第4話 そのヒロインは悪役に誘われる
放課後、俺はこぶし公園に向かっていた。
舗道さんを信じたわけじゃない。お礼をされたいわけじゃない。
けど気になったのだ。舗道さんと二条の関係。
ただのハーレム要因ではない、そんな気がしたから。
もし彼女がイヤイヤ二条と絡んでいるのなら、味方にできるかもしれない。
嫌な言い方になるが、彼女を通して二条とコノハの真実をクラスメートに広めることができる可能性だってある。
万が一二条もいて、全部俺を貶める罠だったら、ロードバイクで全力疾走して逃げるが。
こぶし公園は土手沿いにある古びた公園だ。
遊具は滑り台のみで、しかも錆びまくり。
誰も来ないせいか、砂場の砂もカチコチ。
雑草が生い茂り、夏には蚊や毛虫が大量発生するのだが、春の季節はそこまで虫はいない。
遠くから様子を伺ってみると、すでに誰かがいた。
ガーリーな可愛らしい服装の、女性らしき人影。
帽子にサングラス、マスクまでして、怪しさ満点。
けどあの長い黒髪はおそらく……。
「舗道さん?」
女性が振り返った。
「荒川くん」
「す、すごい格好だね」
「制服だと目立つし、正体を隠しておかないと、誰かがナルタにチクるかもしれないので」
「他の男と話すと、怒られる。だっけか」
「そう。だから演じなきゃいけないの。清楚で一途な幼馴染を」
清楚で一途な幼馴染を演じる?
どういう意味だろう。
辺りを見渡す。
二条が隠れている様子は、なさそうだ。
舗道さんがバッグから封筒を渡してきた。
「はい」
「なにこれ」
「5万円です」
「なっ!? い、いいよこんなの。てか労力と報酬が見合ってなさすぎ」
「そうなんですか? えっと、じゃあどうしよう……」
「だからお礼なんて……あ」
一本道路を挟んだ先に自販機があった。
いいや、適当なジュースでも奢ってもらって、お礼完了ってことにしよう。
それならお互い納得できるだろう。
「コーラ、買ってもらおうかな」
俺はコーラを、舗道さんはミネラルウォーターを手に、公園のベンチに座った。
さて、どうしよう。
二条との関係を深掘りしたいのだが、なんて切り出せばいいのやら。
元来、女の子と話すのが得意な性格じゃないから、手立てがない。
「あのあとタイヤ、交換しました」
「そ、そうなんだ。ていうか、敬語じゃなくていいよ」
「……男子との喋り方、よくわからなくて。気をつけま……るね」
よし、この流れで。
「さっき、演じてるって言ってたけど、どういうこと?」
「…………」
舗道さんが黙った。
深入りしすぎか。
少し絡んだ程度の同級生に喋ることじゃない。
それにたぶん、舗道さんは二条から俺のことを聞いているはずだ。
最低な男、として。
ダメだな、彼女を通して二条に復讐するなんてできそうにない。
期待するだけ無駄だったか。
「悪い、帰るよ」
「あっ、待って」
「ん?」
「私は、荒川くんは無実だって思ってる」
「え……」
「どうせナルタのシナリオでしょ」
「な、なんで……」
「小学校の時も、中学の時も、同じようなことがあったから。あいつは、認めざるを得ないけど、イケメンで身長もあって運動も得意でしょ。普通の女の子なら好きになって当然。だから、あいつは、他人を悪者にして、自分の株を上げつつ、他人の彼女を奪ったりしてきたの。何度も」
昔からやってたのか、そんなこと。
思い出してしまう。
コノハとあいつがキスをしたこと。
俺との通話中、性行為を匂わせる会話をしていたこと。
「トラブルが起きても、その度に他の友達や先生とかを味方につけて、切り抜けてきた」
「想像できるよ」
「だから私は、荒川くんが悪いことしたとは、思ってない」
一瞬思考が止まった。
目頭が熱くなった。
俺を蔑まない、信じてくれる人がいる。
それだけの事実が、今の俺に多大なる精神的動揺を与えた。
「舗道さんは、好きじゃないの? 二条のこと」
「小さい頃は、幼稚園の頃とかは、好きだったと思う。幼馴染だったし、まだナルタも普通のカッコいい男子だったから」
別に軽蔑することでもない。
そのくらいの年頃なら当たり前だ。
恋や愛の意味もわからず、なんとなく近しい異性を好きになるものだ。
「けど今は……怖いの。あいつは私を、理想の幼馴染であるように強要してくる。あいつの理想の髪型、理想の口調、理想の性格、得意科目も苦手科目も、服装も友達も、ぜんぶあいつの理想通りでないと、怒鳴って手を上げる」
暴力を振るわれていたのかよ。
