第24話 サルコとエリシアの恋
アイヌ民族と松前藩の間で行われた「シャクシャインの戦い」の時代をはじめ、蝦夷地(北海道)に対する監視の為、蝦夷地の諜報活動を行なっていたのが実は津軽藩の忍者たちだった。
現在の青森県津軽半島エリア(津軽藩の領内)にも過去にはアイヌ民族が住んでいた。アイヌは海沿いに住んでいることからも船を操る技術はアイヌ民族の方が高く、忍者たちが蝦夷地へ向かう船を出してもらう協力をアイヌに、お願いしていたと考えられる。
忍者とはお互い様で助け合っていたので、盗みだした交易品の数々も運び出すのはお手のものだった。お宝の倉庫を 火炎でひるませているうちにお宝を盗みだす事に成功した。
そうなのだ。ノンノはただ同然で叩かれた交易品の数々を盗み出すという荒技に出て、命を狙われていたが、実は…その時ノンノはアイヌ集落から離れた。他藩の藩士の家に助けを求め逃げていた。交易の相手でもあった津軽藩士の知り合いに2~3日泊めてもらい、その後津軽アイヌに助けを求めた。
アイヌの婚姻は、近親婚を避けるだけでなく、他集落との友好関係を密にすることで、他地域住民他と助け合いの関係を成立させておくことが重要だと考えられていた。
熊祭りのような冬の祭りは、他地域から食料持参で参加することから、配偶者を見つける絶好のチャンス。こうして…両家の親同士による話し合いがまとまり、好ましい異性と自覚すれば、女性からは男性に手作り刺繡の小物、男性からは自分が彫った小刀などを女性に贈る。そして相手が身に着けることで、確実に結婚の意志が相互に受け入れられたことになった。
このようなことから他集落との交友はあった。ノンノは津軽集落のアイヌのチセ(家)で子供が生まれるまでお世話になり、赤ちゃんを産んだが、町医がいる訳でもないアイヌ集落では、出産で命を落とす母親も少なくなかった。それはノンノも例外ではなかった。命が尽きる枕もとでその家の主に頼んだ。
「この子を……この子を……どうか蝦夷のメナシクル集落に渡して欲しいのです」
その赤ちゃんはスクスク育ち、1歳でノンノの生まれ故郷『メナシクル集落』に渡された。その子は男の子でサルコと名づけられた。
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ナミの先祖は、実は遠い昔シャクシャインの戦いで、メナシクル集落アイヌとシュムクルアイヌで結託して和人に報復した過去があったが、その時のシュムクルアイヌの末裔が現在の首長でその孫娘がナミだった。そして、その時のメナシクル首長の娘がノンノだった。
不思議な巡り合わせのもと時を超えて不思議な事件が繰り返される。
実は…ナミの数代前にさかのぼると、美しい女性がいた。エシリヤと言う17歳の少女だ。
盛んに交易が行われていたアイヌ民族は他の集落とも盛んに交流していた。そして…イヨマンテ(熊送り)は蝦夷地ではアイヌ集落ではどこでも恒例の行事として執り行われていて、若い男女が他集落から集まるお祭りでもあった。だから…イヨマンテ(熊送り)は恋のキューピットの場所でもあったのだ。イヨマンテの夜エシリヤは若い青年と知り合い2人は恋に落ちた。
それが何とあのノンノの息子サルコだった。
だが、なんと言うことだ。2人の恋は許されなかった。どういうことかというと、美しいエシリヤは首長の娘として度々交易に参加していた。
それは何故かというと、エシリヤが、アイヌの着物は「チカルカルペ」、「ルウンペ」、「カパラミプ」、「チヂリ」の4種類に分けられているのだが、“ガラス玉”であったアイヌ女性が正装するときに、身につけなくてはならない首飾りは、色・サイズとも様々なガラス製の装飾品で、カラフルで非常に綺麗で女性の目を釘付けにする装飾品の数々だった。
着物自体が非常に個性的でエキゾチックであるのに、更に煌びやかな首飾りをつけて出掛けていたエシリヤだったのだが、当然モデルとして父が連れて行っていたのだが、美しいエシリヤとその衣装が余りにもマッチしているので飛ぶように売れた。
エキゾチックな顔立ちのエシリヤが、身につけたアイヌ女性の正装姿は当時着物が主体だった和人に、強烈なインパクトを残した。
要するに美しいエシリヤが身につけたものは、和人の女性に飛ぶように売れたので、それに味を占めた首長が、今でいうモデルとして交易の場所に連れ出していたのだ。
そんな時に50歳の着物問屋の当主に見初められてしまったエシリヤだった。それも東北随一とも称される呉服店「丸大」だった。
アイヌのシュムクル集落首長の娘といってもそれは集落では通用するが、世間一般には訳の分からない集団で、和人からは人間扱いされていないような時代だ。
そんな差別の対照だった我らアイヌと縁組みしたいとは、夢のようなあり得ない話であった。首長はどんなことをしても「丸大」当主の側室にと前向きになっている。だから…どれだけ他に好きな人が居ると言っても2人の恋に耳を貸さない。
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純真で汚れのない2人はこの恋に命をかけている。それなのに首長の父イクラムはガンとして聞き入れてくれない。大反対でどうしたら良いものか思案に暮れる2人だった。
サルコはエシリヤのことが諦めきれない。
「俺はエシリヤがいない人生なんて考えられない。どうしたら良いんだ?」
「私だっていくら和人と言っても、33歳も年の離れたおじいちゃんみたいな人の側室になるなんて絶対にイヤ!結局呉服店丸大を掴んでおけばシュムクル集落が安泰で、心配がなくなるからなのよ。それは親の勝手でしょう。私は絶対にイヤよ!」
「俺たちどうしたら良いんだ。ぅうううん…困ったものだ。そうだ!夜中に船で交易のある千島列島に渡ろうではないか?まさか…千島列島くんだりまで逃げようとは思わないだろう。ここにいたら絶対に側室として丸大に嫁ぐことになる。どうだエシリヤついてきてくれるかい?」
「当たり前じゃないの。呉服店丸大の当主の側室になるのは死んでもイヤ!お金には不自由しないかもしれないけど……そんなの絶対にイヤ!」
サルコは首長の孫だ。船は自由に調達できる。
こうして夜中に2人で夜逃げを決行して千島列島のある島に到達できた。
だが、美しいエシリヤを諦めきれない呉服店「丸大」当主には凄まじい執着があり、じわりじわりと追い詰められていく。
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