ノワールヒストリア〜"神"が与えた役割に抗う魔王の娘の物語〜
更科キノ
#00 10セントの小宇宙
ボクは――ボクのことはいいか。
今ちょっとおもしろいことになっているので聞いてほしい――。
最初は、ただの思い出の品だと思った。けれどその中には――“物語”が詰まっていた。
勇者。魔王。神。そして――世界。
だけど、どこかがおかしい。よくあるテンプレのライトノベルやゲームとは違っている。
勇者が、世界を救ったんだという。
魔王は、討たれて当然だったんだという。
でも、それは“本当に正しい物語”だったのか?
記録には残らなかったもうひとつの“物語”。誰にも語られなかった“裏側”。
それが、このデータの中にはあった。
いつもと変わらない日常の中で、ボクは、そんな――“黒歴史”を見つけてしまったんだ。
あ。カッコつけすぎた。わけがわからないよね。その前の話を少ししよう。
高校生になったボクは、父さんの弟――つまり、叔父さんが子供の頃に使っていた、今は物置になってる部屋の片付けをしていた。
今のボクは弟と一緒の部屋。そろそろプライバシーも大事にしたい。
ボクは自分ひとりの部屋をゲットするために、親に交渉して今は物置になっていたこの部屋を確保した。
親が出した条件は、海外に行ったきり連絡が取れなくなってしまった叔父さんの荷物を、ボク一人で仕分けして片付けること。“試練”だそうだ。面倒だが仕方ない。
何十年も放置されて埃をかぶった段ボールたちを片付けようと漁っていると、叔父さんが使っていた勉強道具やジャケットにプロペラ飛行機のイラストが描かれたCD、どこかの国の10セントコイン、透明な石の中に土のようなものが入ったペンダントに混じって、ドット絵のキャラクターが書かれたノートや架空の地名、人物名が書かれた設定集、そして、うっすらとマジックで「deus ex machina」と書かれたフロッピーディスクが出てきた。
多趣味で、ものづくりが好きだった叔父さんは、中学生の頃にRPGを作ったと聞いた。きっとこれのことだろう。
いかにも厨二病全開の恥ずかしいタイトル……。黒歴史感満載だ……。だが、それがいい。
(どれどれ。どんな黒歴史が飛び出すのか……ワクワクする……)
そんな興味から、ボクはファイルを開いてみることにした。
……が。さすが前世紀の遺物。古すぎて簡単には開けない。
でも、最近流行の音声認識型生成AIコスモスなら何とかしてくれるかもしれない。ボクは試しに、この黒歴史のデータを解析させることにする。
「フロッピーディスクに入ってるのは昔のゲームデータなんだけど、中身を解析できるかな」
そう言ってボクはコスモスにデータを読み込ませる。
// status: system startup
// system: COSMOS V.7.2 [interface: narrative mode]
// user voice detected. Starting parsing protocol...
——解析を完了しました。ゲームデータの構造を確認・解析に成功しました。一部データが欠損している箇所がありますが修復は可能です。
――補足情報が必要です。重要なアイテムとして登場するペンダントについての情報が足りません。どのようなデザインにしますか? カメラにはっきりわかるように表示させてください。
え? ペンダントか……。デザインされてないってことかな……。そうだ。さっき見かけたやつにしよう。
「ええと。これでどうかな?」
ペンダントを拾い上げてカメラの前に持ってくる。
——画像を読み込めません。カメラにはっきりわかるように表示させてください。
「あれ? あ。ピントが合わないのか」
ボクはペンダントをさっきの段ボールに置いて、カメラを近づけて表示させる。
——画像を検出しました……スキャンしました。問題ありません。提供された情報で欠損箇所の補完を試みます。現代の形式として適切なものに再構築できますが、どうしますか?
いけるみたい。
「では、そのゲームデータを物語にして、いい感じに書き出して!」
——それでは、ゲームデータを再構築して物語として紡ぎなおします。
そう言うと、コスモスは滑らかに文章を書き始めた。
こうして、段ボールの埃が舞い上がるその部屋で、ボクの“小さな冒険”が静かに始まろうとしていた。
// next: act01 "#01 GLORY DAYS"
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