと鏡の背中をぐっと押してくっつけた。


「わっ!?」

「どぁっ!」


 おかげで、衝突事故みたいな写真が撮られている。

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永久アドレセンス 秋乃光 @EM_Akino

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