底辺のクソ設定Vtuberなんだが、コラボ相手に百合営業持ちかけられて思いのほかガチっぽくて困ってる
国久野 朔
第1話 バイトいかなきゃ
「というわけでぇ。今日は一曲歌ってサヨナラだよっ。今夜のナンバーはぁ『呪詛☆呪詛☆蘇生』だよっ」
『暗闇の中ー 響き合いー♪
呪文が踊る 月の下ー♪
星が落ちて 影が笑うー♪
今夜は誰も逃げられないー♪
魂に刻む このメロディー♪
耳を塞いでも 聞こえてくるー♪
呪いのリズムが 胸を突く♪
呪詛が君を 呼び戻すー♪
も〜う一度だけ 生きてみてっ♪
のろいーをかけてっ☆ 』
「ハァ、ハァ……。みんなー! ありがとー! みんなのネクロマンサー・キング・オブ・ワームこと
…………。
あーづっがれだ……。
あたしはせまくるしい防音室の中で息をついた。
小さな空間にはPCとマイク、ゲーム機などの配信機材。
あ゛ーーーー!
オイオイオイオイ、同接三人ってか。
何のためにやってんだアタシはよぉ。
もう今年28歳だってのに。
あーあ、コメントすら流れやしねぇ。
クソがっ! 弱小とはいえ企業に所属したのに全然登録者伸びやしねーしいぃ。
ハァ……Vtuberになりゃあスパチャで左団扇だって思ったのによォ。
だいたいなんだよ
死霊術師なのか呪術師なのかハッキリしろよ!!!
だいたい、曲と歌詞合わせて五万円ってなんだよ。クソ安い作曲家もどきに依頼するからこんなクソみたいな楽曲がひりだされるんだろーが!
作曲家アレだろ。ぜってー『死霊術師イメージで』とか依頼受けて、理解しねーまま作ったろ!
だから呪術師だか死霊術師だかワケわかんねー
ブツが出来上がったんだろ!
……まぁ、安いヤツがいいって言ったのはあたしなんだけど。
だってだって、トップどころは楽曲に100万円以上かかるっていうんだもん! そんな金ねぇよ!
あとよ! キング・オブ・ワームってなんだよ! キングじゃなくてクイーンだろ! そもそも虫の王ってなんだよ! 意味がわからん! クソ可愛くない設定!
見た目は銀髪の美少女で悪くないけど、いかんせん衣装が黒いローブの一張羅。地味だわ、可愛くないわでどうにもならない
あー! マジでふざけんなよ、うちのクソ
あー! もーやだぁ!
ぐすぐすいいながら同じハコのVtuberの配信を開いた。うちの事務所、『星霜の
ガワも清楚な女騎士(天使の羽付き)で、声もカワイらしい。歌もトークも上手いし、飾り気もなくって好感しかない。
ちなみに見た目は騎士だけど皇帝という設定で、ファンネームは『臣民たち』だ。アタシのリスナーのファンネームは『ゾンビども』だ。なんだこの格差。
PCのディスプレイからは天使のようなセプ=ティムちゃんが満面の笑みで配信を開始した姿が映っていた。
『臣民のみなさま、ごきげんよう。あなたの皇帝、セプ=ティムですよ』
その瞬間、コメ欄に怒涛のごとくコメントが流れ出す。早すぎて目で追えねぇ。
「あ゛ーーー! ガワ゛イ゛イ゛なぁー!」
ハァ……。せっかくティムちゃんと同じ事務所になったってのによォ……。コラボも申請してるのに全然通りゃんしねぇ。
それどころか、discordやLINEなんかも知らねぇ始末よ……。
ああ、このままじゃアタシ、クビだな…… 。
転生したところで元ファンすらいねぇんだから上手くいくはずないしな……。
ネクロマンサーが転生ってのも皮肉だな……。
ぐっすん。
もうVtuberから足を洗うしかねぇのかなぁ……。
そのとき、スマホからてんてろてんてろメロディが鳴った。設定していたアラームだった。もう21時過ぎだ。
「あ……バイトいかなきゃ」
ティムちゃんの配信見たいところだけど、バイトしなきゃ生活すらままならない。
配信機材もバカ高いし、防音室にいたっては百万円をゆうに超える。そういうわけであたしは事務所に多額の借金があった。
あたしの部屋は防音室に空間のほとんどを占有され、ギリギリ寝れるスペースしか生活できる場所がない。ゆえに寝てもあまり疲れも取れない。
あたしは重い身体を引きずりながらバイト先のカラオケBOXへと向かうのだった……。
「えー、斉藤さんってぇ、名前『うめよ』っていうんですかぁー。ウケるぅー」
わたしは同じシフトに入った女子大生に絡まれていた。わたしの名前、『斎藤うめよ』を盛大にイジってきやがる。
なんつったって暇なんだもんね。客は二組。学生グループみたいなのと、若いカップル(呪)のみだった。
「そ、そうなんですよー。あははー」
あーあ、泣きたくなってくらぁ。
なんでこんなガキにナメられなきゃいけねーんだよ。
顔面に拳を叩き込んでやりたいところだけど、ここはグッとこらえる。バイト先を失うわけにはいかない。暇で楽なバイトだし。
クソがっ。だから若い女は嫌いなんだよ!
そうしてため息とともに数日がすぎた。
あたしはめげずに毎日配信していたが、同説は10人に満たず、歌みた動画も一向に伸びなかった。
そんなある日、あたしのスマホが鳴った。寝ていたので慌てる。時計を見ると2時だった。明るいから昼間だろう。
着信画面を見ると、なんと事務所だった。
あたしは血の気が引いた。
普段放置されているあたしに、事務所から連絡があるなんて理由はただひとつだった。
『契約解除』
の四文字があたしの頭の中で踊った。
なんでだよ! 別にあたしは事務所にとって毒にも薬にもならねーだろーがぁ!!!
とか葛藤しているうちに電話は切れた。
やだな……かけなおしたくねぇな……。
いつまでも夢にしがみついていられないのは分かっているけど、こんな形で終わりを告げられるなんて。
ハァ……。腹ぁくくってかけるしかねぇか……。
どうしよ……この先。
いや、まだだ。まだ契約解除時と決まった訳じゃねぇ。
あたしは意を決した。事務所へかけ直してやる!
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