ハイパーインフレお金映画
ちびまるフォイ
みんなが見るしかない映画
指定された場所は金塊でできたカフェ。
周囲には誰もいない。
「おおい、こっちこっちでーーす」
「あ、どうも。はじめまして……。
すごい店ですね。でも他に客はいないんですか」
「私が貸し切りにしました。はした金ですよ」
「ひえええ。こんな金塊まみれの高そうな店なのに」
「それより大事な話があります。
実はあなたに映画を作ってもらいたい」
「映画……ですか」
「私はあなたの才能に惚れているんです。
ですからこのカードを使ってください」
「クレジットカード?」
「ハイペリオン・ブラックホール・カードです。
ここに書かれている金額なら好きなだけ使っていいです」
「こ、こんなに!?」
パッと見でいくらかわからないほど膨大な金額だった。
あらゆる世界の映画の制作費を合算しても遠く及ばないだろう。
「私は映画撮影する能力はないですが、
石油王なのでお金はあります。だからあなたにお金をたくします」
「でもこんな……使いきれませんよ」
「使い切れなければ差し上げます。ただし……」
「ただし?」
「絶対に、ヒットさせてください」
最後に圧かけられて映画の話を受けることとなった、
絶対にヒットしなければ許されないらしい。
「これだけのお金……どう使うか」
軽く国家予算を超えてしまうほどの金額が、
今は自分の手の中の小さなカードに収まっている。
とにかく金をかけていい作品を作るしか無い。
世界的に有名な脚本家全員をよびつけた。
「君たちは世界史に残る映画の脚本を書いてもらう。
一番良いものを書いた脚本家には賞金をやろう!!」
金をかけて脚本も妥協しなかった。
脚本の地下トーナメントをして競争心を煽る。
賞金も出し惜しみせず、優勝しても面白くなかったら作り直し。
多額の資金をかけても、軍資金が尽きることはない。
何度もリテイクを重ねて脚本が完成した。
「ようし! 金をかけた脚本ができたぞ!
次にキャストの用意だ!!」
世界中の豪華ハリウッドセレブたちをキャストに呼ぶ。
出演料がどれだけ高くてもまるで問題なし。
有り余るお金がすべてを可能にしてしまう。
マネー・イズ・パワー。
「すごい豪華なキャストが揃えられたぞ!
ようし、やっと撮影開始だ!!」
もちろん機材にも妥協しない。
世界で一番いい撮影カメラと撮影スタッフ。
セットもお金をかけて良いものを作り上げた。
CG技術も世界で一番有名なスタジオに依頼して、
高品質で実写と見分けつかないほどのものを作る。
「こっちは金があるんだ! 絶対に妥協しないぞ!!」
キャストやスタッフが撮影中に飲む水ですら、
世界最高品質の水を提供するほどのバブリーな撮影。
あらゆるものに金をかけて、妥協の芽を摘み取りまくった。
そこまでしてもお金はまだまだ有り余る。
とうてい使い切れない金額だった。
お金をしっかりかけただけあって、撮影は滞り無く進む。
あらゆるトラブルは金が解決してくれた。
ついに映画も完成を迎える。
編集を終えたパイロット版を見て納得する。
「うん、完璧だ。高品質でリッチな体験ができる映画になったぞ」
手応えを感じ、関わったスタッフにはお金を追加で渡した。
その日の夜。
昔なじみの映画監督から誘いがあった。
呼ばれた場所は赤ちょうちんが見える、近所の汚い居酒屋だった。
「お、久しぶり」
久しぶりに会っても距離感は変わってなかった。
「なんかお前変わったな」
「そうか?」
「前はそんなに服にスパンコールつけてなかった」
「まあ、今はお金有り余ってるから」
「そりゃすごい。こっちは毎日映画撮影でカッツカツだよ」
「まだ映画を?」
「もちろん。そろそろ試写も予定しているんだ。
ああそうだ。せっかくだから見ていくか?」
「え、いいのか!?」
「映画監督仲間のよしみってことさ」
しこたま飲んでから、監督友達の家で上映会となった。
相手のだけ見るのはフェアじゃないので自分のも持っていった。
「じゃあ上映するぞ」
上映会が始まる。
相手の映画を見た瞬間、負けを確信した。
映画が終了すると膝から崩れ落ちた。
「え! そんなにつまんなかった!?」
「いや逆……逆だよ……。面白い……。
これまで公開されたどの映画よりもよかった……」
「よかったぁ。それじゃ次はお前の作品だな」
「……その前に、お前の映画の公開日いつ?」
「4月6日」
「同じ日に公開かよ……」
制作費では天地の差があるだろう。
安いカメラを使い、無名のキャストに、監督自ら脚本を担当。
それでも、自分の金かけまくった映画よりも
あきらかに面白いのは自分でもわからされてしまった。
こんなのが同日に公開されたら、
中身スッカスカの成金映画だというのがバレる。
「どうした? 顔色悪いぞ?」
「やっぱり帰る!!」
「あ、ちょっと!?」
いたたまれなくなり部屋に戻った。
あれだけお金をかけて滑ることは許されない。
金はまだまだ余っている。
今から映画を再撮影し直すか。
いいやもう無理だ。
惜しみなくプロモーションもしている。
やっぱり公開しませんは通らない。
どうすればいい。
どうすればこの映画をみんなが見てくれる。
金だけが手元にあるのに、映画はつまらない。
この状況をなんとかしないと……。
「そ、そうだ!!」
映画はそのままにお金を使って策をうった。
映画が公開される。
予想通り誰もが映画館に足を運び、映画を見てくれた。
みんながこの映画を見てくれるので興行収入も高い。
大ヒットと言えるだろう。
ふたたび金塊カフェに呼ばれた。
「ブラボー。監督、やはり私の目は正しかった」
「お約束どおり大ヒットさせましたよ」
「そのようだね。あの映画を見ない人はいないほどだ」
「ええそうでしょうね」
「しかし驚いた。お金を渡してもうまくいかない人は多い。
けれど君はしっかりお金をかけても大ヒットさせた。
いったいどうやったんだい?」
石油王は不思議そうに訪ねた。
映画大ヒットの理由をよどみなく答えた。
「お金をたくさん積んで、自分以外の映画をすべて非公開にさせました」
今日も映画館には同じ映画しかやってない。
ハイパーインフレお金映画 ちびまるフォイ @firestorage
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