第4話 ウラギーリ森林での出会い
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名前: シュウザン ハム
Lv : 06
MP: 520/520
技能: 固有スキル 《自動翻訳》、《剣術初級》、《体術初級》
魔法: 《ステータス ヲ ミル》、《トマレ》、《初級魔法》
耐性: なし
称号: 『転生者』、『賢者候補』
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パーティーを組んで一月が経った。
「想像以上にレベルが上がらない……」
ほぼ毎日クエストに出かけているのに、まだ六レベル。このペースで行くと魔王討伐なんて何十年かかるかわからない。
魔王討伐。
俺は魔王を倒すことを目標にすることに決めた。
別にパーティーメンバーが張り切っているからでは無い。困っている人を見過ごせないという正義感からだ。…………決して、毎日のように浴びせられる期待の眼差しのせいでは無い。
「俺が魔王を倒せるとしたら、《自動翻訳》か」
最近気づいたことだが、《自動翻訳》スキルは単純な言語翻訳に留まらず、その人がどんな人かを名前でネタバレしてくるスキルだ。
「八百屋のおっちゃんの名前がヤオヤ・サァンだった時点で気付けたはずだったのに……」
ちょっとおかしいと思いはした。
テサッキー・マオーノを始め、ユーシャ・ニナール、ミカタゴ・トゴロス、シッタ・ガブリ。
個性的な名前が多すぎる。最初は異世界だしこんなにものかな、と思ったがそれなりに過ごすうちに違和感が確信に変わっていた。
「だからまぁ、俺が魔王の手先を看破したのは間違いなかったんだなぁ」
ただの勘違いでしかなかったが。
俺とほかの人たちが聞こえている、見えているものは少し違っているらしい。特に名前あたりが。
多分、世界の神的な力により呼び名がその人物のこの世界での役割を表しているのだ。
だからテサッキー・マオーノは魔王の手先だし、ユーシャ・ニナールはきっとこれから勇者になるのだろう。
「――あ、あのっ。ハムさん、います、か?」
コンコンっと扉をノックされる。
俺は思考を中断して慌てて扉を開けた。
「ごめん。もうギルドに行く時間だったか?」
「あ、い、いえっ。その、……一緒にお昼ご飯でもどうかなって……思って」
ちらりと上目遣いに見上げてくる。
何この可愛い生物。
「飴ちゃんいる?」
「え、飴……?」
「ごめん、なんでもない。……ちょっと待ってて。すぐに準備するから」
「うんっ!」
宿を出ると、昼時だからか通りには人がたくさんいた。
さて、何を食べに行こうか。
「ユーシャ、どこか食べに行きたいとこでも――」
「ねぇねぇ、最近オープンしたって噂のアコギーナレストランに行かない?」
「いいね。今日はそこに行こうか」
ちょうど前を通り過ぎたカップルの会話が聞こえてきた。
「……この間行った、フツゥーノレストランにでも行こうか」
「はいっ!」
レストランの味は普通に美味しかった。
☆ ☆ ☆
――ウラギーリ森林。
ハジマリノ街のすぐ近くにある森林で、この世界で俺が目を覚ました場所。
魔物が住んではいるが、比較的弱い魔物ばかりなので初心者にうってつけの場所だ。……名前が不穏だけど。
一ヶ月ほど、ここで魔物を倒しているが何か裏切りに合うようなことはなかった。
「せいやっ!」
威勢のいい掛け声と一緒に、ユーシャは子供ほどのサイズの小鬼――ゴブリンを切り倒した。
「ギャギャ!」
「わっ、しまっ」
ユーシャの隙を狙って跳びかかったゴブリン。
「《ヒ ヲ ハナツ》」
火の玉が空中にいるゴブリンに直撃する。ゴブリンはそのまま身体中が燃え上がり、苦しみ悶えているところをユーシャがトドメを刺した。
「あ、ありがとうございます! ハムさん!」
「前衛のサポートが後衛の仕事だからな。気にしなくていい」
「ハムさんが居てくれたら、本当に頼もしいです。……あ、私、レベルが上がったみたいです!」
「じゃあ休憩しながら確認しようか」
「うん!」