彼女のチャームポイントである長い黒髪や、今日の昼飯時に幼馴染マウントを取ったり、何なら今着用している可愛らしい服装も、全部二条が決めたことなのか。
「従わなくていいだろ」
「無理だよ。だって私のお父さん、ナルタの父親の部下みたいなものだから。仕事で凄い損失をしたときも助けてもらって、お母さんも感謝している。二条さんの子と仲良くしなさい。喧嘩なんかしちゃダメだ。そんなことになったら我が家は終わりだ。……なんて、命令されてるから」
いつの時代の上下関係だよ。
娘の人権を奉仕に使ってるのか。
「それに私、もともと臆病だし。だから私は、一生あいつの奴隷……」
ポロポロと、舗道さんの瞳から涙がこぼれだす。
「怖い、怖いよ。いつかあいつに抱かれるのが、キスしなくちゃいけないのが」
「まだ、してないんだ」
「あいつのシナリオでは、2年生の……今年の秋の文化祭で私と感動的なラブストーリーを演じたあと、私の家でして、そのまま本格的に彼女にしたいって」
なんだそのくだらない予定は。
どんなこだわりだ。
ていうか、その予定通りに事を進めるってことは、いずれ二条はコノハを捨てるんだな。
「親同士も私とあいつが付き合うことを望んでいる。結婚することも。子供も二人、男の子と女の子を産めって。どうせ専業主婦になるんだから、大学に行かなくてもいいだろって」
吐き気すら覚える。
あの野郎は自分さえ良ければそれでいいんだ。
この世のありとあらゆる存在が、自分のために存在していると本気で思い込んでいるんだ。
「それまでは、あいつのハーレムの中の、朗らかで清楚だけど独占欲もある幼馴染ヒロインの一人でいなくちゃいけない。
そして俺は、あいつを引き立てる悪役。
「意味分かんないよ。何がヒロインその2なの? 私に一途な愛を求めるなら、あいつだってせめて一途に私だけを好きでいなきゃ不公平でしょ?」
二条に一途な愛なんて求めても無駄だろう。
気分はハーレム主人公様だからな。
きっと結婚しても平気で浮気するさ。
「私、本当は髪を短くしたい。茶色に染めてみたい。好きな服を着て、本当に気の合う友達と遊んで、少しくらい悪いこともしてみたい。好きなように笑ったり、嫌いな人の愚痴とか垂れたり、アイドルのライブにも行ってみたい。私の人生は、あいつのために存在しているわけじゃない!!」
「…………」
「私は、普通の女の子なんだよ」
そうだ、その通りだ。
舗道さんの人生は舗道さんのもの。
俺の人生は俺のもの。
決して、二条ナルタのために存在しているわけじゃない。
あの勘違い野郎に教えてやる、お前もただのちっぽけな人間に過ぎないってことを。
「なんか、改めて腹が立ってきたな」
「へ?」
他人の人生を弄んで、遊びのつもりで。
頭のイかれたサイコ野郎がよ。お前はそんなに偉いのかよ。
「嘘を暴いて、コノハや二条をギャフンと言わせられたらそれで良いと思ってた。でも、例えそれが成功しても、あいつらはきっと同じことを繰り返す。舗道さんが解放されるわけじゃない」
「あ、荒川くん?」
「あいつのクソみたいな
いいぜ二条。
お前から宣戦布告、しかと受け取った。
本当の悪役になってやるよ。
お前の人生に立ちふさがる強大な悪にな。
俺が再起不能になるか二条の人生がぐちゃぐちゃになるか、どちらかにしか到達できない戦争だ。
「だから俺が舗道さんを救う」
「荒川くん……」
「好きに生きようぜ。舗道さんも」
舗道さんの瞳に輝きが宿る。
けれどその光はすぐに消えて、彼女は俯いた。
「でも、きっと無理だよ」
「時間は掛かるかもしれないけど、絶対にやるさ。それに」
「ん?」
「俺は黒髪ロングより茶髪ショートの方が好きだ」
「え、別に荒川くんのために髪を切りたいわけじゃ……」
「あ、いや、その、ごめん。そうですよね、はい」
「……ふふっ」
自分を主人公に見立てることは悪ではない。
だが、だからって他人の人生を踏みにじって良いわけじゃない。
「一緒に歩もう、それぞれが主人公の青春を」
「少し、考えてみる……」
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※あとがき
ざまぁもしたいしヒロインともイチャイチャさせたい。
どちらもやらなきゃいけないのが、寝取らねざまぁラブコメのつらいところですね。
何話で収まるだろう。
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