第7話 突然の訪問者
「邪魔するぜ」
すると、入り口から酷いガラガラ声がきこえてきた。女将から離れて見ると中折れ帽を被ったトレンチコートを来た男が立っていた。隣には図体のでかい大男が睨んでいた。
私は瞬時に借金取りだと直感した。こいつらのせいで文子を死まで追い詰めた。確か父親が作った借金を闇金に借りてしまい、多額の利子で膨れ上がって一杯いっぱいになっているんだっけ。
「何の用だ」
「用も何も。俺達はそこのお姉ぇさんに貸した金を返すために来たんだよ」
私は文子を見た。彼女は血の気を引いた顔で「すみません。もう少ししたら……」と掠れた声で返した。
「もう少し、もう少し……一体いつになったら返してくれんだ?! あぁっ?!」
中折れ帽の男はカウンターに思いっきり手を叩いた。反動が大きかったのか、痛そうな顔をして手を振っていた。
私の頭の中に金の懐中時計があることを思い出した。女将に「文子さん、これを奴らに」と懐中時計を握っている彼女の手を触れた。
「駄目です」
しかし、サッと振り払うと、そっぽを向いてしまった。
「どうしてですか?! これさえあれば借金など完済できますよ」
「いけません。これはあなたがもらった大切なもの。それをあんな下衆な奴らに……」
「またあげます。何度でも。望むのならそれよりも高価なものをあげます。借金取りに身を売ってズダボロになるよりはずっといいです。お願いです。どうか。それを私に」
「……分かりました」
文子はようやく悪党どもに時計を渡す気になってくれた。名残惜しそうに奴らに差し出すと、中折れ帽の男は「おぉっ?! なんだいいのがあるじゃねぇかっ!」と表情をガラリと変えて受け取った。
「ほら、見てみろよ」
「新しい貨幣ですか?」
「馬鹿か。金だよ。金っ!! これは随分良いものをお持ちですな……どれどれ」
中折れ帽は偽物どうかを確かめるように隅から隅まで確認していた。文子さんが僕の手を握ってきた。彼らを前にしてかなり不安だったらしい。私は彼女を安心させようとしっかりと握り返した。
「うむうむ。ほほう、間違いない! 本物の金だ!」
すると、中折れ帽の男が時計を掲げた。その際、照明に時計が照らされてキラキラと光っていた。
「本物だと分かったんなら、さっさと消えてくれ」
私がそう言うが、中折れ帽あ静かにコートのポケットにしまうと、大男と顔を合わせた。
「確かにこいつの親父が作った借金は返せる……が、利子がねぇ」
「たんまりと貰わないといけねぇな」
二人の悪党がニヤニヤしながら文子を見ているのが分かった。この瞬間、奴らは文子の身体が狙いだと事が瞬時に分かった。
なんて下衆な奴らなんだ。叩き潰してやる。
私は文子に下がるように言うと、拳を構えた。すると、悪党二人は私の臨戦態勢をせせら笑った。
「おいおい、なに正義気取りしてるんだ」
「お前みたいな軟弱者が勝てる訳ないだろ」
中折れ帽と大男は鼻で笑った。私はその隙に距離を縮めた。まず、大男の股間に蹴りを入れた。油断していた大男は「ふぐっ?!」と悲鳴を上げて前に果敢だ。その後頭部を掴むと隣にいる中折れ帽に渡した。
「わっ、ちょっ、ふがっ?!」
中折れ帽は大男の
「文子さん、何か縛るものを」
「え? 縛るものですか……あっ」
文子は何か思い出したように奥へ消えると、少ししてロープを持ってきた。私は瞬時に彼女が自分の首を括るために用意した物だと直感したが、何も言わずに悪党二人の身体をグルグル巻きにした。
「おまわりは?」
「呼んでおきました。すぐに向かうと言っていました」
文子がそう言うと、ゾロゾロと警官達がやってきた。悪党二人を乱暴に外に運び出されていく。
(これでもう文子さんを苦しめるものはなくなった)
僕はホゥと安堵した瞬間、急に貧血みたいに視界がぐらついていた。文子警官が心配そうに私を見ていたが、何か答える前に意識を失ってしまった。
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