見晴らしのいい場所に座り込み、俺はユーシャに向かって手をかざす。
「《ステータス ヲ ミル》」
気の抜けた音と共に半透明の板が目の前に現れる。
この魔法は聞くところによれば、中級魔法に分類されるものだそうだ。そのせいか、ユーシャはこの魔法を使えない。
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名前: ユーシャ・ニナール
Lv : 23
MP: 820/820
技能: 《剣術中級》、《体術中級》、《反刃》、《硬拳》
魔法: 《支援魔法初級》
耐性: 《毒耐性》、《痛覚鈍化》
称号: 『駆け出し冒険者』
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「魔力はあまり上がってない……」
「ほかのところは上がっているよ。ほら、この間は《剣術初級》じゃなかったか?」
「本当だ! 上がってる!」
パァっと顔を輝かせるユーシャ。
剣士の適性が高いらしいユーシャは魔力の伸びが緩やかだが、技能の習熟が早いらしい。
そのため、似たり寄ったりだった技能の欄が俺の倍になっている。
「そろそろ別の場所に行った方がいいかもな」
「え……」
嬉しそうだったユーシャの顔が曇る。
無意識か、俺の服の裾をきゅっと握った。
「あ、あの……パーティーは解散……な、の?」
「違う違う! 王都とか、別の街に活動拠点を変えた方がいいのかなって! レベルが段々上がり難くなってきたから!」
「そ、そっか。そうですね。私も、良いと思います!」
俺は慌てて弁明すると、いつもの様子に戻ったユーシャがうんうんと頷いてくれる。
……あ。でも、確かハジマリノ街は。
「……その、勢いで言ってしまったけど大丈夫か? ユーシャはこの街で暮らしていたんだし、無理にとは」
「大丈夫だよ!」
ずいっと身を寄せてきた。
息のかかるほどの距離感で、ドキリと心臓が跳ねる。
「魔王を倒すためには旅に出ないと! 私、ずっと前から準備してきたからいつでも行けるよ! 今から出発する?」
「い、今すぐはまだ早いんじゃないかな……」
身体を仰け反らせると、距離が近くなっていたことに気づいたのかユーシャは慌てて身体を離した。
「ご、ごめん……なさい。その、ちょっと興奮しちゃって」
耳まで真っ赤にして明後日の方向を見るユーシャ。
何だろう、この甘酸っぱい空気は。俺が何を言っても雰囲気をぶち壊しそうだ。だからと言って何も言わないは何も言わないで気まずい。
「あ――」
雰囲気をぶち壊すことを覚悟で口を開いたその時。
底抜けに明るい声が聞こえてきた。
「こんにちはー! 何してるんですかー?」
声のする方を見てみると、猛スピードでこちらに迫ってくる人影があった。彼女は砂煙を立てながら俺たちの目の前で止まる。
犬のような耳がピンっと立つ。
「賢者候補様にユーシャちゃんじゃないですか! クエスト中ですか?」
「う、うん。そうだよ、ラレッタちゃん」
「お揃いですねー!」
にへへと笑って尻尾をパタパタさせるラレッタ。
獣人。ファンタジーでは定番の人と獣が合体した獣耳っ娘。耳と尻尾の特徴から、犬獣人かな。
「おっと、ごめんなさい。忘れてました、賢者候補様!」
「賢者候補様はやめてくれ。俺は、あー……シュージンだ」
「わっかりました! シュージンさん!」
ユーシャはわざわざ訂正するものでは無いからハム呼びだが、出来れば苗字で呼んでもらいたい。……シュージンも苗字じゃないけど。間違ってるし。
「それでは次はあたしが名乗ります!」
意気揚々に胸に手を当てて、溌剌とした笑顔で自分の名前を言った。
「あたしはウラギィ・ラレッタ! 皆からの愛されキャラ! ラレッタちゃんです!」
ウラギーリ森林で出会った少女、ウラギィ・ラレッタ。
《自動翻訳》スキルがこれまでと同じように機能しているのならば、ひとつ言えることがある。
それは、
――彼女はこれから仲間に裏切られるということだ。
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