第14話 ルクヴェスの焦り

ルクヴェスたちが入学式を終え、日の流れはあっという間だった。

午前中に授業を受け、食事をした後に午後の授業が始まる。

夕方には寮に戻り、夕食を各自取った後は眠る生活。

とても健康的で、平和だった。


ー-しかし、それが彼にとって苦痛でもあった。


自分が授業を受けている間にも、妹は危険な目に遭っているのかもしれない。

このまま生活を送っていていいのだろうか?


「ルヴィ…」


布団に丸くなり、唯一の家族の名前を呟きながら、どうか無事であってくれと祈りながらルクヴェスは眠りにつくのだった。






「わーい!お昼です〜!ルーク、お昼ご飯食べに…ってあれ?」


次の日いつもの様にエイルと学校生活を送っていた中、お昼時間になった途端ルクヴェスの姿が見えなくなった。いつも一緒にいる相手がいなくなると違和感を感じるだろう。エイルは教室を出て何となく廊下から周りを見回す。すると同じクラスメイトのルナが此方に向かって歩いてきた。

探し物をしているような態度のエイルに、首を傾げながら彼女は声を掛けてきてくれた。


「エイルどうしたの?」

「ルナちゃんでしたか!ルークを見ませんでした?」

「ルクヴェス?えっと…あ!門の方に向かって歩いてたのをみたよ」

「え!お昼休みに院内から出るのは、確か禁止事項でしたよね?」

「確かそうだったような?うーん、でも何か必要なモノ買いに行ったのかもしれないよね。きっとルクヴェスの事だから授業までに戻ってくるよー」


確かにその可能性もあるだろう。しかし、ここ数日の彼は心ここにあらずという様子だった。その違和感を捨てきれず、エイルはよし!と決める。


「エイルくんルークが心配なので街に行ってみます!」

「え、本当?!」


まさかそこまでするとは予想しなかったのか目を見開き驚くルナだったが、エイルの表情を見ると、何かあると悟ったのだろう。少し躊躇いながらもわたしも行く!とついて行くのだった。






「ルークー!」

「ルクヴェスー!どこー?」

街の広場に着いた二人は声を上げて彼の名前を呼んでみる。

お昼時もあって人が多い中、彼を見つけるのは一苦労だった。

特徴的な白髪の姿を見かけ、急いで駆け寄ればこちらの苦労を知らない様子で振り返ってきた。


「エイルにルナ。こんな所で何してるんだよ」

「いやいやそれはこっちの台詞ですよルーク?」

「新入生のお昼時間に街を出るのは校則違反だったんだよ。ほら、戻ろう?」


今なら急いで戻ればお昼の授業には間に合うだろう。

そんな事を思っている二人だが、ルクヴェスの答えは予想外だった。


「…いや、俺はまだ魔導院に戻らない。あんたたちだけ先に戻ってくれ」

「え?」

「ルーク?」


不思議そうに見つめる二人に、ルクヴェスは俯きながら口を開く。


「授業だけ受けてるだけじゃ、妹を…ルヴィを探すことが出来ないんだ。だから俺は何か知ってる人がいないか聞きたい。この街は、色んな場所を行った人が立ち寄るって聞いたから」

「でも今はジア先生の言っていた様に必要なモノを手に入れるために学ばないといけませんよ」

「それでも!…俺は情報が欲しい。妹が生きている可能性を早く知りたいんだ」


何もしないでただ待つのは耐えられない。きっと無駄なことなんて言われるのかなと思ったルクヴェスは、そのまま二人から離れる。

しかし、次の瞬間エイルに手を掴まれた。


「何一人で探そうとしてるんですか、一緒に行きましょう?」

「え…なんで」

「ここに来る前にボク言いましたよね?ルークのお手伝いをするって」

「それは、そうだけど…」

「もう決めました!とも言いました。…今のルークのしたいことがそれなら、エイル君は一緒に手伝います」

「エイル…」


ニコッと笑みを見せるエイルに、ルクヴェスは胸が熱くなる。

そんな彼らを見て、ルナはもー、と唸り出した。


「そんな事言われたら、私も手伝うしかないじゃん」

「?、別にあんただけ戻ればいいんじゃないか」

「なんでそうなるの!いーから!私も妹さん探す!」


妹の無事を確認したいという、彼の意見に少なからずルナも何も思わなかった訳じゃない。

出来ることなら、兄妹は一緒にいたほうがいい事を良く知っているから。

こうして三人は時間を決め各自の人が沢山いる場所でルクヴェスの妹の目撃情報を調べ始めるのだった。






「本当か?」

「ああ、君に似た髪色の女の子だろう?うちの頭が確か保護したって言ってた気がするよ」


時刻は夕方を過ぎていた。日が落ちる頃から念の為三人で一緒に行動していた中、ずっと宛てのない情報にがっくししていた矢先、漸く出会えた妹の可能性のある情報。

ルクヴェスは頭の中でガッツポーズを見せた。これで漸く妹と会えるかもしれない。

しかし、その反面エイルとルナは不安を感じた。こんな都合よく情報が得られるものかと。


「よければ頭の所まで案内しようか?少しだけ街から離れた所だけど、僕がいるから怖くないよ」

「ああ、頼む」

「ちょ、ちょっとルーク?!」

「あの、少し話し合いさせてください!」


迷いなく回答するルクヴェスに思わずエイルとルナは急いで止め、少し距離を置いて三人でコソコソと相談をし始めた。


「なに普通に行こうとしてるんですか!どう見ても怪しいじゃないですか!」

「何でだよ、ルヴィの可能性があるなら会いに行ったほうがいいだろ」

「それはそうだけど、私たちだけより先生とか同伴で行ったほうが安全じゃない?」

「そんなの待ってられないだろ。早く行かないとその人たちが移動しちまう」


確かにそうだが…片方だけでも魔導院に戻って報告するか?と新たな案を出している間にルクヴェスは情報をくれた男に話しかけていた。少し距離があり、何か話しているようだが会話が聞こえない。近づいた矢先、次の瞬間バシン!と顔を殴られ、床に突っ伏された。


「ルーク!!」


エイルは急いで駆け寄り、ルクヴェスの状態を確認する。

頬が赤くなっているが、突然の衝撃で気を失っているだけのようだ。命に別状はないと分かりほっとしたのも束の間、男はエイル前にナイフを突き出した。


「いい子だから一緒にいこうか?勿論ついてくるよね?」


さり気なくルナの方を見ると既に違う男に腕を掴まれ声を出させないように口元はハンカチで塞がれていた。


「ー-!っ!」

「ほら、暴れるなって。怪我したくないだろ?」

「…っ、…」


目の前に武器を出されると、流石に大人しくなった。これは大人しく言う事を聞くしかなさそうだ。エイルはルクヴェスをぎゅっと抱きしめ、無言で頷いた。

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